Baaghi 4

3.0
Baaghi 4
「Baaghi 4」

 2025年9月5日公開の「Baaghi 4」は、タイガー・シュロフ主演のアクション映画「Baaghi」シリーズの第4作だ。これまで「Baaghi」(2016年)、「Baaghi 2」(2018年/邦題:タイガー・バレット)、「Baaghi 3」(2020年/邦題:シャウト・アウト)と作られてきたが、タイガー・シュロフが主演であること、彼の演じる役が「ロニー」というニックネームで呼ばれていること、そして戦闘力がやたら高いことだけが共通しており、それぞれ前作の純粋な続編ではない。「Baaghi 4」も、前作までとはストーリー上のつながりのない独立した作品である。

 監督はAハルシャー。カンナダ語映画界を拠点とする監督であり、ヒンディー語映画を撮るのはこれが初となる。主演はもちろんタイガー・シュロフ。ヒロインはハルナーズ・サンドゥーとソーナム・バージワーの2人だが、ハルナーズの方がメインヒロイン扱いとしていいだろう。悪役はサンジャイ・ダットとサウラブ・サチデーヴァ。他に、シュレーヤス・タールパデー、ウペーンドラ・リマエー、シーバー・アーカーシュディープ、スニート・モーラールジー、スデーシュ・レヘリー、マヘーシュ・タークルなどが出演している。

 舞台はチャンダーラーという架空の州になっている。自動車のナンバープレートを見ると「CA」ナンバーになっていたが、そのようなナンバーは実在しない。

 海軍軍人ランヴィール・プラタープ・スィン、通称ロニー(タイガー・シュロフ)は交通事故に遭い、昏睡状態のまま数ヶ月入院していた。ロニーは意識を取り戻したが、頻繁に幻覚を見るようになった。弟のジーテーンドラ、通称ジートゥー(シュレーヤス・タールパデー)が彼の世話をしていたが、幻覚を見たロニーは暴力的になり手を焼いていた。ジートゥーは精神科医アーナンド・パール・スィン(マヘーシュ・タークル)に、ロニーがアリーシャー(ハルナーズ・サンドゥー)という実在しない女性の名前を口にすると伝える。ロニーはアリーシャーを交通事故で死んだ恋人だと考えており、毎日彼女の墓参りもしていた。だが、HBP警部補(ウペーンドラ・リマエー)が捜査しても彼女の実在は確認できなかった。アリーシャーの姉キャサリン(シーバー・アーカーシュディープ)が運営していた孤児院は既に焼け落ちており、ロニーが毎日参っている墓もよく見たらアリーシャーのものではなかった。ロニーは自分が信じられなくなっていく。

 ジートゥーは、アリーシャーを忘れさせるため、ロニーの元にオリヴィア(ソーナム・バージワー)という売春婦を送る。オリヴィアは本名をプラティシュターといった。ロニーとオリヴィアは次第に心を通じ合わせていく。おかげでロニーはアリーシャーの幻覚を忘れるきっかけを掴んだ。ところが、ロニーは孤児院跡でアリーシャーが実在する決定的な証拠を見つけてしまう。ジートゥーも誰かから大金をもらってロニーに嘘を付いていた。ロニーはジートゥーを問い詰めようとするが、彼はロニーの目の前でパウロ(サウラブ・サチデーヴァ)に殺される。ロニーはプラティシュターがパウロと接触していたことを知り、彼女から情報を得ようとするが、彼女も殺されてしまう。だが、プラティシュターは死ぬ間際にロニーに、アリーシャーはまだ生きていることを伝える。

 アリーシャーを誘拐したのはチャーコー(サンジャイ・ダット)という裕福なマフィアだった。チャーコーにはアヴァンティカー(ハルナーズ・サンドゥー)という恋人がいたが、彼女との結婚式において敵対マフィアの襲撃を受け、アヴァンティカーは殺されてしまう。チャーコーは神にアヴァンティカーの蘇生を懇願した。すると、チャーコーの目の前にアリーシャーが現れた。アリーシャーはアヴァンティカーと瓜二つだった。このときアリーシャーはロニーと恋仲になっていた。そこでチャーコーは二人の乗った自動車を交通事故に遭わせ、アリーシャーだけ誘拐した。アリーシャーはチャーコーから結婚を申し込まれるが拒否する。それでもチャーコーが引き下がらなかったため、もし1年以内にロニーが自分のことを忘れたらチャーコーと結婚すると宣言する。そこでチャーコーはロニーがアリーシャーを忘れるためにあらゆる手段を尽くしていたのだった。

 条件だった1年の歳月が過ぎ去った。チャーコーはアリーシャーに、ロニーがプラティシュターと抱き合っている写真を見せる。アリーシャーはロニーと会わせるように要求する。チャーコーはパウロに命じ、警察署でHBP警部補といたロニーを捕まえ、アリーシャーの前に引き立てる。ロニーはアリーシャーからプラティシュターとの仲を詰め寄られ、彼女との関係があったことを認める。アリーシャーはチャーコーとの結婚を認める。その後、ロニーは拷問を受けるが、そこから脱出し、パウロを殺す。チャーコーとアリーシャーは教会で結婚しようとしていたが、そこへロニーが駆けつけ、それを止める。ロニーとチャーコーは死闘を繰り広げ、最後にチャーコーは倒れてきたイエス像の下敷きになって死ぬ。

 「Baaghi」シリーズは元々タミル語映画やテルグ語映画のリメイクばかりであり、この「Baaghi 4」もタミル語映画「Ainthu Ainthu Ainthu」(2013年)の非公式リメイクとされている。しかも、監督はカンナダ語映画界の人間だ。よって、ヒンディー語映画ながら南インド映画テイストが色濃い作品である。具体的にいえば、展開が極端すぎる。まるで中学生が勢いで書き上げた脚本に従って作られているかのようだ。だが、面白くないといえば嘘になる。極端に振れる展開を楽しむ作品である。

 基本的にはアクション映画だ。タイガー・シュロフはヒンディー語映画界の男優の中でも群を抜いて運動神経がよく、アクションをもっとも得意とする。そんな彼の持ち味を生かしたアクションシーンが目白押しだ。しかも、一人で多人数をなぎ倒すような無双系のアクションシーンが多く、爽快である。

 だが、根底には狂おしいほどの恋情がある。まず、主人公ロニーは、死んだアリーシャーを狂ったように追い求めていた。周囲から「アリーシャーは存在しない」「アリーシャーは幻覚だ」と言われても、ただひたすら彼女の存在を信じ、彼女を愛し続けていた。この一途な恋情が最終的には彼女の生存を導き出し、再会にもこぎ着ける。アリーシャーは幻覚ではなかったのである。

 もうひとつ、悪役チャーコーも愛に狂った人物だった。チャーコーはアヴァンティカーという、これまた無双系の女性を深く愛していた。だが、彼女との結婚式に敵対マフィアから襲撃を受けて彼女を失ってしまう。チャーコーは神に挑戦し、彼女を地上に戻すように命令する。その直後、彼はアヴァンティカーに瓜二つなアリーシャーを見つけ、彼女を付け狙うようになるのである。

 つまり、狂気ともいえるほど強い愛の力が善玉ロニーと悪玉チャーコーの両者を突き動かし、二人を巡り合わせ、そして決闘まで導いたのである。

 歌と踊りも優れていた。狂おしい恋の気持ちを歌ったパンジャービー語のバラード「Marjaana」をはじめ、「Rona Sikha Diya」や「Guzaara」など、恋心を歌った名曲が多い一方で、「Akeli Laila」や、「Jawan」(2023年/邦題:JAWAN ジャワーン)の「Besharam Rang」にそっくりな「Yeh Mera Husn」など、妖艶なダンスシーンもあり、バラエティーに富んでいた。この辺りのこだわりも南インド映画テイストのひとつだといえる。

 「Baaghi」シリーズはタイガー・シュロフにとって看板でもあり、気合十分に演技をしていた。むしろ「Baaghi 4」では女優の方に注目したい。ハルナーズ・サンドゥーは2021年のミス・ユニバースであり、パンジャービー語映画への出演を経て本作でヒンディー語映画デビューを果たした。アリーシャーとアヴァンティカーというダブルロールを演じており、どちらも魅力的だった。ミスコン出身女優ということになるが、演技力はある。おそらく2020年代後半の成長株になるはずである。一方のソーナム・バージワーはパンジャービー語映画界の人気女優であり、ハルナーズよりもキャリアは圧倒的に長い。彼女にも見せ場があり、実力を感じた。

 サンジャイ・ダットはすっかり悪役俳優として確立しており、今回も安定した悪役振りであったが、やはり注目したいのはサウラブ・サチデーヴァの方だ。「Animal」(2023年)、「Dhadak 2」(2025年)などでねちっこい悪役を演じ、ただ者ではない感を強力に醸し出している。彼の出ている映画なら観てみたくなるような魅力のある俳優である。

 「Baaghi 4」は、運動神経抜群のスター男優タイガー・シュロフが主演の「Baaghi」シリーズ最新作だ。毎回全く違った魅力を見せてくれるが、今回も前作までとはガラリと異なる雰囲気の作品になっている。南インド映画テイストが濃厚であったが、女優たちに新鮮さがあり、楽曲も良く、楽しく鑑賞することができた。興行的には期待通りの成功を収められなかったようだが、出来が悪いわけではない。タイガー・シュロフのファンならなおさら、迷わず観るべき作品である。