
2025年10月2日公開の「Sunny Sanskari Ki Tulsi Kumari(サニー・サンスカーリーのトゥルスィー・クマーリー)」は、ダシャハラー祭に合わせて封切られた2025年の期待作の一本で、いかにもダルマ・プロダクションズらしい豪華絢爛なラブコメ映画である。
プロデューサーはカラン・ジョーハルなど、監督は「Humpty Sharma Ki Dulhania」(2014年)や「Badrinath Ki Dulhania」(2017年)などで知られるシャシャーンク・ケーターン。メインキャストは、ヴァルン・ダワン、ジャーンヴィー・カプール、サーニヤー・マロートラー、ローヒト・サラーフの4人。
他に、アビナヴ・シャルマー、プラージャクター・コーリー、マニーシュ・ポール、アクシャイ・オベロイ、マーニニー・チャッダー、マッリカー・チャーブラーなどが出演している。また、カラン・ジョーハルが特別出演している。
宝石商の息子サニー・サンスカーリー(ヴァルン・ダワン)はアナンニャー・バーティヤー(サーニヤー・マロートラー)と恋に落ち、二人は2年間付き合ってきた。サニーは親友バントゥー(アビナヴ・シャルマー)の助けを借りてイタリア帰りのアナンニャーにプロポーズするが、アナンニャーはイタリアで親から紹介されたヴィクラム・スィン(ローヒト・サラーフ)とお見合いしており、彼との結婚を決める。ヴィクラムは大富豪の息子であった。
失恋したサニーは、ヴィクラムも12年間付き合ってきた元恋人を振ってアナンニャーとの結婚を決めたことを知り、彼の元恋人を探し出す。それは、学校の教師トゥルスィー・クマーリー(ジャーンヴィー・カプール)であった。トゥルスィーも失恋から立ち直れていなかった。サニーとトゥルスィーは、ラージャスターン州ウダイプルの高級リゾートホテルで行われるヴィクラムとアナンニャーの結婚式に乱入し、破談に持ち込むことにする。
サニーとトゥルスィーは偶然を装ってヴィクラムとアナンニャーの結婚式に入り込み、わざとらしくいちゃついて、彼らに嫉妬させる。彼らの作戦は成功し、ヴィクラムとアナンニャーは婚姻の儀式の前日に心変わりし、結婚しないことを決める。だが、結婚式の過程でサニーはトゥルスィーに真剣に恋するようになっていた。アナンニャーから仲直りを持ちかけられたサニーは、トゥルスィーを理由にそれを柔らかく拒否し、アナンニャーもそれを受け入れる。だが、トゥルスィーはヴィクラムから再度プロポーズされ、承諾する。それを見ていたサニーは、アナンニャーと共に去って行く。
アナンニャーは、ヴィクラムがトゥルスィーと結婚するという情報を入手し、サニーに伝える。サニーは再度結婚式に乱入し、破談に持ち込もうとするが、ヴィクラムの結婚相手はトゥルスィーではなくディンプル(プラージャクター・コーリー)という別の女性だった。トゥルスィーはヴィクラムの再求婚を最終的に断っていたのである。それを知ったサニーはトゥルスィーのところへ直行し、彼女にプロポーズする。
「Ghajini」(2008年)などの大ヒットをきっかけにして、また、南インド映画界のトレンドにも影響にされて、2010年前後からヒンディー語映画界はアクション映画全盛期を迎えた。アクション映画の隆盛はロマンス映画の退潮を意味する。だが、2025年はロマンス映画に復調が見られた年だった。「Saiyaara」(2025年)や「Metro… In Dino」(2025年)など優れたロマンス映画が現れ、興行的な結果を残して、時代の変わり目を予感させた。「Sunny Sanskari Ki Tulsi Kumari」も、安定して楽しめるラブコメ映画であり、その予感をまた一歩確信の方向へと向かわせた。
「Sunny Sanskari Ki Tulsi Kumari」は、結婚を主題とし、それをコミカルに、かつゴージャスに演出した、ヒンディー語映画界のお家芸的な作品である。だが、昔ながらの価値観を大切にしながらも、現代の世代に響くような新鮮さもプラスされ、新旧のバランスがよく取れた良作になっていた。
主人公は、それぞれの元恋人に振られた2人の男女、サニーとトゥルスィーである。サニーは宝石商の息子であり、上位中産階級に位置づけられる。月給は5万ルピーとのことだった。トゥルスィーは学校教師であり、月給は2万5千ルピーで、下位中産階級と呼ばれていた。ただ、中産階級には変わりがない。一方、サニーの元恋人アナンニャーはより社会的地位が高いようで、トゥルスィーの元恋人ヴィクラムに至っては大富豪という設定であった。つまり、トゥルスィーにとっては玉の輿、サニーにとっては逆玉の輿の結婚だったわけだが、家柄の格差によってそれが実現せず、結局、ヴィクラムとアナンニャーはお互いに釣り合い相手との結婚を決めたということになる。
また、トゥルスィーに関しては別の要素も加わっていた。彼女の両親は離婚しており、それがヴィクラムの家族から眉をひそめられていた。オマケに、「トゥルスィー」という名前も槍玉に上がっていた。「トゥルスィー」とはカミメボウキ(ホーリーバジル)のことである。インドでは伝統的な家庭の中庭に必ず植えられ信仰されている植物だ。そういうこともあって、「トゥルスィー」という名前からは、どこか古風な、しかも淑女や貞女のイメージが付きまとっている。トゥルスィーも自分の名前が古めかしいことを気にしており、ヴィクラムから振られた一因ではないかと疑っていた。
サニーとトゥルスィーは、ヴィクラムとアナンニャーの結婚を阻止し、それぞれの元恋人を再び手に入れようとする。そのために二人は、ヴィクラムとアナンニャーの結婚式に乱入して、彼らの面前でいちゃつき、嫉妬心を刺激した。サニーは元々おちゃらけた性格だったが、豹変したのはトゥルスィーだ。彼女は今まで大人しい性格をしていたが、サニーに演技指導されたのか、奥に眠っていた本性を解放し、ヴィクラムを効果的に誘惑する。だが、そんな演技をしている内にサニーとトゥルスィーはお互いに惚れ合ってしまい、ツイストが生まれるのはお約束だ。
先の読めるストーリーではあったが、主演ヴァルン・ダワンの持ち前の明るさや眼福の歌と踊りシーンなどのおかげで終始楽しく観ることのできた作品で、満足感は高かった。最後にサニーとトゥルスィーがくっ付いて、ヴィクラムはディンプルという新しい結婚相手を見つけたことで、サーニヤー・マロートラー演じるサーニヤーだけが一人取り残されてしまったのが若干気になったが、彼女がヴィクラムと結ばれないことで意外性と共に現実感は出ていた。
過去のヒンディー語映画のパロディーがちりばめられていたのもヒンディー語映画ファンにはうれしいサービスだった。「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)、「Kaho Naa… Pyaar Hai」(2000年)、「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年/邦題:家族の四季 愛すれど遠く離れて)、「Koi… Mil Gaya」(2003年)など、さまざまな映画の歌詞などが言及されており、それらをひとつひとつ当てていくのも楽しい。テルグ語映画「Baahubali」シリーズ(2015年/邦題:バーフバリ 伝説誕生・2017年/邦題:バーフバリ 王の帰還)のパロディーもあった。もっとも注目されるのは、「Mr. India」(1987年)の大ヒット曲「Kate Nahin Kat Te」が使われていたことだ。これはジャーンヴィー・カプールの母親シュリーデーヴィーが踊る代表曲でもある。ただ、この歌に合わせて踊ったのはジャーンヴィーではなく、ローヒト・サラーフとサーニヤー・マロートラーのカップルだった。確かにジャーンヴィーが「Kate Nahin Kat Te」を踊ったら普通だ。あえてずらすことで観客にサプライズを与えていた。
「Sunny Sanskari Ki Tulsi Kumari」は、ヒンディー語映画界におけるロマンス映画の復権を予感させる一連の作品の一本に位置づけられる。脳天気な演技が得意なヴァルン・ダワンが場を明るくし、ジャーンヴィー・カプールとサーニヤー・マロートラーがそれぞれの役割をしっかり果たした。興行的には並程度だったようだが、決してつまらない作品ではなく、むしろ気楽に楽しむことのできる娯楽映画の鑑だ。このようなロマンス映画の良作がコンスタントにリリースされれば、ロマンス映画全盛期の再来は遠くない。
