Nadaaniyan

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Nadaaniyan
「Nadaaniyan」

 ヒンディー語映画界の重鎮カラン・ジョーハルは、自ら望んでなのか分からないが、学園モノ映画で期待の新人をデビューさせる役割を担っている。「Student of the Year」(2010年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!)ではスィッダールト・マロートラー、ヴァルン・ダワン、そしてアーリヤー・バットをデビューさせ、その続編となる「Student of the Year 2」(2019年)では、当時若手だったタイガー・シュロフの相手役として新人のアナンニャー・パーンデーイとターラー・スターリヤーを起用した。インド映画界では、新人デビューのために作られる映画を俗に「ローンチ映画」という。ジョーハル監督のローンチ成功率は高く、これら「Student of the Year」シリーズでデビューした俳優たちの多くは現在一線で活躍するスターになっている。

 2025年3月7日からNetflixで配信開始された彼のプロデュース作品「Nadaaniyan(愚かさ)」もその延長線上にあるローンチ映画といえる。学園モノの映画である上に大型新人がデビューしており、完全に「Student of the Year」シリーズの繰り返しである。「Nadaaniyan」でデビューしたのは、「Vikram Vedha」(2022年/邦題:ヴィクラムとヴェーダ)などに出演しているスター俳優サイフ・アリー・カーンの息子イブラーヒーム・アリー・カーンと、「English Vinglish」(2012年/邦題:マダム・イン・ニューヨーク)で日本人にも知られているシュリーデーヴィーの娘でジャーンヴィー・カプールの妹にあたるクシー・カプールである。

 カラン・ジョーハルと共にプロデューサーを務めているのは、アプールヴァ・メヘターとソーメーン・ミシュラー。監督は「Rocky Aur Rani Kii Prem Kahaani」(2023年)で助監督を務めたシャウナー・ガウタムであり、今回が初監督となる。音楽はサチン=ジガル。

 大型新人2人の同時デビュー作なだけあって脇役陣も豪華である。スニール・シェッティー、マヒマー・チャウダリー、ディーヤー・ミルザー、ジュガル・ハンスラージ、アルチャナー・プーラン・スィン、ドリティマーン・チャタルジー、バルン・チャンダー、アーリヤー・クライシー、アプールヴァー・マキージャー、アガスティヤ・シャー、デーヴ・アガスティヤ、ニール・ディーワーン、ニカト・ヘーグデーなどが出演している。また、ミーザーン・ジャーファリー、リヤー・セーン、そしてインターネット・セレブリティーのオリーが特別出演している。

 日本語字幕付きであり、邦題は「ナイーブな恋のレッスン」になっている。

 ピヤー・ジャイスィン(クシー・カプール)は、裕福な弁護士ラジャト(スニール・シェッティー)の一人娘で、デリーのエリート校、ファルコン高校に通う12年生だった。ピヤーにはサーヒラー(アーリヤー・クライシー)とリヤー(アプールヴァー・マキージャー)という幼馴染みかつ親友がいたが、彼女たちの関係で危機を迎えていた。サーヒラーはアヤーン・ナンダー(デーヴ・アガスティヤ)に片思いをしていたが、アヤーンはピヤーにしつこく言い寄っていた。サーヒラーはピヤーが内緒でアヤーンと付き合っていると勘違いし、絶交されそうになったのである。そこでピヤーは「私には別の彼氏がいる」と口から出任せを言ってしまう。ピヤーは急いで偽の彼氏になってくれる人を探し始める。

 ファルコン高校に12年生から転校してきたのがアルジュン・メヘター(イブラーヒーム・アリー・カーン)であった。アルジュンは水泳のチャンピオンで、ファルコン高校ではディベート部に入ってすぐにキャプテンに就任した。アルジュンは国際ディベート大会で優勝して国立法律学校に奨学生として入学する計画を立てていた。アルジュンの母親ナンディニー(ディーヤー・ミルザー)はファルコン高校で教師をしていた。ピヤーはアルジュンに標準を定め、彼に偽の彼氏になってくれるように頼む。報酬は1週間2万5千ルピーであった。アルジュンの家はピヤーほど裕福ではなく、両親に迷惑を掛けずに学びたいと考えていたため、彼はピヤーの提案を受け入れる。ピヤーの誕生日パーティーで彼は皆の前で彼女の彼氏として紹介される。

 だが、アルジュンはジャイスィン家の主治医サンジャイ(ジュガル・ハンスラージ)の息子であった。ピヤーには釣り合わないと見なされ、彼はパーティーから追い出される。だが、ラジャトはアルジュンを優しく迎え入れ、彼を食事に誘う。アルジュンはピヤーとの契約を延長することに同意する。偽の恋人を演じている内に二人の間には恋が芽生え始めていた。

 アルジュンはピヤーにディベートの才能があることを見抜き、彼女をディベート部に入部させる。ピヤーはアルジュンと共に国際ディベート大会に出場することにもなった。ところが、その前日に行われたディーワーリー祭のパーティーで、アルジュンはピヤーの幼馴染みルドラ(ミーザーン・ジャーファリー)と会い、彼に嫉妬する。また、その夜にラジャトがアナーヒター(リヤー・セーン)という女性と不倫関係にあり、しかも彼女を妊娠させたことが発覚し、ラジャトと妻ニールー(マヒマー・チャウダリー)の間で口論が始まる。そしてとうとう二人は離婚することを決める。家族のゴタゴタがあったため、ピヤーは国際ディベート大会に出場できなかった。心乱れたアルジュンは大会でも本領を発揮できず、2位に終わってしまう。さらに、ピヤーがルドラと抱き合っている写真がSNSに出回ってしまい、アルジュンを憤らせる。

 大会から戻ったアルジュンは公衆の面前でピヤーを侮辱する。ピヤーが金を払って自分を偽の彼氏として雇ったこともばらしてしまう。こうしてアルジュンとピヤーは破局する。だが、ナンディニーはアルジュンを諭し、ピヤーに謝罪するように説得する。高校最後の日に行われるボンファイヤー・ナイトにてアルジュンはピヤーに謝罪し、彼女もそれを受け入れる。高校卒業後、アルジュンは奨学金を得てロンドンの法律学校に留学し、ピヤーはインドの法律学校に通うことになった。

 「Nadaaniyan」は裕福な家庭の子供が通うエリート学校が舞台の学園モノ映画である。そこに、社会ステータス的に一段低い家庭で生まれ育った主人公アルジュンが転校してくる。この導入部は「Student of the Year」そのものである。ただ、我々にはアルジュンがその社会的ステータスによって周囲の生徒たちからいじられたり、ヒロインのピヤーと釣り合わないとされたりする理由がよく分からない。

 アルジュンの父親は医師、母親は教師であり、十分なインテリ層であって、しかもお金にも困っていなさそうだった。カーストが影響しているとも思えない。ジャイスィン家はクシャトリヤであり、上位カーストであるが、メヘター家も両親の職業からブラーフマンと思われ、やはり上位カーストである。アルジュンの住所がノイダということでもいじられていたが、これはデリーに住んだ者なら少しだけ分かる。ノイダはデリー首都圏(NCR)を構成する衛星都市のひとつであり、ウッタル・プラデーシュ州に属し、デリー首都(NCT)から見ると格下の住所として見なされる。ただ、そんなことをいったらグルグラームやファリーダーバードといった他のNCR諸都市出身の生徒もいるはずで、アルジュンだけがノイダ出身をネタにいじられる筋合いはない。

 ただ、このような社会階層を演出するために、わざわざムンバイーではなくデリーを舞台にしたのだと思われる。デリーはやはり首都なだけあって厳格なヒエラルキーがあり、それが子供たちの自意識にも影響を与えてしまっているということはよく指摘される。デリーで若者同士のケンカがあると、必ず「お前はオレの親父が誰か知らないのか」というセリフが飛び交うが、これはデリーを象徴する決めゼリフとしてインド全土で有名である。

 アルジュンとピヤーの出会いはたわいもないものだ。ピヤーが、彼氏がいないのに彼氏がいると宣言してしまい、急場しのぎで偽の彼氏を作らなくてはならなくなったので、たまたま転校してきたアルジュンに白羽の矢が立てられたという展開だ。ピヤーは1週間2万5千ルピーの報酬でアルジュンを彼氏にし、周囲を納得させる。アルジュンとピヤーがいつの間にか恋に落ちてしまうというのはお約束である。

 「Student of the Year」が公開されたときも、既にベテラン監督とされていたカラン・ジョーハルがなぜ今頃こんな学園青春映画を撮るのか不思議がられたものだ。この「Nadaaniyan」については彼が監督したわけではないが、「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)の人気キャラ、ブラガンザ先生が登場していることからも、ジョーハル監督の息が相当掛かった作品であることが予測される。そして「Student of the Year」のときよりもさらに大きなクエスチョンマークが付けられる。なぜまた今頃こんな作品を作るのか、と。

 ほとんど目新しさのないストーリーであったし、新人2人も期待外れの演技であった。これはシャウナー・ガウタム監督の経験不足から来るものであろうか。それともイブラーヒーム・アリー・カーンとクシー・カプールの両方がまだ修行不足でデビューには早かったのだろうか。OTTリリースになったことも、映画館で公開するに値しないと判断されたからなのではないかと疑われる。イブラーヒームについては、父親サイフとそっくりであり、今後アクション映画などでもしかしたら本領を発揮するかもしれない。クシーからは姉ジャーンヴィーよりも将来性を感じず、カージョルの妹タニシャー・ムカルジーの撃沈を思い出してしまった。

 「Nadaaniyan」は、サイフ・アリー・カーンの息子イブラーヒーム・アリー・カーンと、シュリーデーヴィウーの次女クシー・カプールのデビュー作である。プロデューサーの一人はカラン・ジョーハルであり、彼が過去に成功させた新人ローンチの公式を再び使い回した学園ロマンス映画だといえる。スニール・シェッティーやマヒマー・チャウダリーといった豪華な脇役陣の支えはあったものの、あらゆる要素が噛み合っておらず、残念な出来になっている。次世代のスターを占う意味では観る価値はあるが、作品自体には期待を寄せない方が賢明である。