Love in Vietnam

2.5
Love in Vietnam
「Love in Vietnam」

 かつて、1964年東京オリンピック後の日本でロケが行われた「Love in Tokyo」(1966年)というヒンディー語映画があり、インドにおける日本の認知度拡大に多大な貢献をしたことがあった。以降、インドで外国ロケをメインにしたロマンス映画が作られるときは、「Love in ○○」というタイトルが定番になった。「Love in Nepal」(2004年)や「Love in Japan」(2006年)といった映画が作られた。

 「Love in Vietnam」は、その題名が示す通り、ベトナムでロケが行われたロマンス映画である。2025年1月1日にダナン・アジア映画祭でプレミア上映され、インドでは2025年9月12日に、ベトナムでは2026年1月9日に劇場一般公開された。

 ベトナムでは2022年から「Namaste Vietnam Festival」が開催され、それがきっかけで印越合作映画の企画が持ち上がったようだ。ストーリーは、トルコ人作家サバハッティン・アリのトルコ語小説「Kürk Mantolu Madonna(Madonna in a Fur Coat)」(1943年)からインスパイアされているという。プロデューサー陣には「Mary Kom」(2014年)や「PM Narendra Modi」(2019年)などのオーマング・クマール監督が含まれている。

 監督は「Mantostaan」(2017年)や「Lihaaf」(2019年)のラーハト・シャー・カーズミー。音楽はミート・ブロス、アマール・マリク、ラシード・カーン、アーミル・アリーである。

 主演は「Gangubai Kathiawadi」(2022年)や「Auron Mein Kahan Dum Tha」(2024年)に出演のシャーンタヌ・マーヘーシュワリー。ヒロインは2人おり、その内の一人は「Tiku Weds Sheru」(2023年)や「Luv Ki Arrange Marriage」(2024年)のアヴニート・カウル。だが、メインヒロインはベトナム人女優カー・ガンである。彼女は「美しすぎるボクシング選手」として注目され、モデルから女優に転向し、映画「100 ngày bên em」(2018年)などを当てて国民的なスターになった。今回のような国際的プロジェクトにふさわしいポジションにいる女優のようだ。

 他に、ラージ・バッバル、グルシャン・グローヴァー、ファリーダー・ジャラール、ミール・サルワール、サキーブ・アユーブ、クリシカー・パテールなどが出演している。

 パンジャーブ州で生まれ育ったマーナヴ(シャーンタヌ・マーヘーシュワリー)は幼くして両親を亡くし、元歌手の叔父スールマー・スィン(ラージ・バッバル)に育てられた。幼馴染みのスィミー(アヴニート・カウル)の将来の夢は、マーナヴのお嫁さんになることだったが、マーナヴにその気はなかった。マーナヴは音楽に興味があったが、スールマーは彼に音楽を禁じていた。それでもマーナヴが内緒で音楽活動をしているのを知り、スールマーは彼をベトナムの大学に留学させることを決める。ホーチミンには彼の友人パンカジ(グルシャン・グローヴァー)が住んでおり、レストランなどを成功させていた。スィミーは彼の世話役としてベトナムまで付いていくことになる。

 ベトナムの大学で農業を勉強し始めたマーナヴだったが、無理やり留学させられたこともあって勉強に身が入らなかった。彼はとあるギャラリーで見つけた女性の自画像に魅せられ、作者を探し始める。それはリン(カー・ガン)というアーティストだった。マーナヴとリンは恋仲になる。

 マーナヴの妹ドリーの結婚式に出席するため、マーナヴとスィミーはパンジャーブ州に戻る。そのときマーナヴの携帯電話にはリンから何度も電話が掛かってくるが、結婚式で忙しかったマーナヴは出ることができなかった。大量のミスコールに気付いたマーナヴはリンに電話を掛け直すが、それ以降誰も出なかった。

 スールマーはマーナヴをそのままパンジャーブ州にとどめ置こうとするが、リンのことが心配になったマーナヴは再びベトナムへ向かう。だが、リンはどこにも見当たらなかった。マーナヴは狂人のようにベトナム中をさまよう。やがて金が底を突き、乞食のようになる。スィミーがやって来て彼を助け、一緒にリンを探すと申し出る。

 マーナヴとスィミーはパンカジのレストランで働きながらリンを探すが見つからなかった。そのまま8年の歳月が流れた。とうとうマーナヴはスィミーとの結婚を決める。マーナヴとスィミーの家族はベトナムまでやって来て二人の結婚を祝う。だが、結婚式で踊りを踊っていたダンサーの中にマーナヴはリンを見つける。リンは既に誰かと結婚しており、娘もいた。

 だが、実はドリーの結婚式の日、スィミーがリンに電話を掛け、マーナヴに近づかないように警告したのだった。マーナヴとリンの涙を見たスィミーは結婚の直前にマーナヴをリンに譲る。そして二人の結婚式が行われる。

 筋書きはインドの三角関係型ロマンス映画の定型である。愛し合う2人の中に割って入った者が、最後の最後でその2人の愛の強さを実感し、自ら身を引く。今まで散々使い古されてきたプロットである。「Love in Vietnam」で目新しかったのは、主人公マーナヴが、幼馴染みのインド人女性スィミーと、ベトナムで出会ったリンの間で引き裂かれることだ。そして、印越親善のテーマを尊重するためか、スィミーの方が犠牲になり、マーナヴとリンが結ばれる。

 マーナヴがなぜリンにそれほど惹かれるのか、ほとんど説明されずにストーリーが進行するため、いまいち物語に入り込めない。おそらく大半の観客はスィミーの方に同情するはずである。スィミーは幼少時からマーナヴのお嫁さんになるのを夢見て、彼に尽くしてきた。マーナヴはそんな彼女を傍に置いておきながら、リンとの恋愛にうつつを抜かすのである。スィミーがあまりにかわいそうだ。マーナヴ役のシャーンタヌ・マーヘーシュワリーが何となく弱者男性のオーラをまとっているため、彼のその尊大な態度に怒りすら覚えてくる。しかも8年も彼女を待たせ続けた。これほど長い年月を浪費する必要はあったのだろうか。

 ただ、そんなスィミーへの同情も、彼女が密かにリンに対して行った仕打ちが明かされることで多少中和されることになる。スィミーはリンに電話し、マーナヴに近づくなと警告していたのである。だからリンは突然姿を消し、行方不明になった。ただ、リンはマーナヴの子供を身ごもっていた。彼女がドリーの結婚式の日に何度もマーナヴに電話をした理由もそれだった。だが、スィミーの妨害に遭ってそのことをマーナヴに伝えられないまま姿をくらますことになったのだった。ついにマーナヴと結婚する日を迎えたスィミーだったが、自身の行った行為に罪悪感を抱いた。しかもリンがマーナヴの娘を生んでいたことも知り、居ても立ってもいられなくなる。スィミーはマーナヴとリンを結婚させることにする。

 結局、三角関係の3人はそれぞれに苦しむことになったが、最後はスィミーだけが報われなかった。確かに彼女も業を背負っていたが、ここまで我慢し、ここまで自己犠牲ができる女性が意中の人と結ばれない最後には引っ掛かるものを感じずにいられない。彼女にも何らかの救済を用意しておいてほしかった。

 映画の特に後半、マーナヴが愛の放浪者になる場面は、イムティヤーズ・アリー監督の影響を感じさせた。アリー監督の傑作「Rockstar」(2011年)で引用されていたルーミーの詩がほぼそのまま再利用されていた楽曲もあった。

 ベトナム政府の全面協力の下に作られた映画であるため、まるでベトナム観光のプロモーション映画のようになっていた。ダナンのバーナーヒルズやフラマ・リゾート、ホイアンの旧市街、フーコック島のキス・ブリッジなどで撮影が行われ、インド人にはほとんど知られていないであろうベトナムの魅力がアピールされていた。

 言語はヒンディー語、パンジャービー語、ベトナム語のハイブリッドである。マーナヴがリンにヒンディー語の「私はあなたを愛しています」を教えようとしている場面はあったが、基本的にベトナム語のフレーズをインド人に普及させようという努力は払われていなかった。マーナヴやスィミーも、ベトナムに8年以上の住んでいるという設定ながら、ベトナム語を一言も話していなかったように思える。発音が難しすぎたのだろうか。

 上映時間の半分くらいはリンがスクリーンから姿を消してしまうので、残りの半分はインド人俳優たちだけで進行する。どうせベトナム人女優を起用したのなら、もっと出番を増やすべきだったのではないかと感じた。

 「Love in Vietnam」は、インドとベトナムの親善のために作られた、国策的なロマンス映画である。ただ、本筋は典型的な三角関係であり、ベトナム要素がなければ何の新規性もない作品になっていたところだった。確かにベトナムでロケが行われているが、メインヒロインのベトナム人女優カー・ガンの出番は全体の半分くらいである。そして主人公のマーナヴにいまいち感情移入ができない。アジェンダが印越親善であるため、映画としての面白さは二の次になってしまっていた印象を受ける。それでも、ユニークな映画であることには変わりがない。