Tiku Weds Sheru

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Tiku Weds Sheru
「Tiku Weds Sheru」

 2023年6月23日からAmazon Prime Videoで配信開始された「Tiku Weds Sheru」は、カンガナー・ラーナーウトがプロデュースしたロマンス映画である。カンガナーは「Manikarnika: The Queen of Jhansi」(2019年/邦題:マニカルニカ ジャーンシーの女王)で共同監督を務めたことがあったが、プロデューサーは初だ。彼女は2020年に自身のプロダクションであるマニカルニカー・フィルムを立ち上げており、同社が送り出す初の作品となる。

 監督はサーイー・カビール。過去にカンガナー主演作「Revolver Rani」(2014年)などを撮っている。キャストは、ナワーズッディーン・スィッディーキー、アヴニート・カウル、ヴィピン・シャルマー、ザーキル・フサインなどである。プロデューサーのカンガナー・ラーナーウトが一瞬だけカメオ出演している。

 題名は、カンガナーの出世作の一本である「Tanu Weds Manu」(2011年)を思わせるものだ。しかしながら、コメディー要素の強かった「Tanu Weds Manu」とは異なり、この「Tiku Weds Sheru」はよりシリアスな味付けになっている。

 シラーズ・カーン・アフガーニー、通称シェールー(ナワーズッディーン・スィッディーキー)は、ムンバイーで売れない俳優をしていた。それだけでは食っていけないので、売春婦斡旋業の下働きにも手を出していたが、借金で首が回らなくなっていた。そんなとき、故郷のボーパールから縁談が持ち込まれる。シェールーは持参金欲しさにその結婚を承諾する。

 シェールーの結婚相手はタスリーム・カーン、通称ティークー(アヴニート・カウル)というお転婆娘だった。ティークーはムンバイーへ行って女優になる夢を持っていた。一回りも二回りの年上のシェールーとの結婚は望んでいなかったが、ムンバイーへ行けるということだけが気に入った。実はティークーにはムンバイーに住む恋人がおり、シェールーととりあえず結婚して、ムンバイーに行ったらトンズラしようと考えていた。

 シェールーとティークーの結婚式が行われ、シェールーはティークーをムンバイーに連れてくる。ティークーの妹サナーも同伴した。ティークーは計画通り姿をくらますが、恋人の子供を身籠もっていることが分かり、恋人から捨てられる。恋人がいたこと、そして妊娠していることを知ったシェールーはティークーを追い出そうとするが考え直し、彼女を子供共々受け入れることを決める。

 シェールーはティークーに、映画のプロデューサーをしていると嘘を付いており、金持ちだと見せ掛けていた。ティークーの子供が生まれ、二人は幸せな生活を歩み始めていた。だが、裕福な生活を演出するために多額の金が必要になったシェールーは、麻薬密売に手を出し、やがて警察に逮捕される。ティークーはシェールーの真実を知ってしまう。

 ティークーはシェールーなしに生きていくため、映画の撮影所で会ったラザー・アリー・カーンというモデル斡旋会社の社長に助けを求める。ラザーはティークーを女優にすると約束し、彼女をエスコートガールにしてしまう。裏切りを知ったティークーは、今度はシェールーのボスだったシャーヒド(ヴィピン・シャルマー)に懇願する。ティークーはバーダンサーになり、シェールーを保釈してもらう。

 保釈されたシェールーは、友人のアーナンドからティークーがバーダンサーになったことを知り憤る。シェールーは女装してバーに殴り込み、シャーヒドなどの一味を一網打尽にしてティークーを救出する。

 ナワーズッディーン・スィッディーキーのような優れた演技派男優を起用していながら、いまいちつかみどころのない映画だった。シェールーにもティークーにも感情移入できなかったことが一番の敗因だと思われる。

 まず、結婚を起点とした映画でありながら、その結婚は最初からお互いに利己的な目的で行われたものだった。ティークーは、ムンバイーへ行って女優になりたいという夢と、恋人と一緒になりたいという願望を叶えるためにシェールーと結婚し、シェールーも借金返済のために持参金が必要で、ティークーと結婚した。しかもシェールーは見栄を張って自分が裕福であるかのように見せ掛けていた。

 最初に化けの皮が剥がれたのはティークーの方だった。妊娠が発覚し、恋人と逃げようとしたが捨てられ、自殺しようとしたが死にきれず、シェールーの元に戻される。当初はティークーを故郷に追い返そうとしたシェールーだったが、急に家族を持つ幸せに目覚め、彼女のお腹の子供を自分の子供として受け入れ、彼女との結婚を続けることを決める。序盤からティークーの行動があまりに自分勝手すぎるので若干引いてしまうのだが、シェールーが意外に寛大な態度を示したことで、この辺りまでの展開はまだ受け入れることが可能である。

 シェールーとティークーの幸せな結婚生活が「Tum Se Milke」をBGMにして一瞬の内に流れる。その間にティークーは出産する。だが、その後のストーリーにおいて生まれた子供の存在感が非常に小さい。そこから何だかストーリーが不安定になる。シェールーもまだティークーに嘘を付き通していた。

 終盤は不幸の連続だ。中盤までの幸せな展開が嘘であるかのようにひっくり返る。シェールーは麻薬密売に手を出して逮捕され、ティークーに正体がばれてしまう。ティークーは食べていくために女優を目指すが、悪徳モデル斡旋業者に騙されてエスコートガールにされた上、さらにバーダンサーになってしまう。ヒロインをここまで落とすとは、勇気のある脚本だと感じた。ただ、勇気はあるかもしれないが、インド人観客には容易に受け入れられないプロットだ。この辺りはカンガナーの影響もあるのかもしれない。

 どうやってまとめるのかと思ったが、最後は力技で全てを一挙に解決してしまっていた。クライマックスのダンスシーン「Meri Jaan-E-Jaan」の途中でナワーズッディーン・スィッディーキーが突然女装して登場し踊り出したことで、驚きのあまり細かいことがどうでもよくなってしまったのである。ナワーズッディーンは「Munna Michael」(2017年)で踊りを披露していたが、今回はそのときよりもダンスの腕を上げていた。

 元々この映画はイルファーン・カーンとカンガナー・ラーナーウトの主演作として企画されたもののようである。だが、サーイー・カビール監督が病気になって企画が中断し、その間にイルファーンが死去してしまったため、新たにキャスティングをし直して作られた。

 ヒロインに抜擢されたアヴニート・カウルはTVのダンスショーなどで身を立て、過去には「Mardaani」(2014年)などへの出演経験があるものの、知名度のある女優ではない。演技力はあるし、ダンスもできるが、スターになる素質がある容姿はしていないと感じる。今後の出演作次第であろう。

 「Tiku Weds Sheru」は、カンガナー・ラーナーウトが初めてプロデュースしたダークなロマンス映画である。ナワーズッディーン・スィッディーキーの主演作という点でも目を引くが、ストーリーはまとまりを欠き、最後は力技でまとめてしまっていたところに不満を感じた。OTTスルーとなったのは、劇場で一般公開できる出来ではないとの判断があったと思われる。それが賢明な判断だと感じるぐらいの力不足な映画であった。