Crew

4.0
Crew
「Crew」

 2024年3月29日公開の「Crew」は、3人の女性客室乗務員が主人公の女性向け映画だ。ソーナム・カプール主演の「Neerja」(2016年)も女性客室乗務員が主人公の映画であったが、実話に基づくシリアスな映画だった。その一方でこの「Crew」はコメディータッチのコン映画に分類される。

 プロデューサーはアニル・カプール、エークター・カプール、リヤー・カプールなど。監督は「Lootcase」(2020年)のラージェーシュ・A・クリシュナン。主演を務めるのはタブー、カリーナー・カプール、そしてクリティ・サノンという新旧のトップ女優たちだ。他に、ディルジート・ドーサンジ、カピル・シャルマー、ラージェーシュ・シャルマー、シャーシュワタ・チャタルジー、クルブーシャン・カルバンダー、イヴァン・ロドリゲス、トルプティ・カームカル、ガリマー・ヤージニク、チャールー・シャンカル、ラマーカーント・ダーイマーなどが出演している。

 ギーター・セーティー(タブー)、ジャスミン・コーリー(カリーナー・カプール)、ディヴィヤー・ラーナー(クリティ・サノン)はコーヒヌール航空に勤める客室乗務員であった。過去数ヶ月間、コーヒヌール航空では従業員に給料が支払われていなかった。

 ギーターは裕福な暮らしを送っていたが、夫のアルン(カピル・シャルマー)が兄弟との争いに負け、貧困生活を余儀なくされていた。アルンは無職で、ギーターの稼ぎで生計が成り立っていた。退職金で夫と一緒にゴアでレストランを開くのが夢だった。

 ジャスミンは祖父(クルブーシャン・カルバンダー)に育てられた貧しい子だった。それ故にお金に対する執着が強く、子供の頃から金儲けに走っていた。

 ディヴィヤーは子供の頃から優秀で、両親の期待を一身に背負ってパイロットになるために勉強をしていたが、資金難のために勉強を続けられず、客室乗務員になっていた。家族にはパイロットの仕事をしていると嘘を付いていた。

 ギーター、ジャスミン、ディヴィヤーが搭乗していたフライトで、先輩のラージヴァンシー(ラマーカーント・ダーイマー)が急死する。3人は、彼の身体にいくつもの金インゴットが巻かれているのを発見する。彼は密かに金の密輸をしていたのだった。ジャスミンはインゴットのネコババを提案するが、他の2人が許さなかった。

 給料の未払いが続いたことで、3人はラージヴァンシーの仕事をして一儲けすることを思い付く。彼女たちは、ラージヴァンシーのボスが、コーヒヌール航空人事部長プルトヴィーラージ・ミッタル(ラージェーシュ・シャルマー)であることに気付く。3人はミッタルを脅し、無理矢理仲間になる。彼女たちはインゴットをボール状にしてチョコレートでコーティングし、アル・ブルジ国に密輸をするようになる。彼女たちは一気に羽振りのいい生活を送れるようになる。

 ところがある日、3人は厳格な税関職員マーラー(トルプティ・カームカル)に捕まる。このときはディヴィヤーの機転のおかげで金を飛行機の天井に隠し事なきを得たが、後にその飛行機から金が発見され、大事件となる。その後、コーヒヌール航空のヴィジャイ・ワーリヤー会長(シャーシュワタ・チャタルジー)は海外に逃亡する。密告者がミッタルの妻スダー(チャールー・シャンカル)であることを突き止め、3人は彼女を問いただす。彼女から、金密輸の総元締めはワーリヤー会長だったこと、現在ワーリヤー会長とミッタルはアル・ブルジ国にいることを聞く。

 ギーター、ジャスミン、ディヴィヤーはワーリヤー会長から金を取り戻すため、アル・ブルジ国に乗り込む。ワーリヤー会長は娘アーイシャー(ガリマー・ヤージニク)の結婚式を行おうとしていたが、3人はその結婚式に忍び込み、金を盗もうとするが失敗する。だが、彼が結婚式後にプライベートジェットでケイマン諸島へ移動しようとしていることを知り、その飛行機のパイロットにディヴィヤーが、客室乗務員にギーターとジャスミンが成り代わる。ワーリヤー会長やボディーガードたちを睡眠薬で眠らせた後、飛行機をインドに着陸させる。ワーリヤー会長は逮捕されたが、その前に3人はディヴィヤーの友人ジャイヴィール・スィン(ディルジート・ドーサンジ)の協力を得て金を持ち出していた。

 かつてインド映画に登場する女性キャラは男性ヒーローの添え物に過ぎなかった。今でもそのような構造の映画は数多く作られている。「RRR」(2022年/邦題:RRR)でも女性キャラは添え物であった。しかしながら、「Crew」は完全な女性中心映画であり、代わりに男性キャラが女性ヒーローの添え物になっている。しかも、各女性キャラが非常に個性的だった。そこにはステレオタイプにはまらない、世間の荒波をたくましく生き抜く生身の女性の姿があった。嘘も付くし、ズルもするし、ゲロも吐く。男性に守ってもらおう、養ってもらおうなどというか弱さやひ弱さは全くない。ヒンディー語映画界では2010年代に女性中心映画の強い波が押し寄せたが、2024年公開のこの「Crew」にて、ひとつの到達点に達したと評してもいいくらいだ。

 まず興味を引かれたのは彼女たちの言葉遣いだ。ウェブドラマ「Four More Shots Please!」(2019年-22年)ほど過激ではないにしても、仲間内では馴れ馴れしい言葉で話し、下ネタも臆さず口にする。仕事中のかしこまった口調と正反対で、そのギャップがおかしい。男性同士の会話では「सामानサーマーン」といえば「ブツ」、つまり「男性器」のことを指すが、女性同士の会話ではこの言葉は「おっぱい」になるのを初めて知った。男性とデートをするとき、「ブツ」を見せなさい、などとアドバイスし合うのである。

 ギーター、ジャスミン、ディヴィヤーはそれぞれ自分の人生の中心にいた。自立していたばかりか、家族を支えるのも彼女たちだった。ギーターは無職の夫を支え、ジャスミンは育ててくれた祖父をケアし、ディヴィヤーは部屋に引きこもってコンピューターに没頭する弟を叱責する母親代わりの存在だった。華やかな印象の強い客室乗務員だが、その素顔は感情豊かな生身の人間であり、むしろ彼女たちのプライベートの時間に焦点が当てられた映画だった。

 さらに、タブー、カリーナー・カプール、クリティ・サノンという3人の女優たちの取り合わせも面白かった。タブーは1990年代から2000年代、カリーナーは2000年代から2010年代、そしてクリティは2010年代から2020年代を代表するトップ女優である。それでいて、お互いに共演の経験はないはずだ。この3人が共演し、競演し、等しく主演を張るのは、それだけで大きな話題である。甲乙付けがたい演技であったが、カリーナーの悪女振りが特に光っていたと感じた。

 映画には「コーヒヌール航空」という航空会社や「ヴィジャイ・ワーリヤー会長」という実業家が登場するが、インドに詳しい人ならすぐにピンと来るだろう。これはインドの空をかつて飛んでいたキングフィッシャー航空と、「キング・オブ・グッドタイム」の異名を持った派手好きな実業家ヴィジャイ・マッリヤーのことだ。2005年から運航を開始したキングフィッシャー航空は強気の事業拡張が裏目に出て2012年に経営破綻し、多額の負債を抱えたマッリヤー会長は2016年に海外に高飛びした。ただし、ワーリヤー会長が逃げた「アル・ブルジ国」は架空の国であるし、彼が金の密輸に手を染めていたという事実もない。

 音楽では、1990年代のヒット曲のリメイクが多数使われていたのが特徴的だった。「Khal Nayak」(1993年)の「Choli Ke Peeche」、「Hero No.1」(1997年)の「Sona Kitna Sona Hai」、そしてイーラー・アルンが歌うポップソング「Delhi Shahar Mein Maro Ghagro Jo Ghumyo」のリメイクである。ラージェーシュ・A・クリシュナン監督の好みが1990年代の音楽なのかもしれない。また、映画中でジャイヴィール役を演じたディルジート・ドーサンジがエンドクレジットでバードシャーと共に「Naina」を歌っていた。

 「Crew」は、タブー、カリーナー・カプール、クリティ・サノンという、各時代を代表する3人のトップ女優たちが競演し、男性を脇役に追いやるほど生々しい生身の女性を演じる女性中心映画の決定版だ。明るさ、ゴージャスさ、爽快さが揃っており、娯楽として完成されている。興行的にも成功しており、早くも2024年を代表するヒット作に数えられている。特に女性にお勧めの映画だ。