Dange

4.0
Dange
「Dange」

 2024年3月1日公開の「Dange(暴動)」は、ゴア州の大学を舞台にした学生政治映画である。ヒンディー語版とタミル語版が同時に撮影されており、キャストが異なる。タミル語版の題名は「Por」である。鑑賞したのはヒンディー語版の方だ。

 監督は「Shaitan」(2011年)や「David」(2013年)などのビジョイ・ナーンビヤール。キャストは、「Sanam Teri Kasam」(2016年)のハルシュヴァルダン・ラーネー、「99 Songs」(2019年)のエーハーン・バット、「Maska」(2020年)のニキター・ダッター、「Afwaah」(2023年)のTJバーヌ、「Bhaag Johnny」(2015年)のゾーヤー・モーラーニーなど。若手の渋い俳優が多く、玄人好みである。

 ゴア州のセント・マーティンス大学で留年を続け、大学の主となっているズィー(ハルシュヴァルダン・ラーネー)は、入学早々先輩に楯突いてヒーローに祭り上げられていた新入生ユヴァー(エーハーン・バット)に喧嘩を売られる。ズィーとユヴァーは同じ学校出身だったが、ユヴァーは先輩にいじめられたときにズィーに助けてもらえず、彼に恨みを抱いていた。ズィーは当時のことをユヴァーに謝るが、ユヴァーは許そうとしなかった。

 折しも学生自治会の選挙が行われようとしていた。セント・マーティンス大学の理事の娘スィッディ(ゾーヤー・モーラーニー)が会長に立候補したが、その対立候補としてアンビカーが立候補した。ガーヤトリー(TJバーヌ)という学生活動家が「アーワーズ(声)」という学生団体を立ち上げており、この組織から立候補したのがアンビカーだった。だが、スィッディの仲間ボスコはアンビカーの右腕に酸を掛けて脅迫し、彼女を選挙から追放した。立候補者がいなくなったため、スィッディは易々と選挙に勝利した。

 ユヴァーはズィーに復讐するため、ズィーに近い関係にあるガーヤトリーやリシカー(ニキター・ダッター)に接近する。リシカーはユヴァーに惚れるが、後に彼がズィーへの復讐のために彼女を利用していたことを知る。

 脅迫を受けて故郷に引きこもっていたアンビカーだったが、勇気を出して大学に戻り、ガーヤトリーと共に警察を訪れて被害届を提出する。被害届にはボスコと同時にスィッディの名前も入っていた。おかげでスィッディは会長職を解かれた。

 ズィーは卒業が決まり、大学生活最後の仕事としてフェスタを盛大に企画しようとしていた。ところがユヴァーがフェスタを牛耳ることになった。ユヴァーの仲間の一人バーラは元彼女リトゥに暴行を加え、ズィーがそれに介入したことで、ズィーとユヴァーの間で一触即発の事態となった。フェスタの最終日、ズィーは仲間を引き連れてユヴァーを襲撃しようとする。ユヴァーもそれを迎え撃つ。ズィーが率いる先輩軍団とユヴァーが率いる新入生軍団の間で暴動が発生した。

 ところがそのとき、ボスコが暴動に殴り込み、ガーヤトリーを襲う。ズィーとユヴァーは喧嘩を中断してガーヤトリーを病院に運ぶ。ガーヤトリーは一命を取り留める。この暴動をきっかけにズィーとユヴァーは仲直りする。

 ビジョイ・ナーンビヤール監督はスタイリッシュな映像を作り出せる人間で、その本領は早くも初の長編映画「Shaitan」で遺憾なく発揮された。「Dange」では、大学生に蔓延するドラッグが描かれていたこともあって「Shaitan」と同様のサイケデリックな映像がふんだんに盛り込まれていた。音楽もインド映画離れしており、リズム感のあるラップやレゲエに合わせてストーリーが進行する。まるでミュージックビデオを観ているかのようだ。

 圧巻なのは終盤の暴動シーンである。ズィーがユヴァーを追い回し、最後にドライブインシアターで先輩の一団と後輩の一団の間で乱闘が行われるまでが、一台のカメラでなめ回すように長回し的に撮られていて、観客を映像世界の中に強力に吸引する。この部分を見せたかったからこそこの映画が撮られたといっても過言ではなかろう。

 ズィー役を演じたハルシュヴァルダン・ラーネーとユヴァー役を演じたエーハーン・バットはどちらも迫力ある演技をしており、2020年代にもっとも成長が楽しみな俳優に躍り出た。

 ズィーとユヴァーの対立が物語の主軸ではあるが、女性キャラも非常に立っていた。学生自治会の会長選挙で火花を散らすスィッディとアンビカーはかつて恋人同士だったことが示唆されていた。アンビカーを推薦するガーヤトリーは、強い信念を持った学生活動家だ。彼女はズィーと近い関係にあり、物語の中で重要な役割を果たす。さらに、ユヴァーからアプローチを受け、彼に身体を許すリシカーもズィーの親友であった。この4人の女性たちはそれぞれ男性の添え物ではなく、自立して動くため、物語に深みが出ていた。

 ただ、2時間半の上映時間にきれいに収まるようなストーリーではなく、もっと壮大なストーリーの一部を見せられている気分であった。たとえばリシカーの兄カビールは自殺して死んだとのことで、少しだけしか登場しなかったが、主要登場人物の人間関係形成において非常に重要な位置を占めていたと予想される。ズィーとカビールは親友だったであろうし、カビールとガーヤトリーもただならぬ関係にあったのではないかと思われる。さらに、ズィーは大学で鬱病について研究をしていたが、鬱病はカビールの死因でもあった。おそらく時間が足りずに割愛されてしまった部分が多い映画だろう。

 基本的には学生政治の物語であるが、一部だけ不可触民制度に触れた部分もあった。会長選挙に立候補したアンビカーは不可触民という設定であり、それも彼女の当選を妨げる要因になっていた。しかしながら、この要素もうまく展開できていなかった。

 「Dange」は、映像の魔術師ビジョイ・ナーンビヤール監督がデビュー作「Shaitan」を思わせる映像効果で撮った暴力的な青春映画である。スタイリッシュな映像は時にストーリーの容易な理解を妨げるが、終盤の暴動シーンはただただ圧巻であり、それを観るだけでもこの映画は価値がある。おそらくもっと壮大なストーリーだったはずで、二部作にするなどして、それを時間を掛けて語ることができていれば、より完成度の高い作品になる可能性も秘めていた。若手の渋い俳優たちが好演していることも見逃せない。