Friday Night Plan

4.0
Friday Night Plan
「Friday Night Plan」

 ヒンディー語映画には、時代ごとにその世代の若者文化をよく反映した青春映画がある。「Dil Chahta Hai」(2001年)、「Rang De Basanti」(2006年)、「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)、「Student of the Year」(2012年/邦題:スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!)などが代表例だ。2023年9月1日からNetflixで配信開始された「Friday Night Plan」は、2020年代の青春映画に数えていい作品である。日本語字幕付きで、邦題は「フライデー・ナイト・プラン」である。

 監督はヴァトサル・ニーラーカンタン。シャールク・カーン主演「Raees」(2017年)などで助監督を務めた人物で、監督は今回が初である。ファルハーン・アクタルなどがプロデューサーである。

 主演を務めるのは、2020年に急逝した名優イルファーン・カーンの息子バービル・カーン。「Qala」(2022年/邦題:QALA カラ)でデビューし、本作が2作目となる。他に、ジューヒー・チャーウラー、アムリト・ジャヤン、アーディヤー・アーナンド、メーダー・ラーナー、ニナド・カーマトなどが出演している。

 スィッダールト・メーナン(バービル・カーン)はムンバイー・インターナショナルスクール(ISM)に通う12年生の高校生だった。調子のいい弟アーディティヤ(アムリト・ジャヤン)も同じ学校に通っていた。二人の母親(ジューヒー・チャーウラー)は夫の死後、女手一つで子育てをしていた。

 サッカー部に入っていたスィッダールトは万年補欠だった。卒業を間近に控えた金曜日、ライバル校のグローバルスクール(GS)との試合でスィッダールトはレギュラーの選手が怪我をしたため代わりに出場し、そこでゴールを決めてチームに勝利を導く。この活躍で一躍スィッダールトは学校のヒーローになる。

 その夜、フライデー・ナイト・プラン(FNP)が開催されることになる。FNPとは学校の伝統に則ったパーティーである。スィッダールトもFNPに誘われる。あまり社交的ではなかったスィッダールトは断ろうとするが、アーディティヤは必ず行くように言う。ISMのマドンナ、ナターシャ・サバルワール(メーダー・ラーナー)をプロムに誘うチャンスでもあった。ちょうどこの日、母親はプネーに出張で家にいなかった。ちゃっかりアーディティヤもFNPに行くことになる。

 ナターシャと約束したため、スィッダールトは母親に内緒で自動車を運転し、FNPに行く。まず集合場所のレストランに行くが、GSの悪戯を受け、卵を投げて応戦する。このとき、アーディティヤが投げた卵が誤ってスハース・ピングレー警部補(ニナド・カーマト)に当たってしまう。二人は自動車を置いて逃げ出した。ピングレ-警部補は自動車をレッカー移動し、警察署で犯人を待ち構えることにした。

 スィッダールトとアーディティヤは、仲間たちと共にFNPの会場であるナターシャの家を訪れる。スィッダールトは置いてきた自動車が気になり引き返すが、レッカー移動された後だった。仕方なくスィッダールトもFNPにやって来る。

 スィッダールトとアーディティヤはパーティーを楽しむ。また、トラブルを通して兄弟の仲は深まった。スィッダールトはナターシャに言い寄られるが、彼はナターシャの妹ニティヤー(アーディヤー・アーナンド)の方が自分と合うと気付く。スィッダールトはニティヤーをプロムの相手として誘う。

 母親が予定より早くプネーから帰って来ることになり、スィッダールトとアーディティヤはFNPを後にする。彼らは警察署に行き、ピングレー警部補と対峙する。まずはスィッダールトが説明しようとするが、アーディティヤが途中から入り込み、真摯に謝罪をする。怒っていたピングレー警部補も今回は二人を許す。こうして自動車を取り戻したスィッダールトとアーディティヤは家に急いで帰る。そして帰って来た母親にその夜の出来事を聞かせる。

 ムンバイーのとある高校を舞台にした映画だ。見たところ、裕福な家庭の子女が通う学校のようだ。とはいえ、この映画で描写されているインドの高校や高校生の様子がどこまで実態を反映しているのか、インドを離れて長くなったため、正確な評価はできない。伝えられるところでは、この映画は「フェリスはある朝突然に」(1986年)、「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年)、「Project X」(2012年)などの米映画を下敷きにしており、もしかしたら米国の高校カルチャーをそのまま移植しただけかもしれない。米国の映画ではよくプロム(卒業ダンスパーティー)が描かれるが、インドの学校にプロムがあるというのはあまり聞いたことがないし、映画の題名にもなっている「フライデー・ナイト・プラン(FNP)」という名のパーティーも、何となくインドの学校文化ではないような気もする。登場する学校が「国際学校」を冠しているのは、一般的なインドの学校ではないという逃げ道を作っておくためだと考えられる。本当にこれはインドの学校の話であろうか、という疑問は拭えないとはいえ、再現性はこの映画で重要な部分ではない。

 主人公のスィッダールトは、サッカー部の万年補欠というステータスからも分かる通り、目立つタイプの高校生ではなかった。「スィッティング・スィド(糞たれスィド)」という不名誉なあだ名まで付けられていた。彼は卒業を目前に控えていながら進路先を決めきれておらず、優柔不断な性格がうかがわれた。一応、父親の死をきっかけに責任感からそのような性格になったとの設定があった。しかしながら、そんないけてない彼がレギュラー選手の怪我により試合に出場し、ゴールを決めてしまう。これも、実はパスしたつもりがゴールに入ってしまったというオチではあるが、ゴールはゴールだ。スィッダールトは一躍学校のヒーローになる。

 そんな内向的な兄とは対照的に、弟のアーディティヤはいろんなことに首を突っ込んでかき回すトラブルメーカーだった。兄ともしょっちゅう喧嘩をしていた。ちゃっかりしているところもあり、兄にくっ付いてFNPに参加する。ただ、やはりアーディティヤを連れてきたことでスィッダールトは大きなトラブルに巻き込まれることになる。

 この映画は、こんな対照的な兄弟が、母親のいない金曜日の夜に内緒で外出した先で巻き込まれた数々の事件を経て成長し、お互いに認め合うまでを追った作品である。

 彼らにとって大きな悩みの種になったのは、警察にレッカー移動された母親の自動車である。アーディティヤが誤ってピングレー警部補に卵を当ててしまったことで、何事もなく自動車を取り返すことは不可能になっていた。

 スィッダールトは基本的に、常に正しい行動をしようとするタイプだ。それ故に選択を慎重にしすぎるところがある。一方のアーディティヤは常に間違った行動を取るタイプだ。それ故に間違ったことをしたときにどうすれば状況を打開できるか、よく知っている。

 FNPに参加した後、スィッダールトとアーディティヤは自動車を取り戻すために警察署を訪れ、待ち構えていたピングレー警部補と対面する。スィッダールトは正直に誤るものの、ピングレー警部補の「警察に敬意を見せろ」という発言を誤解し、賄賂を渡そうとする。それを制止したアーディティヤは、事の発端を簡潔に説明し、間違えて卵を当ててしまったということを誠心誠意説明する。ピングレー警部補も意外に物分かりのいい人で、最終的には二人を許し、自動車を返す。

 アーディティヤはトラブルメーカーではあるが、失敗を恐れず常に前進し続けるガッツを持っている。そして、失敗したときにそれを素直に受け入れ、状況を打開しようと努力する賢さも持っていた。弟のそんな姿勢に感化されたスィッダールトは、迷っていた進路についても思い切って踏み出す決意をする。兄弟が単に仲直りしただけでなく、お互いの特性から学び合い、高め合う関係に昇華することができた。

 兄弟の成長が「Friday Night Plan」の本筋ではあるが、ロマンス部分でもユニークな展開を見せる。ヒロインのナターシャは学校のマドンナであり、スィッダールトも彼女に惹かれていた。プロムに彼女を誘うことができたらと密かに思っていたが、サッカー部のエース、カビールを含め、ライバルは無数にいた。スィッダールトはサッカーの試合でゴールを決めたことでヒーローになり、ナターシャから好意を寄せられるようになる。だが、スィッダールトは文学少年でもあり、同じく文学が好きだったナターシャの妹ニティヤーの方が趣味が合うことに気付く。英語の授業でナターシャが朗読した詩にスィッダールトは感銘を受けるが、実はそれを書いたのはニティヤーだと聞いて、彼は完全にニティヤーに惚れ込む。スィッダールトはナターシャのアプローチを断り、ニティヤーをプロムに誘う。ロマンスが主体の映画ではなかったものの、この心情の変化や人間関係の進展には新しさを感じた。

 冒頭のカメラワークも良かった。メーナン家の壁に飾られた写真をひとつひとつ映し出すのだが、それによってメーナン家の家族史が語られ、父親が途中で亡くなったことが視聴者に伝えられる。センスのある始まり方だった。

 キャストの中でもっとも有名なのはジューヒー・チャーウラーだ。出番は少なかったが、要所で繊細な演技をしており、さすがであった。主演バービル・カーンは、お世辞にもハンサムとはいえないが、個性的な顔をしており、ヒンディー語映画界に彼が入り込むスペースはあるはずだ。ちょっとしたセリフのしゃべり方や仕草に父親の面影を見出すことができる。その他、新人かそれに近い若い俳優たちが多く出演していた。その中では弟アーディティヤを演じたアムリト・ジャヤンに将来性を感じた。

 ちなみに、映画の中で「オウンゴール」とあだ名されていたキャラが謎の日本語が書かれたTシャツを着ていた。インドのZ世代では日本語が「クール」という認識が広まっているのだろうか。

 「Friday Night Plan」は、高校卒業を目前に控え進路を決められずにいた若者が、母親の留守中に「フライデー・ナイト・プラン」という学校伝統のパーティーに弟と参加し、いくつかの事件を乗り越えて共に成長する物語だ。あまりインドらしくない高校生活だったとは感じるが、これが現在のインドなのかもしれない。父親の面影が残る演技をしていた主演バービル・カーンを含め、若い俳優も多く起用されているが、この中から将来のスターが生まれるかもしれない。