マラヤーラム語のヒット映画「Drishyam」(2013年)はヒンディー語でも同じ題名「Drishyam」(2015年)でリメイクされ大ヒットした。マラヤーラム語ではその続編「Drishyam 2」(2021年)が公開され高い評価を受けたが、ヒンディー語でも同じくリメイクの続編「Drishyam 2」が作られ、2022年11月18日に公開された。
前作はニシカーント・カーマトが監督を務めたが、映画製作公表前に肝硬変で死去し、前作のプロデューサーの一人アビシェーク・パータクが急遽代わって監督を務めることになった。アビシェーク・パータクは過去に「Atithi Tum Kab Jaoge?」(2010年)などの助監督を務めたことがあるが、監督は初になる。
ヒンディー語映画には、題名上は続編に見えても実際にはストーリー上何の関連性もない映画が少なくないのだが、この「Drishyam 2」は前作の7年後の物語になっており、前作と連続性がある。よって、前作を観ていないとストーリーに付いて行けないので注意が必要だ。
キャストも前作から引き継がれており、主演アジャイ・デーヴガンが変わらない他、シュリヤー・サラン、タブー、イシター・ダッター、ムルナール・ジャーダヴ、ラジャト・カプール、カムレーシュ・サーワントなども続投している。彼らに加えて、アクシャイ・カンナー、サウラブ・シュクラー、ネーハー・ジョーシーといった新しい面々もキャスティングされている。特にアクシャイ・カンナーの起用が特筆すべきで、アジャイ・デーヴガンとの共演は「Aakrosh」(2010年)以来になる。
題名の「Drishyam」とは「見えているもの」という意味で、事実と見えているものは異なるという前作から続くテーマが続編の本作でも問い直されている。
2014年10月4日、ゴア州のポンドレム。デーヴィッド・ブラガンザは殺人をして警察から逃げる途中で、建設途中だったポンドレム警察署からヴィジャイ・サールガーオンカル(アジャイ・デーヴガン)がスコップを持って出て来るのを目撃する。その後、デーヴィッドは警察に逮捕され、服役することになる。 それから7年後。ケーブル会社の社長だったヴィジャイは映画館を建て、地域の有名人になっていたが、人々は今でもサムを殺したのはヴィジャイの一家だと噂していた。ヴィジャイは、妻のナンディニー(シュリヤー・サラン)、娘のアンジュ(イシター・ダッター)とアヌ(ムルナール・ジャーダヴ)と共にあまり外界とは交流を持たずに暮らしていたが、映画館を建てるために売った土地には、ジェニー(ネーハー・ジョーシー)とその飲んだくれの夫が家を建てて住んでいた。 元警視総監のミーラー・デーシュムク(タブー)は、まだヴィジャイを許していなかった。その夫マヘーシュ(ラジャト・カプール)はヴィジャイを訪れ、息子の遺灰だけでも返してくれるように頼むが、ヴィジャイはそれを断る。だが、タルン・アフラーワト警視監(アクシャイ・カンナー)はヴィジャイを逮捕するために彼の周辺に網を張り巡らせていた。7年前にヴィジャイを容疑者だと断定し停職処分になったガーイトーンデー警部補(カムレーシュ・サーワント)を呼び戻し捜査に当たらせていた上に、実はジェニーは彼に送り込まれた警察官だったのである。ジェニーはナンディニーと親交を深めながら情報を収集していた。 ジェニーの諜報活動により、ヴィジャイが2014年10月4日にサムの死体を自宅の庭からどこかへ移したことは分かったのだが、どこへ移したのかが分からなかった。そこでタルンは情報提供者に50万ルピーの報奨金を出すことを公表する。それに反応したのが、刑期を終えて娑婆に出て来ていたデーヴィッドだった。デーヴィッドの情報提供により、サムの遺体がポンドレム警察署の下に埋められていることが分かる。タルン警視監は許可を取って警察署を掘り返し、白骨化した遺体を発見する。 ヴィジャイ、ナンディニー、アンジュ、アヌはタルン警視監やガーイトーンデー警部補から尋問を受ける。ヴィジャイは遂に自分がサムを殺し庭に埋めた後、警察署に移したことを自白する。こうしてサム殺人事件の公判が再開される。 タルン警視監、ミーラー、マヘーシュは公判の行方を見守るが、そこへ著名な脚本家ムラード・アリー(サウラブ・シュクラー)が訪れる。ムラードはヴィジャイと共に新しい映画の脚本を練り上げているところだった。ムラードは、ヴィジャイが彼の名前で出版させた一冊の本「Drishyam」を紹介し、この事件と関係があると主張する。 果たしてムラードの言う通り、公判は意外な展開を迎える。ヴィジャイの弁護士は、警察が「Drishyam」の筋書き通りにヴィジャイに濡れ衣を着せたと主張し、自白も強要されたものだと述べる。また、警察署の地下から発見された白骨死体のDNAテストの結果が出るが、サムとは別人だった。こうしてヴィジャイは無罪放免になる。 実はヴィジャイは墓守と仲良くなっており、そこからサムとよく似た特徴の死体を買い取っていた。また、検死が行われる医科大学の警備員とも飲み仲間になっていた。白骨死体が発見された日、ヴィジャイは医科大学に直行し、死体をすり替えていた。こうしてヴィジャイは再び家族と自分を守り切ったのだった。ただ、ヴィジャイはサムの遺灰をマヘーシュに返す配慮だけはした。
悪に引導が渡されるがインド映画の本流ではあるが、「Drishyam」シリーズでは、殺人を犯してしまった娘アンジュを守るため、主人公ヴィジャイが沈着冷静に、かつ知恵を振り絞って、警察を翻弄するというストーリーが売りになっている。前作を観れば分かるが、アンジュはどうしようもない状況に追い込まれて不作為に殺人を犯してしまったわけで、観客の同情はよりヴィジャイの家族に集まりやすい。ただし、息子を殺されたミーラーも、家族愛から犯人への復讐を執拗に求めているのであり、心境は複雑だ。ミーラーは前作で警視総監だったが、事件の責任を取って辞職したため、今回は頭脳明晰な新キャラ、タルン警視監がヴィジャイを追い詰める。
「Drishyam 2」の焦点は、サムの遺体がどこにあるか、である。タルン警視監をはじめとした警察側は必死になって遺体を探し回るが見つからない。ところが、ひょんなところから目撃者が現われ、7年前に建設中だった警察署の地下に埋められたことが発覚する。遺体が見つかったことでヴィジャイは絶体絶命の危機に陥り、もはや有罪は避けられない状況になる。
ほとんどの観客も、ヴィジャイの有罪判決は避けられないと感じたはずであるが、そこからこの映画は急展開を迎える。断片的に伏線が張られていたが、それらが全て最後にまとめられ、ヴィジャイとその家族を奇跡的に救うのである。彼が再び容疑から逃れられた理由は、遺体のすり替えに成功したからだった。DNAテストが行われる前に医科大学の保管場所に侵入してすり替えを行っていたことが後から説明される。そのためにヴィジャイは、適切な遺体を入手し、医科大学の警備員を籠絡させていた。論理的に完璧な説明とはいかなかったが、とりあえず力技で納得させられた気分である。
前作に続き「Drishyam 2」はまず脚本の勝利だ。徐々に追い詰められたヴィジャイが最後に一発逆転をかますまでが緻密に描写され、その過程にゾクゾクするようなスリルがある。それに加えて俳優陣の演技も素晴らしい。アジャイ・デーヴガン、アクシャイ・カンナー、タブーといったベテラン俳優たちが最高の演技を見せる。特にアクシャイ・カンナーは、すっかりはげ上がってしまった頭部を隠しもせず、渋い演技をしていた。
「Drishyam 2」は、殺人を犯してしまった娘を守るために奔走する父親が主人公のクライムサスペンス映画である。前作に引き続き緻密な脚本と優れた演技が見所の映画で、興行的にも大成功しており、2022年のヒンディー語映画の中では2番目にヒットした映画になっている。ストーリーは前作から続いているので、「Drishyam」を観てから本作を観ることをオススメする。