Aakrosh

3.5

 インドではここ数年、「名誉殺人」と呼ばれる殺人事件がクローズアップされている。家族やコミュニティーの名誉を守るための殺人で、特に異カースト間や同ゴートラ間で駆け落ち結婚した若いカップルがその被害に遭うことが多い。ただ、名誉殺人が増えたという訳ではないようだ。名誉殺人自体は昔からあり、特に農村部では密かに行われ密かに処理されていた。最近その被害者がデリーのような都会にも現れるようになり、やっと事件として取り上げられるようになったというのが実態のようである。

 本日(2010年10月15日)より公開の新作ヒンディー語映画「Aakrosh」は、ビハール州を舞台にし、名誉殺人をテーマにした映画である。実話を基にしたフィクションとのこと。監督は「コメディーの帝王」として知られるプリヤダルシャン。ハチャメチャなコメディー映画を得意とするが、時々シリアスな映画も撮っており、多作かつ多様なフィルモグラフィーを持っている。アジャイ・デーヴガンとアクシャイ・カンナーの共演も見所である。

監督:プリヤダルシャン
制作:クマール・マンガト・パータク
音楽:プリータム
歌詞:イルシャード・カーミル
出演:アジャイ・デーヴガン、アクシャイ・カンナー、ビパーシャー・バス、アミター・パータク、ウルヴァシー・シャルマー、パレーシュ・ラーワル、サーミラー・レッディー(特別出演)など
備考:PVRアヌパム4で鑑賞。

 デリーで医学を学ぶ大学生3人が行方不明になるという事件が発生。既に失踪から2ヶ月が経つが何も手掛かりはなく、デリーでは学生たちによるデモ活動が続いていた。捜査は中央情報局(CBI)に委ねられ、CBIに所属するプラタープ・クマール(アジャイ・デーヴガン)とスィッダーント・チャトゥルヴェーディー(アクシャイ・カンナー)が捜査を担当することになった。二人は大学生が最後に目撃されたビハール州ジャーンジャルに降り立つ。

 だが、ジャーンジャルの警察は全くCBIに協力的ではなかった。特にアジャトシャトル・スィン(パレーシュ・ラーワル)は何かに付けてプラタープとスィッダーントをからかった。また、村人たちも地元の権力者に怯えており、誰も口を開こうとしなかった。さらに、ジャーンジャルではシュール・セーナーと呼ばれる過激団体が暗躍しており、プラタープとスィッダーントは早速シュール・セーナーの襲撃を受ける。

 ところで、プラタープは偶然アジャトシャトルの妻が、かつての恋人ギーター(ビパーシャー・バス)であることを発見する。プラタープはダリト(不可触民)の生まれで、幼少時に両親を亡くし、マスタージー(教師)に育てられていた。ギーターはマスタージーの娘であった。マスタージーはダリトのプラタープを育てたが、ギーターとは結婚させようとしなかった。マスタージーにそれを伝えられたプラタープはギーターを諦めて立ち去った。そんな過去があったのだった。プラタープはギーターに話しかけようとするが、ギーターは彼のことを全く無視していた。

 捜査が行き詰まっていた頃、運良く大学生たちが乗っていた自動車が川底から見つかる。だが、どうやら車は落ちたのではなく落とされたようであった。その車を調べてみたところ、地元有力政治家の娘ローシュニー(アミター・パータク)の携帯電話が発見される。プラタープとスィッダーントはローシュニーを連行し、尋問を行う。その結果、ローシュニーは行方不明の大学生の1人ディーヌーと恋仲にあり、友人2人の助けを借りて駆け落ち結婚をしようとしたが、警察に捕まってしまったことが分かる。だが、ローシュニーはどの警察がその場にいたのかを覚えておらず、彼女の証言を元に立証することは出来なかった。プラタープとスィッダーントは上司からも叱られ、調査は終了ということになってしまった。

 大学生行方不明事件が一段落付いたところで、CBIに協力した者への反撃が始まった。権力者の圧政に反対の声を上げたジャーンジャルの村は焼き討ちに遭い、ディーヌーと接点のあった女性(ウルヴァシー・シャルマー)の夫と息子が殺されてしまう。ギーターはプラタープが帰るのを知って心を改め、その女性とプラタープを引き合わせようとする。ところがその女性は誘拐されてしまい、舌を切り取られてしまう。そこで今度はギーターがプラタープに直接アジャトシャトルの家で見たことを話す。

 やはり行方不明の大学生三人はアジャトシャトルに捕まっていた。地元有力政治家がディーヌーを殺し、他の二人はアジャトシャトルが殺していた。そして遺体を森林の遺跡の中に捨てていた。それを知ったプラタープとスィッダーントはその場を捜査し、三人の遺体を発見する。遺体が発見されたことで事件は急展開を迎え、俄然マスコミの注目を集めることになる。ところが、ギーターがプラタープに情報を漏らしたことを知ったアジャトシャトルはギーターに酷い暴行を加える。

 プラタープとスィッダーントはアジャトシャトルら実行犯の中からもっとも弱そうな人物に狙いを定め、彼を証人にならざるをえない状況に陥れる。その結果、アジャトシャトルらの有罪が確定し、懲役刑が言い渡された。だが、すぐに釈放されることは目に見えていた。そこでスィッダーントは密かに、夫と息子を殺され舌を切られた女性に銃を渡しており、彼女に復讐させた。アジャトシャトルらはその場で射殺され、報いを受けた。

 円熟期に入ったアジャイ・デーヴガンとアクシャイ・カンナーの見事な共演、それにパレーシュ・ラーワルら脇役陣の好演により、重厚なドラマとなっていた。それに加え、プリヤダルシャン映画が得意とするコメディーとはタッチの異なるシニカルな笑いも盛り込まれていたし、スリリングなアクションシーンも盛りだくさんで息を付かせない展開であった。ただ、残虐な暴力シーンが多く、脚本も細かい部分で詰めの甘さが見られた。

 3人の大学生の失踪事件から名誉殺人へと展開して行く映画ではあったが、映画の真のテーマはインドの農村部に根強く残るカースト制度、もっと正確に言うならばカースト意識であった。映画中では、相手の名前を聞いてカーストを判断しようとするシーンがいくつも登場する。インド人の名前の多くはカーストの指標となっており、名前を聞けばその人の大体の出身地やカーストが分かってしまう。それ故に敢えてカーストを隠す名前を名乗っている人もいるが、カースト制度から逃れることは難しい。映画中では主に2つのカースト差別被害者が出て来た。ひとつはメインの事件である大学生失踪事件の関連。地元有力政治家の娘と結婚しようとした大学生はダリト(不可触民)であり、そのために正攻法では結婚が許されず、駆け落ちを実行せざるを得なかった。そしてそれが失敗したことで命を落とすことになる。もうひとつはプラタープの身の上である。プラタープ自身もダリトであり、カースト差別の被害に遭って一家を失った経歴を持っていた。その上、育ての親からも、カーストを理由にその娘ギーターとの結婚を認めてもらえなかった。だからプラタープはカーストによる差別に常に反対していた。農村の人々の意識にどこまでカースト制度から来る恐怖が植え付けられているか、映像化することによく成功していたと言える。

 「Love Sex Aur Dhokha」(2010年)でも名誉殺人が部分的に取り上げられていたが、どちらかというと都市型名誉殺人で、駆け落ちしたカップル両方が女性側家族に殺害された。一方、「Aakrosh」では駆け落ちしようとしたカップルの内男性とその友人たちが女性側家族などに殺され、女性は無理矢理結婚させられようとしていた。「Aakrosh」で描かれた名誉殺人はどちらかというと軽い方で、外国人にも理解しやすい。最近ニュースになる名誉殺人は、女性側家族が禁断の恋をした娘を殺害する事件が多い。相手の男性が殺されるかどうかは状況次第である。

 近年のヒンディー語映画は海外を舞台にした都市志向の映画が支配的だったのだが、今年のヒンディー語映画界では農村または地方都市を舞台にした良作が続いており、揺り戻しの年となっている。「Ishqiya」(2010年)、「Peepli Live」(2010年)、「Antardwand」(2010年)、「Dabangg」(2010年)など、今年話題になった映画のいくつかは非都市映画である。「Aakrosh」がヒットするかどうかはまだ未知数であるが、これもビハール州の架空の町ジャーンジャルを舞台にしている。また、映画中に登場した地元有力政治家は、ビハール州の名物政治家ラールー・プラサードをモデルにしていることは明らかだった。

 アジャイ・デーヴガンは最近立て続けにダリト役を演じている。「Raajneeti」(2010年)ではダリト青年政治家スーラジ・クマールを演じ、今回はダリトCBI捜査官プラタープ・クマールを演じた。恐らく肌の色が黒いためにダリト役をオファーされるのだろう(一般に肌の色が白いほどカーストが高い傾向がある)。アジャイは前から渋かったが、特にここ最近はその渋さに磨きがかかったように感じる。対するアクシャイ・カンナーも眉毛を総動員させた表情豊かな演技で、久し振りに存在感を示せていた。プリヤダルシャン監督のお気に入り、パレーシュ・ラーワルは、悪役ながら主役を食う怪演。本当にうまい俳優だ。

 映画には3人のヒロインが登場する。その内の第一ヒロインと言えるのがビパーシャー・バス。ゴージャスな役を演じることが多いビパーシャーであるが、今回は家庭内暴力に苛まれる抑圧された女性役で、かなりシリアスな演技力を要する役であった。メイクを最小限に抑え、精一杯セレブオーラを放出しないようにしていたが、やはりどこか煌びやかな印象はぬぐえず、この役にはマッチしてなかった。残りのアミター・パータクとウルヴァシー・シャルマーについてはそれほど見せ場がないのだが、特にウルヴァシー・シャルマーの方はビパーシャー・バスよりもさらに酷い目に遭う女性を演じており、潔さを感じた。もう1人、サミーラー・レッディーがアイテムナンバー「Isak Se Meetha」でアイテムガール出演していた。

 音楽はプリータム。基本的にハードボイルドな映画で、挿入歌・ダンスシーンは控え目だった。アイテムナンバー「Isak Se Meetha」は「Omkara」(2006年)の「Beedi」などを意識した曲だろうが、「Dabangg」のアイテムナンバー「Munni Badnaam」が目下大ヒット中であるため、インパクトに欠けた。

 「Aakrosh」は、名誉殺人というホットな話題をテーマにした、実話に基づいたフィクションドラマである。アジャイ・デーヴガンとアクシャイ・カンナーの渋い共演が最大の見所。次から次へとスリリングなシーンが続くため、アクションスリラーとしても一級品である。ただ、多少暴力シーンが多く、脚本も詰めが甘かったように感じた。それでも観て損はない映画であることには変わりない。