Jogi

3.0
Jogi

 2022年9月16日からNetflixで配信開始された「Jogi」は、1984年の反スィク教徒暴動を時代背景にした友情ドラマである。一般の日本人にはあまり知られていない事件であろうが、一応日本語字幕が付いている。ただ、この日本語字幕はあまり正確ではなかった。専門家の監修が必要ではなかろうか。

 1980年代の北インドでは、パンジャーブ州独立を目指すカーリスターン運動が燃え上がっていた。その指導者ジャルナイル・スィン・ビンドラーンワーレーは1982年にアムリトサルの黄金寺院に立てこもり、寺院を要塞化した。1984年、インディラー・ガーンディー首相は強硬手段に出た。ブルースター作戦と称し、インド陸軍を黄金寺院に突入させ、ビンドラーンワーレーを殺害したのである。スィク教の聖地である黄金寺院への攻撃はスィク教徒たちに動揺をもたらし、結果的に、インディラー・ガーンディー首相の護衛を務めていたスィク教徒たちによる首相暗殺事件を引き起こした。これがさらにスィク教徒に対する暴動に発展した。特にスィク教徒人口の多いデリーでは各地でスィク教徒が虐殺された。公式にはインド全土で3,350人のスィク教徒が殺されたとされているが、実際には万を優に超える数のスィク教徒が虐殺されたとされている。

 1984年の反スィク教徒暴動に対する映画界の関心は高く、これまで「Amu」(2005年)や「Rubaru Roshni」(2019年)などの映画が作られてきた。「Jogi」は、どちらかというと事件の真相に迫る目的で作られた映画ではなく、反スィク教徒暴動を背景にして作られたフィクション映画である。

 監督は「Sultan」(2016年/邦題:スルタン)や「Bharat」(2019年)のアリー・アッバース・ザファル。キャストは、ディルジート・ドーサンジ、アマーイラー・ダストゥール、ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ、クムド・ミシュラー、ヒテーン・テージワーニーなど。

 時は1984年10月31日。ブルースター作戦の後、インディラー・ガーンディー首相がスィク教徒の護衛に暗殺された。デリーのトリロークプリーに住むスィク教徒ジョーギー(ディルジート・ドーサンジ)やその他のスィク教徒たちは周辺の人々から暴行を受けるようになり、やがてそれは暴動に発展する。ジョーギーは近所のスィク教徒をグルドワーラーに逃がした。

 一方、ラヴィンダル警部補(ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブ)は、トリロークプル選挙区選出の議員テージパール(クムド・ミシュラー)から有権者リストを渡され、スィク教徒を殺害するように指示される。その中には、彼の親友ジョーギーの名前もあった。ラヴィンダル警部補はグルドワーラーに隠れたジョーギーに会いに行き、命が危ないと伝える。ジョーギーは髪を切って変装し、ラヴィンダル警部補と共に、グルドワーラーに避難したスィク教徒たちをパンジャーブ州に逃がす手はずを整える。彼らの友人カリームがトラックを貸してくれた。

 ラヴィンダル警部補とジョーギーはトラックに乗せられるだけの老人や子供を乗せ、パンジャーブ州に向かう。だが、カルナールでの検問でスィク教徒を連れていることがばれてしまう。何とか検問を突破したものの、ラヴィンダル警部補の行動はテージパールや、彼の同僚ラーリー(ヒテーン・テージワーニー)に知れてしまう。

 デリーに戻ったラヴィンダル警部補は、もはやトラックで人々を密輸することは不可能だと悟る。そこでラヴィンダル警部補はトリロークプリーを包囲する警察をわざとグルドワーラーに仕向け、その隙にスィク教徒たちを別の場所に移動させる。妹カンモー(アマーイラー・ダストゥール)の自殺の原因を作ったジョーギーに個人的な恨みがあったラーリーは執拗にジョーギーを追うが、彼からカンモーに対する愛情や苦しみの吐露を聞き、引き下がる。

 ラヴィンダル警部補とジョーギーは、スィク教徒たちを警察署の地下に移動させる。だが、二人はテージパールの手下に捕まってしまう。ジョーギーは撃たれ、スィク教徒たちも殺されそうになるが、そのときラーリーの通報によって陸軍が救援に駆けつけ、彼らは救出される。だが、ジョーギーは息を引き取る。

 映画の舞台になっているデリーのトリロークプリーは、スィク教徒が多く住む住宅街で、しかも1984年の反スィク教徒暴動時にはもっとも多くの犠牲者を出した地域として知られている。主人公ジョーギーはトリロークプリー在住のスィク教徒であった。

 ジョーギーは、グルドワーラーに避難したスィク教徒たちを脱出させるための手はずを整えるため、親友ラヴィンダル警部補の助けを借りて、グルドワーラーの外に出ることになる。だが、スィク教徒は外見ですぐにスィク教徒とばれてしまう(参照)。そこで彼は、ターバンを外し、髪を切る。

 スィク教徒は教義によって、髪などの毛を切ったり剃ったりすることが禁止されている。よって、スィク教徒は男性も女性も基本的に長髪である。ジョーギーは、多くのスィク教徒の命を救うため、敢えてそのタブーを犯して髪をばっさりと切ってしまう。1984年の反スィク教徒暴動のときには、命を守るため、本当に髪を切ったスィク教徒がたくさんいた。また、スィク教徒はカラーと呼ばれる金属製の腕輪も身に付けている。ジョーギーはこれも外していた。

 まずジョーギーとラヴィンダル警部補が取り組んだのが、トラックの荷台を二重構造にし、隠し部屋にスィク教徒たちを隠して、パンジャーブ州まで輸送するという手段であった。一応、この作戦は成功し、一部のスィク教徒をパンジャーブ州まで送り届けることができた。だが、途中で一度ばれてしまっていたため、二度と同じ手段は使えなかった。当時、本当にこのような手段で脱出するスィク教徒たちがいたかどうかは分からない。

 次に二人は、残ったスィク教徒たちをグルドワーラーからダルガー(聖者廟)へ、ダルガーから民家へと移し、最終的には警察署の地下に隠す。暴動中、警官は外に出払っていたため、逆にもぬけの殻になっていたのである。これはさすがにフィクションであろう。

 また、「Jogi」の中では、トリロークプリー選出の議員(Councillor)が、国会議員への公認を党の上層部から勝ち取るために、暴動を扇動する様子が描かれていた。当時のデリーは連邦直轄地(UT)であり、州議会はなく、デリー都市議会(Delhi Metropolitan Council)という議会に代わるものがあった。当時トリロークプリー選出の議員が誰だったのかは調べられなかったが、少なくとも「Jogi」においては、国民会議派の政治家であることは匂わされていた。そして、暴動が政治的に扇動されたものであることが既成事実として描かれていた。

 国民会議派は、ネルー・ガーンディー王朝と揶揄されるほど、ジャワーハルラール・ネルー初代首相に連なる家系が絶対的な権力を持っている政党である。暗殺されたインディラー・ガーンディー首相はネルーの娘であった。よって、その報復として、国民会議派の政治家たちは、スィク教徒に対する暴動を止めなかったばかりか、暴動を扇動した疑いが持たれている。これは国民会議派にとって不都合な真実であり、今になっても蒸し返されるのは嫌なはずである。アンチINCの映画の一種に数えることが可能である。

 基本的な時間軸は1984年だが、時々回想シーンが差し挟まれる。特に重要なのは3年前のシーンだ。ジョーギー、ラヴィンダル、カリーム、そしてラーリーは大学時代の仲間であるが、そのつながりは終盤になるまで明らかにはされない。特にジョーギーとラーリーの間には因縁があった。こういう人間関係をもっと時間を掛けて描いていれば、より深みのある映画になっていたかもしれない。ただ、暴動と友情を描いた「Kai Po Che」(2013年)の二番煎じを避けた可能性もある。

 パンジャービー語映画を本拠地とし、ヒンディー語映画でも人気を博すディルジート・ドーサンジは、芸の幅が広いスィク教徒俳優だ。歌手やコメディアンとしてのイメージが強いが、シリアスな演技もできる。今回は、スィク教徒としては非常に感傷的になると思われる、髪を切るシーンもあり、気合が入っていた。

 ムハンマド・ズィーシャーン・アユーブやクムド・ミシュラーなどの演技も良かった。アマーイラー・ダストゥールの出番は少なかった。

 「Jogi」は、1984年の反スィク教徒暴動を背景にし、スィク教徒の主人公ジョーギーが、多くのスィク教徒を救おうと犠牲になる物語である。そこに友情と裏切りが絡み盛り上げる作りになっている。ただ、事件と友情のどちらにももう少し深みが欲しかった。悪い映画ではないが、意義のある映画とはいえない。