何がきっかけになっているか分からないが、時々、かなり前にお蔵入りになった映画が突如として日の目を見ることがある。2022年7月7日にYouTubeにアップロードされた「Love You Hamesha」もそんな映画だ。1999年に製作が始まり、2001年にはサントラCDも発売されたが、何らかの事情により映画の公開が見送られ、そのままお蔵入りしていた。そのような映画は得てして駄作であることが多い。「Love You Hamesha」もそんな危険な香りがプンプンしたが、ストーリーの面白さよりも飾りの部分に見所が多く、語り甲斐のある映画になっている。
監督はカイラーシュ・スレーンドラナート。ほとんど無名の人物である。音楽監督はなんとARレヘマーン。2000年前後に彼は既に「巨匠」と呼ばれる売れっ子であり、彼を音楽監督に起用できたのは特筆すべきである。主演はアクシャイ・カンナーとソーナーリー・ベーンドレー。他に、ダリープ・ターヒル、アミターブ・ナンダー、リヤー・セーン、リレット・ドゥベーなどが出演している。また、ファッションデザイナーのローヒト・バルが本人役で出演している他、モデル時代のアルジュン・ラームパールが一瞬だけ画面に映る。さらに、1970年代から80年代にかけて数々のヒット作を手掛けた名監督マンモーハン・デーサーイーの息子ケータン・デーサーイーも本人役で特別出演している。
タミル語映画「May Maadham」(1994年)のリメイクとされている。
舞台はラージャスターン州ジャイプル。メカニックのシャウラト(アクシャイ・カンナー)はシヴァーニー(ソーナーリー・ベーンドレー)という美女と出会い一目惚れする。だが、地元で権勢を誇るラージプートのサムラート(アミターブ・ナンダー)もシヴァーニーを口説いていた。サムラートは家族の政治力を使って無理矢理シヴァーニーの母親や祖母と縁談をまとめ、彼女と婚約する。だが、シヴァーニーはシャウラトを愛していたため、悩んだ末に婚約を破棄する。シャウラトは大物になってシヴァーニーと結婚すると啖呵を切り、シヴァーニーを残してムンバイーに旅立つ。 シャウラトはムンバイーで幸運に恵まれ、瞬く間にスターに成り上がる。シャウラトは監督の娘で駆け出しの女優メーグナー(リヤー・セーン)と共演し、彼女に気に入られる。やがて、彼女とのただならぬ関係が噂されるようになる。不安になったシヴァーニーはシャウラトを追ってムンバイーにやって来る。シャウラトは懸命に愛しているのはシヴァーニーだけだと言い聞かせるが、業界はシャウラトが共演女優メーグナー以外の女性と結ばれるのを望まなかった。とうとうシヴァーニーはシャウラトと絶交する。そのままシヴァーニーはムンバイーに残り、ローヒト・バル(本人)に助けられてモデルとして成功する。 シヴァーニーから拒絶されるようになったシャウラトは自暴自棄になる。また、メーグナーもシャウラトがシヴァーニーを愛していることを知っていた。シャウラトはシヴァーニーの前で上階から飛び降りるが、それは演技であった。シヴァーニーはとうとうシャウラトの愛を受け入れる。
ストーリーや構成はいかにも1990年代のお気楽な低予算ヒンディー語娯楽映画である。一目惚れから始まる恋愛、三角関係、スターを目指してムンバイーに上京など、当時のお約束を一通りなぞる展開で目新しいものはなかった。しかし、撮影から20年後に振り返って観ると面白い点も見受けられる。
まず、主演のアクシャイ・カンナーだが、この頃はまだ髪がフサフサなだけででなく、「Taal」(1999年)や「Dil Chahta Hai」(2001年)を成功させ、人気絶頂期にあった。お粗末な映画に出演してしまったものだが、トップスターとしての自信とオーラには満ちており、ストーカー気味の彼の行動も肯定され得る説得力があった。劇中には「Taal」や「Dil Chahta Hai」の音楽も使われていたが、まだ著作権に対して意識が低かった時代の馴れ合いであろう。
メインヒロインのソーナーリー・ベーンドレーも「Duplicate」(1998年)や「Hum Saath-Saath Hain」(1999年)などで人気になっており、最盛期の彼女の姿をこの「Love You Hamesha」に見出すことができる。驚きなのはリヤー・セーンの出演だ。彼女のヒンディー語映画本格デビュー作は一般的には「Style」(2001年)とされているが、もし「Love You Hamesha」が先に公開されていたら、デビュー作はこちらだったはずである。元々幼く見える外見をしているが、撮影時にはまだ10代だったはずで、映画の中でも少女扱いのセカンドヒロインだった。しかしながら、セクシーな演技も果敢にこなしていた。
「Love You Hamesha」は、ARレヘマーンの未発表曲が収められた映画と位置づけることも可能だ。ただ、映画本体はお蔵入りになったものの、サントラCDは発売され、TVでダンスシーンの放送もあったとのことなので、完全には未発表ではない。1990年代のレヘマーンの音作りそのもので、タイトル曲の「Love You Hamesha」など、キャッチーな曲もある。確かにどこかで聴いたことがある曲が多く、サントラCDは持っていたかもしれない。2001年当時にサントラCDまで発売されながら公開されなかった理由が気になるところだ。
ストーリー進行上、あまり重要なシーンではなかったが、冒頭でビシュノーイーが登場していた。ビシュノーイーはラージャスターン州に住むコミュニティーで、環境保護を教義としたユニークな人々だ。映画の中には、序盤の悪役であるサムラートが森の中で鹿を狩ろうとし、ビシュノーイーたちに取り囲まれるというシーンがある。ビシュノーイーがヒンディー語映画界で話題になったのは1998年のことだ。「Hum Saath-Saath Hain」を撮影中だったサルマーン・カーン、サイフ・アリー・カーン、ソーナーリー・ベーンドレー、タブーなどがブラックバックと呼ばれる動物を狩猟し、ビシュノーイーの活動家たちに訴えられるという事件があった。その罪滅ぼしなのか分からないが、ソーナーリー・ベーンドレー演じるシヴァーニーは、鹿を撃とうとしたサムラートを制止している。
「Love You Hamesha」は、20年以上前に撮影されお蔵入りになっていた映画が突如として2022年にYouTubeにアップロードされたというタイムカプセル的な映画である。当時としてもヒットが望めそうになり出来ではあったが、若く絶頂期のアクシャイ・カンナーとソーナーリー・ベーンドレーが主演で、ARレヘマーンが音楽監督を務めており、話題性はある。まだ土臭かった頃のヒンディー語映画が好きな人なら懐かしく鑑賞することができるだろう。