Taal

5.0

 1999年8月13日公開の「Taal(リズム)」は、同年の大ヒット作の一本だ。インド映画の最大の特徴である歌と踊りをこれでもかと詰め込んだだけでなく、その作曲を巨匠ARレヘマーンに任せている。「Taal」の音楽は彼の最高傑作のひとつであり、音楽の良さからもそのヒットは約束されていたものと言えよう。その上に、娯楽映画の名手であるスバーシュ・ガイーが監督を務め、しっかりとストーリーをまとめている。そして何より、当時トップスターのアイシュワリヤー・ラーイが主演を務めている。ミス・ワールドに輝いた彼女の美貌がもっともよく映像に収められている作品でもあり、彼女のフィルモグラフィーでもこの映画は特別な地位を占めている。また、美貌先行でダンスや演技が批判されることが多かった彼女に、実力が備わり始めた頃の映画でもある。日本人の琴線にも触れやすい作品であり、「Taal」のファンは多い。2022年9月3日に改めて見返してこのレビューを書いている。

 前述の通り、監督はスバーシュ・ガイー、音楽監督はARレヘマーンである。主演はアクシャイ・カンナーとアイシュワリヤー・ラーイ。それにアニル・カプールがサブヒーロー役で出演している。他にアムリーシュ・プリー、アーローク・ナート、ジヴィダー・シャルマー、スシュマー・セート、マノージ・パーワー、サウラブ・シュクラー、ボビー・ダーリンなどが出演している。また、まだ無名だったシャーヒド・カプールとイーシャー・シャルヴァーニーがダンスシーン「Kahin Aag Lage」のバックダンサーで出演している。

 ヒマーチャル・プラデーシュ州に住む音楽家ターラーシャンカル(アーローク・ナート)の一人娘マーンスィー(アイシュワリヤー・ラーイ)は、ビジネスのために訪れたムンバイー在住の大富豪実業家ジャグモーハン・メヘター(アムリーシュ・プリー)の息子マーナヴ(アクシャイ・カンナー)と恋に落ちる。マーナヴはマーンスィーに、必ず彼女と結婚すると言い残してムンバイーに去って行く。

 娘の気持ちを知ったターラーシャンカルは、マーンスィーを連れてムンバイーへ行き、メヘター家を訪ねる。ところがそのときジャグモーハンとマーナヴは留守であった。メヘター家の他のメンバーは、マーナヴが貧しいマーンスィーを嫁にすることを快く思っておらず、彼らを冷遇する。それに怒ったターラーシャンカルは、帰ってきたジャグモーハンを平手打ちする。それを見たマーナヴは父親をかばい、彼とマーンスィーの仲は決裂する。

 メヘター家を追い出されたターラーシャンカルとマーンスィーは、人気音楽家ヴィクラーント・カプール(アニル・カプール)と出会い、スタジオに呼ばれる。ヴィクラーントはターラーシャンカルの歌をリミックスしてCDを発売しており、彼のことを知っていた。ヴィクラーントはマーンスィーの美貌と才能に気付き、彼女をメジャーデビューさせる。マーンスィーはあっという間にトップシンガーになった。また、ヴィクラーントから求婚されたマーンスィーはそれを受け入れる。

 一方、マーナヴはマーンスィーからもらったマフラーを守るために火事の中に飛び込み怪我をする。息子の強い恋心を知ったジャグモーハンはターラーシャンカルに謝罪し、息子とマーンスィーを結婚させるように頼む。だが、既にマーンスィーはヴィクラーントと音楽コンペティション出場のためにカナダに行っており、インドに戻り次第結婚する予定だった。だが、マーンスィーはマーナヴが火事で怪我をしたことを知り、動揺する。

 コンペティションで優勝し凱旋帰国したヴィクラーントとマーンスィーは、そのまま結婚しようとし、パレードをする。だが、ヴィクラーントはマーンスィーがマーナヴを忘れられていないことを知り、彼女をマーナヴに譲る。

 インドでは富の女神であるラクシュミーと学芸の女神であるサラスワティーとは不仲だと言われている。つまり、商売人は学問や芸術を極められず、学者や芸術家は裕福にはなれないという意味である。ラクシュミー女神の信仰者として登場するのが、実業家ジャグモーハンとその息子マーナヴだ。一方、サラスワティー女神の信仰者として登場するのが、音楽家ターラーシャンカルとその娘マーンスィーである。本来不仲なはずのラクシュミーとサラスワティーが出会い、恋に落ちるとどうなるか、というのがこの映画のひとつの主題であった。

 また、世紀の狭間に作られた映画であり、改めて見直すと、これまで蓄積されてきた20世紀的な価値観と、今後来たるであろう21世紀的な価値観がぶつかり合う様が描かれていることに気付く。ジャグモーハンもターラーシャンカルも20世紀的な人物であるが、中盤から新たに第三者として乱入する、アニル・カプール演じるヴィクラーントは、芸術を金に換える方法を知り、実践する、21世紀的な人物である。彼は、ターラーシャンカルが作った歌を、「リミックス」と称して盗用し、自分のものにして売り出していた。

 ヴィクラーントの会社に所属するダンサーたちが踊るダンスもコンテンポラリーダンスである。ヒンディー語映画にコンテンポラリーダンスが登場するのはこれが初めてではないはずだが、序盤における牧歌的かつ伝統的なダンスと比較して、そのモダンさは際立っており、新鮮さを感じる。コレオグラファーはシヤーマク・ダーバルである。

 また、「Jaa, Simran Jaa」効果が適用されている映画でもある。すなわち、物語の最後の最後で、恋し合う男女の恋愛が認められるという筋書きの映画のことで、堰き止められていた感情が一気に放出され、大きなカタルシスが得られる効果がある。しかも、それを後押しするのが、今までそれを止めていた人物である点が重要だ。アムリーシュ・プリーが「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦)のラストで行った行為に由来している。本作でもアムリーシュは出演しているが、今回はアニル・カプールが自分の許嫁を恋敵に譲るというパターンであった。

 それにしてもアイシュワリヤー・ラーイ絶頂期の映画である。彼女のピュアな美貌はスバーシュ・ガイー監督の筆致によってさらに磨きが掛けられている。雨も効果的に使われており、アイシュワリヤーをずぶ濡れにすることで瑞々しく輝いている。デビュー以来、演技やダンスを批判されてきた彼女だが、「Taal」を観る限り、この頃までにはかなり特訓して一人前のインド映画女優に成長していると感じる。

 相手役のアクシャイ・カンナーも、この頃がキャリアの絶頂期にあったと言えるかもしれない。アイシュワリヤー演じるマーンスィーをネットリとストーカーする序盤の行動には気持ち悪さを感じる人もいるかもしれないが、恋に狂った御曹司を好演していた。

 「Taal」では12曲もの挿入歌が使われている。歌と歌の間にストーリーが入っているようなものだ。だが、ARレヘマーン作曲の各曲がとても良く、全く邪魔に感じない。「Ishq Bina」、「Taal Se Taal」など名曲揃いであるし、それらが効果的にリフレインされており、全体を貫くテーマ作りにも成功している。また、その合間に入るストーリーもシンプルながら引きつけるものがあり、3時間ある映画は全く長く感じない。

 「Taal」は、娯楽映画の名手であるスバーシュ・ガイー監督が、ARレヘマーン、アイシュワリヤー・ラーイ、シヤーマク・ダーバルなどの才能を結集して作り上げた、1990年代を代表する傑作である。必見の映画だ。


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