Major

4.0
Major

 2008年11月26日に起こったムンバイー同時多発テロはインド人の心理に深い傷跡を残した。何しろインドの商都ムンバイーを象徴するタージマハル・ホテルやチャトラパティ・シヴァージー・ターミナスなどが襲撃を受けたのである。ムンバイーを本拠地とするヒンディー語映画界がこの題材に手を付けないはずがなく、「The Attacks of 26/11」(2013年)、「Sonata」(2017年)、「Rubaru Roshni」(2019年)などが作られてきた。オーストラリア映画ではあるが、「Hotel Mumbai」(2018年/邦題:ホテル・ムンバイ)という映画もあった。

 また、近年インドでは愛国主義映画が人気であるが、その中で、テロリストに立ち向かう兵士を主人公にした実話の映画も売れ筋になっている。「Uri: The Surgical Strike」(2019年)や「Shershaah」(2021年)が代表だ。

 2022年6月3日公開の「Major(少佐)」は、ムンバイー同時多発テロで殉死した軍人サンディープ・ウンニクリシュナンを主人公にした伝記的アクション映画である。サンディープの遺族の全面的協力の下に作られたようで、実名で登場している。テルグ語映画界のスター、マヘーシュ・バーブーがプロデュースし、シャシ・キラン・ティッカーが監督している。汎インド映画のフォーマットに則り、テルグ語版、マラヤラーム語版、ヒンディー語版が同時製作されている。鑑賞したのはヒンディー語版である。

 主演は「Baahubali: The Beginning」(2015年)にも出演していたアディヴィ・シェーシュ。基本的にテルグ語映画俳優であり、ヒンディー語映画への出演は今回が初となる。他に、プラカーシュ・ラージ、ソービター・ドゥリパーラー、サイー・マーンジュレーカル、レーヴァティー、ムラリー・シャルマーなどが出演している。

 バンガロール出身のサンディープ・ウンニクリシュナン(アディヴィ・シェーシュ)は、父親(プラカーシュ・ラージ)の反対を押し切って陸軍国防警備隊(NSG)に入隊する。兵士として人一倍使命感が強かったサンディープはスピード昇進し、NSGの教官になる。また、サンディープは学生時代から付き合っていたイシャー(サイー・マーンジュレーカル)と結婚するが、軍役を優先した生活をしていたため、イシャーからは離婚を突き付けられる。

 2008年11月26日、ムンバイー同時多発テロが発生する。サンディープは教官ながら自ら志願してムンバイーへ行き、コマンドー部隊を率いることになる。サンディープはタージマハル・ホテルに突入して首尾良く作戦を遂行し、多くの人質を救い出す。だが、プラモーダー・レッディー(ソービター・ドゥリパーラー)という宿泊客が子供と一緒に取り残されていることを知り、単身救出に向かう。そこでサンディープはプラモーダーたちを助けるものの、テロリストに殺されてしまう。

 娯楽映画として成立させるために、アクションシーンやロマンスシーンに多少の脚色は施されていただろうが、主人公サンディープ・ウンニクリシュナンは実在の人物であり、彼の生い立ちや人となりはかなり忠実に再現されていたようだ。国民を守って殉死した英雄をこうして映画にして敬意と共に最大限記憶していこうとする努力は賞賛されるべきものである。しかも映画として面白く、愛国心を高揚する効果も高い。その代わり、このテロ事件を主導したパーキスターンを拠点とするテロ組織に対する憎悪は改めて増幅される。

 映画全体は、プラカーシュ・ラージ演じる父親のナレーションによって語られる。サンディープは幼少時から、とにかく困っている人を助けずにはいられない正義感に満ちた人間として描写されていた。家族は、無用なトラブルに巻き込まれることを恐れて、サンディープのその人助け癖を抑止しようとするのだが、サンディープの性格は直らず、とうとう国家を守る仕事に就いてしまう。父親は、サンディープは特別な人間だったと回想している。

 サンディープがラストで命を落としたのも、取り残された一般市民を助けるためだった。ムラリー・シャルマー演じるシェーラー司令官は、これ以上の隊員を犠牲にしてまで救出作戦は実行しないと決断するが、サンディープはそれを聞かず、兵士としての義務を果たすために救出に向かう。かつてサンディープは、「兵士とは何か」との問いに対して真剣に向き合い、その結果、「兵士とは生き様である」と結論づける。正にそれを体現するかのような死に様であった。

 後半はタージマハル・ホテルに潜むテロリストとの銃撃戦を主体としたアクション映画になるが、意外にサンディープの生い立ちを描いた前半も丁寧に作られていた。特にサンディープと恋人イシャーの恋模様は感動的だった。

 ムンバイー同時多発テロ事件を描いた映画でよく取り上げられるのがメディアの功罪である。テロリストが立て籠もったタージマハル・ホテル周辺にはマスコミが詰め掛け、対テロ作戦に従事する軍人や警察の一挙手一投足を逐一報道していた。それがテロリストにも筒抜けになってしまい、彼らを利することになった。マスコミの利己的な視聴率至上主義が国家の安全を脅かした出来事としてもこの事件は記憶されている。ただ、サンディープはそれを逆手に取って、偽の情報をメディアに流し、テロリストをおびき出して殲滅する作戦を実行していた。さすがにこの点はフィクションではないかと思う。

 サンディープを演じたアディヴィ・シェーシュの演技は良かったが、ヒロインのサイー・マーンジュレーカルはどうも演技に身が入っていなかった。監督・俳優マヘーシュ・マーンジュレーカルの娘であり、ヒンディー語映画デビューは「Dabangg 3」(2019年)であったが、どうも女優は向いていない気がする。サブヒロイン扱いになるソービター・ドゥリパーラーは緊迫感ある演技をしていた。

 「Major」は、2008年のムンバイー同時多発テロ事件で殉死した実在のコマンドー、サンディープ・ウンニクリシュナンの伝記映画である。後半はほぼアクション映画だが、前半でよくサンディープの人となりや人間関係が描けていたため、深みのある映画になっていた。多少のフィクションは含まれるだろうが、国を守るために命を投げ打って活躍した英雄をこうして映画にし、永遠に国民の記憶に留めようとする動きは価値あるものだ。観て損はない映画である。