Uri: The Surgical Strike

4.5
Uri: The Surgical Strike
「Uri: The Surgical Strike」

 2016年は印パ関係にとって重要な年であった。1月に4名のテロリストがパンジャーブ州のパターンコート空軍基地に侵入し、7名の兵士が殺された。9月にはさらに4名のテロリストがジャンムー&カシュミール州(当時)のウーリー陸軍駐屯地に侵入し、19名の兵士と4名の市民が殺された。どちらのテロリストもパーキスターン領から越境してきたことは明らかだった。これを受けてインドは9月29日にパーキスターン領に位置するテロリストの拠点を「サージカルストライク(ピンポイント攻撃)」したと発表した。この攻撃について、印パで主張が食い違っており、実際に何が起こったのかははっきりしない。だが、インドが何らかの軍事行動を起こし、パーキスターン側に何らかの被害があったことだけは確かである。2016年のウーリー襲撃事件とサージカル・ストライクを題材にしたヒンディー語映画が「Uri: The Surgical Strke」である。インドでは2019年1月11日に公開された。

 監督は新人のアーディティヤ・ダール。作詞家として映画業界に入り、台詞作家を経て、本作で監督デビューをした。主演は「Sanju」(2018年)などのヴィッキー・カウシャル。他に、パレーシュ・ラーワル、ヤミー・ガウタム、キールティ・クラーリー、モーヒト・ラーイナー、ラジト・カプール、マーナスィー・パレークなどが出演している。

 2016年のサージカル・ストライク中に何が起こったか、詳細は軍事機密のため明らかにされていない。よって、この映画で描写された作戦は全てフィクションと考えていい。だが、5章構成の映画では、1章で主人公のヴィハーン少佐(ヴィッキー・カウシャル)がマニプル州での作戦を成功させるところから、5章のサージカルストライクを成功させるところまで、まるで事実を追っているかのような緻密なタッチで描写されており、物語に強く引き込まれた。軍事作戦現場だけでなく、ナレーンドラ・モーディー首相をモデルとした首相(ラジト・カプール)やパレーシュ・ラーワル演じる国防顧問の動き、ヴィハーン少佐の家族の問題、そしてパーキスターン側でのスパイ活動など、ちょうどいい量の小さなエピソードも織り込まれており、退屈しなかった。

 はっきり言って、この作品を新人監督が撮ったとは信じられない。それほどよく出来た映画だった。今までインドの戦争映画をいくつか観てきたが、これほどうまく作られた映画はなかったと言ってもいい。絶賛である。もしこれがアーディティヤ・ダール監督の力によるものだったら、彼の今後の映画には多大な期待をせざるを得ない。ダール監督はフィルムフェア賞新人監督賞を受賞しているが、正当な評価である。

 大スターが参加する映画ではなかったが、俳優たちも非常にいい仕事をしていた。主演のヴィッキー・カウシャルは、「Sanju」の頃に比べて一気に精悍になり、特殊部隊の隊長として貫禄バッチリだった。パレーシュ・ラーワルがうまいのはいつものことだが、他にもヤミー・ガウタム、キールティ・クラーリー、モーヒト・ラーイナーなど、いい俳優が揃っていた。

 「Uri: The Surgical Strike」は、2019年の大ヒット映画の1本となった。愛国主義的なテーマに加えて、映画の出来が格別に良かったからであろう。映画中で隊長が隊員と交わすやり取り――「How’s the Josh?(気合いは入っているか?)」「High, Sir!(最高です!)」――は流行り言葉となったとも伝えられている。

 「Uri: The Surgical Strike」は、新人監督アーディティヤ・ダール監督による、2016年のウーリー襲撃事件とそれの対抗措置サージカル・ストライクをもとにした映画である。インドの戦争映画としては最高傑作と言っていいほど完成度が高い。ヒンディー語映画の今後の10年を背負って行く人材がこの映画から多数出る予感もする。