Mere Desh Ki Dharti

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Mere Desh Ki Dharti
「Mere Desh Ki Dharti」

 2022年5月6日公開の「Mere Desh Ki Dharti(私の国の大地)」は、工科大卒のエンジニアたちが農村へ行って農業の改革をするという提案・啓蒙型の映画である。プレミア上映は2022年1月のジャイプル国際映画祭だった。

 監督は「War… Chhod Na Yaar」(2013年)や「Nanu Ki Jaanu」(2018年)などのファラーズ・ハイダル。キャストは、ディヴィエーンドゥ・シャルマー、アナント・ヴィダート、アヌプリヤー・ゴーエーンカー、イナームルハク、ブリジェーンドラ・カーラー、ラージェーシュ・シャルマー、アヴァンティカー・カトリー、ファラク・ジャーファル、ルトゥジャー・シンデー、ダリープ・ターヒルなどである。また、アンヌー・カプールが特別出演している。

 アジャイ(ディヴィエーンドゥ・シャルマー)とサミール(アナント・ヴィダート)は工科大卒の負け犬であった。アジャイは企業に勤めながら起業しようと準備をしていたが、資金を集めることができず計画は頓挫し、父親からも勘当されてしまう。サミールは、恋人のシルパー(ルトゥジャー・シンデー)と結婚することができず、しかも職場で昇進の機会を逃して会社を飛び出る。二人は一緒に死のうとするが、死ねなかった。

 アジャイとサミールは列車に乗ってムンバイーを出て、午前8時に毒を飲んで自殺しようとする。二人が辿り着いたのはマディヤ・プラデーシュ州のサラーマトプルという村だった。ちょうど結婚式が行われており、人々は幸せそうに見えた。アジャイとサミールは、パッパン・カーン(イナームルハク)に温かく迎え入れられ、キシャンラール(ラージェーシュ・シャルマー)の家で仕事をし始める。アジャイは、村の女性ジュムキー(アヌプリヤー・ゴーエーンカー)と仲良くもなる。しかし、サラーマトプルには大きな問題もあった。それは農民の自殺問題だった。二人が村に滞在している間にも農民たちの自殺もしくは自殺未遂が相次いだ。

 サラーマトプルの農民たちは銀行からの借金に苦しんでいた。アジャイが自殺する気を失ったことに落胆したサミールは村から出て行ってしまうが、アジャイは村に残って、農民たちのために何かをしようとし出す。アジャイが見たところ、問題は2つあった。ひとつは、若者が都会に出て行ってしまい、労働力が残っていないこと。もうひとつは、最新技術を導入した農業を行っておらず、生産性が低いことだった。アジャイは、細かく分割された農地をひとつにして一度に耕作を行う集団農業の手法を採り入れ、最新技術を使ってサラーマトプルの農業改革に乗り出す。

 ジュムキーの父親ドゥーベー(ブリジェーンドラ・カーラー)からは資金の不足を指摘されたが、サミールが全財産を持って村に戻ってきたことで、アジャイの計画が実行可能となる。農業改革は成功し、多くの作物が収穫できたが、今度は市場で高値で買ってもらえなかった。そこで二人は、輸出業を営むシルパーの父親に商談を持ちかけ、思い通りの値段で買ってもらうことに成功する。

 アジャイとサミールの農業改革は、アンヌー・カプール(本人)がホストを務めるTV番組でも取り上げられ、アジャイは両親とも再会する。

 「Swades」(2004年)は、米国に移住してNASAのエンジニアになったインド人が故郷に戻って農村の改革を行うという物語だったが、この「Mere Desh Ki Dharti」は、都会でエンジニアを学んだ若者をインドの農村に誘致しようとする社会的メッセージが明確に込められた映画であった。あまりに主張が前面に出ているため、娯楽映画というよりも教育映画のような作りである。物語としても完成度が高いとはいえないが、そのメッセージには注目してみたい。

 「Mere Desh Ki Dharti」が問題として取り上げているのは農民の自殺問題である。インドでは、借金で首が回らなくなり、慰謝料目当てで農民が自殺するという事件が相次いでいる。伝統的には、雨水に頼った農業を行う地域で干魃により作物が取れず、借金漬けになるというパターンが多いが、近年では遺伝子組み換え作物を導入したことによる借金のスパイラルも取り沙汰されることもある。農民自殺問題をブラックユーモアを交えて取り上げた有名な映画に「Peepli Live」(2010年)があるが、他にも農民自殺問題に触れられた映画はいくつかある。「Mere Desh Ki Dharti」では、単にこの問題を改めて指摘するに留まらず、解決策を提示していた点でユニークだった。

 「Mere Desh Ki Dharti」が指摘する問題の原因とその解決法は以下の通りである。まず、問題の全ての根源は、若者が農村から流出していることだと喝破されていた。特に若い男性はチャンスを求め、こぞって都会へ行ってしまうため、農村では労働力が失われ、農地が放置されている。また、技術革新が行われず、伝統的な農法で農業が行われているため、生産性が上がらない。しかし、逆に考えてみれば、インドの農村には巨大なチャンスが転がっている。農村から都会へ、という流れに逆行し、都会で学問を修めた若者が農村へ進出し、最新技術を使って農業セクターを活性化させることで、インドの食糧問題は大きく改善する可能性が指摘されていた。

 また、せっかく農民が作物を収穫しても、それを換金する際に市場によって恣意的に価格が決められ、農民に適正な対価が支払われず、経済的な困窮を引き起こしている問題も指摘されていた。それに対しては、市場や仲介業者を介さずに直接買い手を見つけて思い通りの値段で売却する新たな道が提示されていた。

 これらの解決法はもっともなのだが、そこに行き着くまでの過程がチグハグであった。主人公であるアジャイとその親友サミールが都会で夢破れるまでのシーンが長く、サラーマトプルの問題解決に動き出してからのシーンが短い。もっと都会でのシーンを短くして、農村でのシーンも長くすれば、バランスの取れた映画に仕上がっていたことだろう。

 主演のディヴィエーンドゥ・シャルマーは「Pyaar Ka Punchnama」(2011年)での本格デビュー以来、地味にキャリアを積み重ねている男優である。派手さはないが、庶民的な役柄を演じることで味が出る。ヒロインのアヌプリヤー・ゴーエーンカーは「Padmaavat」(2018年/邦題:パドマーワト 女神の誕生)でラタン・スィンの第一妃を演じていた女優である。脇役陣には個性派俳優が多く、映画を彩っていた。

 「Mere Desh Ki Dharti」は、農民自殺問題を扱うと同時に、その解決法をストレートに提示し、観客の啓蒙に努めている教育映画的な作品である。構成のバランスが悪く、娯楽映画としての作り込みにも欠けていたが、何とか問題を解決しようとする熱心さは伝わる。インドの農業に興味があれば観てもいいのではなかろうか。