カルワー・チャウト(Karwa Chauth/Karva Chauth)祭は、ヒンディー語映画との結びつきが強い祭りのひとつである。毎年10月に祝われることの多いこの祭りは、妻が夫の長寿と健康を祈願して断食するのが主眼の祭りである。元々は北西インドのヒンドゥー教徒の間で祝われていたが、ヒンディー語映画で大々的に取り上げられたことで知名度が上がり、現在ではインド全土で祝われるようになった。
カルワー・チャウトは月との結びつきが強い祭りである。ヒンドゥー教の太陰暦で第7月となるカールティク月の満月から4日目に祝われ、通常はダシャハラー祭の9日後にあたる。この日、既婚女性たちは、夜明けから夕方に月が出るまでの間、断食をする。そして、月が出たら、篩を通して月を見た後に夫の顔を見て、食べ物を食べて断食を終わらせる。この儀式を行うことで、夫の健康が保たれるとされている。正しくカルワー・チャウトを行うことで一度死んだ夫を蘇らせた貞淑な女性の伝承も伝わっており、この祭りの霊験あらたかさは女性たちによく信じられている。
子供の頃は父親に依存し、結婚後は夫に依存する生き方をするインドの女性たちにとって、夫が存命であることは自己の存在理由と等しく、その長寿を祈ることは自分の利益に直結した。よって、カルワー・チャウトは非常に重視されてきた。
また、女性たちは断食中、家事をせず、近所の女性同士で着飾って集まり、贈り物を交換し合ったり、年長者からカルワー・チャウトに関する物語を聞いたりして過ごす。家事は年中無休の仕事とされるが、カルワー・チャウトがあるおかげで主婦に休暇日が与えられる効果もあったと思われる。さらに、他所から嫁いできた女性たち同士の結束を強める性格も持ち合わせている。
元々は既婚女性が夫の長寿と健康を祈願する祭りだったが、この文化は未婚女性の間にも広まっている。恋人のいる女性は恋人の長寿と健康を祈って断食をし、まだ恋人のいない女性は将来の夫のために断食をするのである。また、恋人のいるいないに関わらず、仲の良い女性同士でカルワー・チャウトの日に一緒に断食をし、仲間内の絆を深めるという行事にもなっているようである。
「Karwa Chauth」(1978年)という映画まであるように、ヒンディー語映画では昔からカルワー・チャウトが描写されてきたのだが、元々地域限定で祝われていたこの祭りをインド全土に、かつ、未婚女性にも広めた張本人として多くの人々から名指しされているヒンディー語映画が、インド映画最大のヒット作の一本に数えられる不朽の名作「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年/邦題:シャー・ルク・カーンのDDJLラブゲット大作戦)である。終盤、舞台がインドに移った後、カージョル演じるスィムランがカルワー・チャウトの断食をし、シャールク・カーン演じるラージから断食明けの食事を食べさせてもらうシーンがある。二人はまだ未婚であるし、スィムランの結婚は別の男性と決まっていた。だが、最後には二人の結婚は認められる。この映画の大ヒットにより、昔ながらの伝統だったカルワー・チャウトが再認知・再評価され、流行となって一気に拡散したのである。
カルワー・チャウトは夫婦や男女を結びつけ、女性同士の結束を強め、そして映像的にもとても映える祭りであるため、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」以降もヒンディー語映画で頻繁に持ち出される。劇中にカルワー・チャウトが出てくる映画は、「Baabul」(2006年)、「Ra.One」(2011年)、「Kis Kisko Pyaar Karoon」(2015年)、「Great Grand Masti」(2016年)など枚挙に暇がない。
カルワー・チャウトは映画音楽にも取り入れられている。例えば、「Hum Dil De Chuke Sanam」(1999年/邦題:ミモラ)の「Chand Chhupa Badal Mein」はカルワー・チャウトを主題としたダンスシーンである。一曲丸々鑑賞すると、カルワー・チャウトの雰囲気が分かる。
大ヒット作「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年)の挿入歌「Bole Chudiyan」にも、間奏部にカルワー・チャウトのシーンがある。
ちなみに、インドには夫が妻の長寿と健康を祈るような祭りは見当たらない。代わりに、兄が妹を守ることを誓うラーキーという祭りがあるくらいである。