ラーキー

 インドにはいくつもの煌びやかな祭りがあるが、ラーキー(Rakhi)またはラクシャーバンダン(Raksha Bandhan)と呼ばれる祭りは特にユニークだ。年によって日付は変わるが、毎年大体8月のどこかにあたる。北インドのヒンドゥー教徒の間で盛んに祝われる祭りである。

 ラーキーは兄と妹の絆を再確認する祭りである。インドの言語では英語と同じように兄と弟、姉と妹に区別する概念ないので、弟と姉でもいいのだが、ここでは便宜的に兄と妹として書いていく。

 この日、妹は兄の手首に「ラーキー(Rakhi)」と呼ばれるミサンガのような紐を結ぶ。その代わり、兄は妹を守ることを誓い、お小遣いを渡す。こうして、兄と妹は兄妹の絆を再確認し合う。妹の嫁入り後もこの儀式は続けられ、妹はラーキーを結びにわざわざ兄に会いに行くのである。

 ラクシャーバンダン祭が近づくと、市場では色とりどりのラーキーが売り出され、とても華やぐ。ラクシャーバンダンの日、手首にラーキーを巻いたインド人男性の顔にはちょっぴり誇らしげな照れ笑いが浮かんでいるものである。

 愛しい妹がいる男性にとって、ラクシャーバンダン祭はとてもウキウキする祭りだが、片思いの女性がいる男性にとっては恐怖の祭りでもある。

 なぜなら、ラーキーは実の兄ではない男性にも巻いていいことになっているからである。女性にラーキーを巻かれると、その女性とは義理の兄妹の関係になる。義理の兄妹の関係になるということは、恋人関係にはなれないということであり、つまりは結婚できないということになる。端的にいえば、片思いしている女性からラーキーを巻かれるということは、求愛を拒絶されたに等しい。これは是非とも避けなければならないことである。ちなみに、ラーキーによって結ばれた義理の兄は「ラーキー・ブラザー」と呼ぶ。

 こんなインド独特の習慣に触れられたヒンディー語映画は数多くある。例えば、「Style」(2001年)という映画の「Excuse Me」という挿入歌では、口説いていた女性から無理矢理ラーキーを巻かれてしまう瞬間がバッチリ収められている。

Excuse Me | Style | 2001

Excuse Me
क्या रे?キャー レー
मेरा दिल तेरे पे फ़िदा रेメーラー ディル テーレー ペ フィダー レー
थियेटर में देखा तुझे पहली बारティエタル メン デーカー トゥジェー ペヘリー バール
इंटरवल में हो गया तेरे से प्यारインタルヴァル メン ホー ガヤー テーレー セ ピャール
बोलता हूँ मैं सच्ची बातボールター フーン マェン サッチー バート
अरे, तू तो मान जाアレー トゥー トー マーン ジャー
Excuse Me
Yes, Please
बन जा मेरा भैया रेバン ジャー メーラー バイヤー レー

ちょっといい?
何?
君に恋しちゃったんだ
映画館で初めて君を見て
中休みで君に恋をした
本当のことさ
だから信じておくれ

ちょっといい?
どうぞ
私の兄貴になりな

 大ヒット映画「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)でも、ダンスコンペティションに出場するペア同士がラーキーを結ぶシーンがあった。

「Rab Ne Bana Di Jodi」の1シーン

 自分の正体を隠し、ラージを名乗ってダンスコンペティションに出場していた主人公スリンダル(シャールク・カーン)は、それに全く気付かない妻のターニー(アヌシュカー・シャルマー)とペアになる。ラクシャーバンダンの日、スリンダルが練習会場に駆けつけると、ペア同士がラーキーを結んでいた。それを見たスリンダルはびっくりして逃げ出す。妻のターニーとラーキーの仲になってしまっては大変なことになるからである。

 「Behen Hogi Teri」(2017年)は、インドのそんなユニークなラーキー文化を映画の主題にまでしてしまった作品である。主人公のガットゥー(ラージクマール・ラーオ)は、毎年ラクシャーバンダンの日になると、片思いしている幼馴染みの女性ビニー(シュルティ・ハーサン)にラーキーを巻かれないように身を潜めているのである。

 ラクシャーバンダンとは別に、友人同士がミサンガを結び合うフレンドシップデーもある。フレンドシップデーは世界各地で様々な日に祝われるようだが、インドでは8月の第1日曜日に祝われることになっている。ラクシャーバンダンと近くなる年が多いので、混同しないようにしたい。大ヒット映画「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)の序盤で、フレンドシップデーの様子が出て来たのを覚えている人も多いだろう。