Behen Hogi Teri

2.5

 8月頃にラクシャーバンダンという、兄妹の契りを確認する伝統行事がある。この日、女性は自分の兄弟の手首にラーキーと呼ばれるミサンガのような紐を巻き、ラーキーを巻かれた男性は、その女性を守ることを誓う。それだけ聞くと美しい祭りのように聞こえるが、インド人男性にとっては恐怖の祭りだ。なぜなら、ラーキーを巻かれたが最後、その女性の兄弟扱いとなり、その女性の恋人にも夫にもなれなくなってしまうからである。逆に、女性側から見れば、しつこく迫って来る男性にラーキーを巻いて追い払うという手段が存在する。

 2017年6月9日公開のヒンディー語映画「Behen Hogi Teri」は、ラクシャーバンダンに代表されるインドの義兄妹文化がテーマのラブコメ映画である。監督は新人アジャイ・K・パンナーラール。主演はラージクマール・ラーオとシュルティ・ハーサン。他に、ダルシャン・ジャリーワーラー、ガウタム・グラール、ヘリー・タングリー、ナターシャ・ラストーギー、ニナド・カーマト、グルシャン・グローヴァーなどが出演している。

 題名の「Behen Hogi Teri」とは、「姉妹だ、お前の」という意味である。これは「Buddha Hoga Tera Baap(老いぼれはお前の父親だ)」という決まり文句の悪口をもじったものだと考えられる。誰でも自分の姉妹にさせられてしまうことに辟易するインド人男性の魂の叫びである。

 舞台はラクナウー。公務員になることを夢見て試験を受けている無職の青年シヴ、愛称ガットゥー(ラージクマール・ラーオ)は、向かいの家に住むビニー(シュルティ・ハーサン)に子供の頃から片思いをしていた。ラクシャーバンダンの日、ガットゥーはビニーにラーキーを巻かれないように逃げ回っていた。ビニーの祖母の死をきっかけにガットゥーはビニーと接近できるようになり、やがて二人は恋仲となるが、ガットゥーは勇気がなく、自分の父親ナウティヤール(ダルシャン・ジャリーワーラー)やビニーの兄ジャイデーヴ(ニナド・カーマト)に自分たちの仲のことを打ち明けられずにいた。ビニーはガットゥーのそんな臆病な態度に失望していた。

 ビニーの姉リトゥがお見合いをし、縁談がまとまった。そうしたら、リトゥの結婚相手の弟ラーフル(ガウタム・グラール)もビニーのことを気に入り、ビニーと結婚することになってしまった。ところがどういう訳か、ビニーはガットゥーの親友で牛乳売りのブーラー(ヘリー・タングリー)と付き合っているという噂が近所に流れてしまった。ブーラーを警戒したジャイデーヴはガットゥーをビニーの護衛に付ける。だが、ブーラーの父親は何人もの人を殺し刑務所に入っているダッピー(グルシャン・グローヴァー)であった。たまたまダッピーは仮釈放期間を得て町に帰って来ていた。ジャイデーヴが、ブーラーの恋人ビニーを無理矢理別の男と結婚させようとしていると聞き、ジャイデーヴの家まで押しかけ、ビニーはブーラーとしか結婚しないと宣言する。ナウティヤールはジャイデーヴを助けるため、近所の人々を組織してダッピーに対抗しようとする。

 リトゥの結婚式の日、ジャイデーヴはビニーをガットゥーに預ける。ガットゥーはビニーを連れて安全な場所まで行き、そこでビニーと話すが、ビニーは、ガットゥーの弱さに呆れていた。だが、ガットゥーはビニーを連れて式場まで戻り、ジャイデーヴやダッピーの前で、ビニーを愛しているのは自分だと宣言する。そしてガットゥーとビニーは一緒に逃げ出す。

 筋肉派男優がひしめくヒンディー語映画界において、ラージクマール・ラーオは中肉中背の一般的なインド人男性の代表みたいな存在であり、ちょっと臆病な庶民階層の男性役をよく演じる。「Behen Hogi Teri」のラージクマールも、幼年時代からの片思いの相手になかなか告白できず、やっと恋仲になったと思ったら、今度は家族にその関係のことを打ち明けられないという、気弱な男性を演じていた。

 それに対してシュルティ・ハーサンの演じるビニーは男勝りの女性であった。ただ、序盤では勝ち気な女性であったのが、中盤以降は、兄のジャイデーヴのいいなりになることが多くなり、人物設定にブレを感じた。

 この映画が主張したかったのは、やたらと兄弟姉妹の範囲を拡大してしまうインドの習慣が恋愛の障害になっているという点であった。冒頭で説明したラクシャーバンダンは最たるものだが、それ以外でも、インド人はすぐに人間関係を擬似的な兄弟姉妹の関係に押し込めたがることがある。そうすることで、男女の関係に恋愛を持ち込ませないようにしているのだと思われるが、恋愛したい盛りの若者にとっては、それが迷惑でしかないのである。主人公ガットゥーも、ビニーと兄弟姉妹の関係になるのを怖れており、他の人からそういう関係にされるのも嫌がっていた。

 ただ、「Behen Hogi Teri」は、そんなインド独特の人間関係の作り方を土台にした映画であるため、外国人観客にはいまいち分かりにくいところがあったかもしれない。

 もうひとつ、「Behen Hogi Teri」のストーリーにおいてミソとなっていたのは、実はガットゥーとビニーが付き合っていたのに、近所の噂では、ガットゥーの親友ブーラーとビニーが付き合っているということになってしまっていたことだ。当初は、自分たちの関係をカモフラージュできると考え、その誤った噂をいいように利用していたガットゥーであったが、次第に大事になって行き、後悔し出す。しかも、ブーラーの家系は銃を持って闊歩する地元マフィアであり、話がきな臭くなって行く。

 今回、ラージクマール・ラーオとシュルティ・ハーサンは初共演である。両人とも演技力のある俳優であるが、庶民的なラージクマールとゴージャスなシュルティの相性は必ずしもベストマッチとは言えなかった。また、シュルティの演じるビニーの人物設定にブレがあったため、彼女の演技力も十分に引き出されていなかったように感じた。

 映画の最後でガットゥーは面白いことを言っていた。結婚は離婚することで解消できるが、ラーキーによって結ばれた兄妹の関係を解消する方法がない、と。インドでも離婚は増加傾向にある。是非、ラーキーを結ばれて兄妹となってしまった男女の関係を白紙に戻す方法も考えてもらいたいものだ。

 「Behen Hogi Teri」は、インド人男性がラクシャーバンダン祭に対して抱く恐怖心をよく理解できる、男性目線のラブコメ映画である。気弱な男性が勇気を奮い起こして自分の気持ちを人々の前で発するまでを描いた成長ドラマとも言える。だが、話がうまくまとまっておらず、消化不良で終わってしまっていた。興行的にも失敗に終わっている。