Helmet

3.5

 精子ドナーを主題とした「Vicky Donor」(2012年)辺りからヒンディー語映画は性に関するタブーを盛んに映画にするようになった。勃起不全(ED)を主題とした「Shubh Mangal Saavdhan」(2017年)、生理問題を取り上げた「Padman」(2018年)、性教育の遅れを指摘した「Khandaani Shafakhana」(2019年)などが作られて来ている。

 2021年9月3日からZee5で配信開始された「Helmet」がテーマとしたのは、インドのコンドーム問題である。周知の通り、インドは世界有数の人口を誇る国であり、間もなく世界一位の中国を抜くとされている。人口増加のひとつの原因は避妊が浸透していないことである。インドでのコンドームの使用率は非常に低いとされている。

 「Helmet」の監督は新人のサトラーム・ラマーニー。キャストは、アパールシャクティ・クラーナー、プラヌータン・ベヘル、アビシェーク・バナルジー、アーシーシュ・ヴァルマー、アーシーシュ・ヴィディヤールティー、シャリーブ・ハーシュミー、サーナンド・ヴァルマーなどである。2000年代に活躍した男優ディノ・モレアがプロデューサーをしており、カメオ出演もしている。

 舞台はヴァーラーナスィー。結婚式で音楽を演奏するブラスバンドの歌手ラッキー(アパールシャクティ・クラーナー)は、バンドのオーナーの義兄ジョーギー(アーシーシュ・ヴィディヤールティー)の娘ルーパーリー(プラヌータン・ベヘル)と恋仲にあった。ラッキーはルーパーリーと結婚するため、独立して自分のバンドを立ち上げようと志すが、そのためには資金が必要であった。

 ラッキーは、同じく金が入り用の養鶏業者スルターン(アビシェーク・バナルジー)や天然ボケのマイナス(アーシーシュ・ヴァルマー)と共にトラックから荷物を盗む。携帯電話かと思ったが、中に入っていたのは大量のコンドームだった。人々は、コンドームを欲しているものの恥ずかしくて買いに行けないということに気付いたラッキーたちは、ヘルメットをかぶってコンドームを行商するようになる。コンドームは飛ぶように売れ始める。

 しかし、ラッキーとスルターンはお尋ね者になっていた。大金を手にしたラッキーは夢だったバンド立ち上げを実現するが、同時に警察に逮捕されてしまう。彼らは服役することになるが、刑務所の外では意外な展開となっていた。なんと、ラッキーたちがコンドームを大量に売りさばいたおかげでこの地域では性病や中絶が激減していた。その功績により彼らの刑期は短縮され、歓声を浴びながら出所することとなった。

 序盤では、インドにおいてコンドームがいかに買いにくいかが面白おかしく指摘される。インドの薬屋はカウンターに人が座っていて、その人に欲しい薬や商品を言って出してもらうシステムを採っていることが多い。このシステムだとコンドームを買うときに店の人と会話をしなければならず、なかなか大っぴらに買いにくいのである。主人公ラッキーもコンドームを堂々と買えない臆病な男性の一人だった。

 しかしながら、インド人がコンドームを嫌っている訳ではないことも併せて指摘される。道端にコンドームが落ちていると、人々はこっそりと拾って行くのである。潜在的にコンドームの巨大な需要がありながら、伝統的な薬屋のシステムがコンドームの普及を妨げているのである。「Helmet」の中でも、何かと薄ら笑いを浮かべながら客をからかう薬屋のシャンブー(サーナンド・ヴァルマー)が登場し、コンドームの買いにくさが強調されていた。

 窃盗によって大量のコンドームを手に入れたラッキーたちは、コンドームの需要に勘付き、ヘルメットをかぶってコンドームを売るという斬新なシステムを考案する。会社の名前も「ヘルメット」とした。また、彼らは床屋、ピンク映画を上映する映画館、売春街などでもコンドームの販売網を広げる。一連の流れが軽快なコメディータッチで語られ、とても楽しく鑑賞できる。

 ただ、結末は突然だった。窃盗の容疑で警察に逮捕されたラッキー、スルターン、マイナスの3人は数ヶ月間服役することになるが、彼らの「ヘルメット」の活動により、人々の間でコンドームの使用が広まり、性病や中絶の予防が進んだため、一転して彼らは英雄となり、華々しく出所することになったのである。彼らが逮捕されるところまではいいペースで進んでいたのだが、最後は手抜きとも言えるほどあっけなかった。予算が尽きたのであろうか。残念であった。

 主演のアパールシャクティ・クラーナーは、既に演技派男優としての地位を確立しているアーユシュマーン・クラーナーの弟で、近年多くの映画に脇役として出演し人気を博して来た男優だ。今回は初めて主役を演じた。兄よりもフットワークの軽い演技をする。決してハンサムではないのだが愛嬌のある顔であり、今後も伸びて行くだろう。

 助演のアビシェーク・バナルジーは、本業はキャスティングディレクターだが、自身が俳優として出演することも少なくない。彼が得意とするのは、とぼけた性格の青年役で、「Stree」(2018年)などで高く評価されている。今回も絶妙な演技をしていた。

 ヒロインのプラヌータン・ベヘルはモホニーシュ・ベヘルの娘で、往年の女優ヌータンの孫娘にあたる。「Notebook」(2019年)でデビューしたばかりでまだまだ駆け出しの女優だ。まだ特徴を出せていない。

 舞台はヴァーラーナスィーで、ガンジス河やガートも映し出されていたが、あまり聖地ヴァーラーナスィーを主張するタイプの映画ではなかった。ヴァーラーナスィーの対岸にあるラームナガルがよく出て来ていた。

 「Helmet」は、インドにおいてコンドームの潜在的な需要があるのになかなか普及しない現状をコメディータッチで取り上げた野心的な作品である。前半はとてもいい調子で進行して行くが、尻切れトンボで終わってしまっていたのが残念だった。監督の経験不足か、それとも資金不足か。スターパワーはないが、アーユシュマーン・クラーナーの弟アパールシャクティ・クラーナーが初めて主演を務め張り切っている。有意義なメッセージが込められた佳作の娯楽映画と言える。