Cargo

3.5
Cargo

 インド製のSF映画は「Koi… Mil Gaya」(2003年)から始まったが、「E.T.」(1982年)や「スター・ウォーズ」シリーズなど、奔放な想像力と圧倒的スケールから成るSF映画の数々を送り出してきたハリウッド映画界に比べるとまだまだ見劣りするといわざるをえないだろう。また、インド人観客もインド映画にハリウッドばりのSF映画を期待しているわけでもないし、インド映画界でSF映画が盛んに作られてきたわけでもない。

 そんな中、低予算で作られたヒンディー語のSF映画「Cargo」は、工夫して作られており、技あり一本の作品である。2019年10月19日にムンバイー映画祭でプレミア上映され、2020年9月9日からNetflixで配信開始された。

 監督はアーラティー・カダヴ。今まで数本の短編映画を作ってきているが、長編映画は初めてである。アヌラーグ・カシヤプやヴィクラマーディティヤ・モートワーネーがプロデューサーをしている。キャストは、ヴィクラーント・マシー、シュエーター・トリパーティー、ナンドゥー・マーダヴ、ビシュワパティ・サルカールなど。コーンコナー・セーン・シャルマー、リトウィク・バウミク、ローハン・シャー、ハンサル・メヘター、アンジュム・ラージャーバリ、プラバル・パンジャービーが特別出演している。

 人間と羅刹の間に平和協定が結ばれた時代。羅刹のプラハスタ(ヴィクラーント・マシー)は宇宙船プシュパク634Aの唯一の乗組員だった。地球で死んだ人間の魂は空に昇ってプシュパクに辿り着き、そこで治療と記憶消去処理を施され、また地上に転生する。「惑星間宇宙局(IPSO)」で「死後転生サービス(PDTS)」をするプラハスタは、過去75年間、そのプロセスを助けていた。彼らは地球から送られてくる魂のことを「カーゴ」と呼んでいた。

 あるとき、プシュパク634Aに新しい乗組員ユヴィシュカー(シュエーター・トリパーティー)が派遣されてくる。ユヴィシュカーは大学を首席で卒業しており、魂を治癒する能力を持っていた。最初はユヴィシュカーの存在を嫌がるプラハスタだったが、次第に彼女を相棒と認めるようになる。また、ユヴィシュカーは、プラハスタの昔の恋人マンダーキニー(コーンコナー・セーンシャルマー)の教え子だった。

 ユヴィシュカーは仕事にも慣れてきたが、ある日突然、治癒能力が使えなくなる。IPSOの局長(ハンサル・メヘター)や上司のニティギャ(ナンドゥー・マーダヴ)はユヴィシュカーを地球に呼び戻そうとするが、プラハスタは猶予をもらう。だが、プラハスタは2度目の転生を行う魂が出て来たのを見て、自分の引退の時期を悟る。

 ユヴィシュカーは治癒能力を取り戻す。プラハスタはプシュパク634Aを後にし、75年振りに地球に降り立つ。

 SF映画とはいいながらも、映画の大半は宇宙船という密室の中で進み、徹底的にコストカットが図られている。しかも、宇宙船の機材は古めかしい。地球との交信に使われていたディスプレイは、「ナショナル」ブランドの年季物ブラウン管テレビであった。だが、すぐにそれは敢えてそうしていることが分かる。人間も普通にスマートフォンなどを使っており、現代人とそう変わらない。逆に、低予算SF映画であることを割り切って作っていることに好感が持てた。

 設定は非常に興味深いものだ。2027年に人間と羅刹(ホモ・ラークシャス)の間で平和協定が結ばれ、共存するようになった。宇宙時代に入っていた羅刹は、宇宙船を打ち上げ、そこで死んだ人間の魂を受け止めて、輪廻転生処理を施すようになった。その初期メンバーの一人が主人公のプラハスタであった。彼は75年間、宇宙船プシュパク634Aに住み込みながら一人で転生の仕事をしていたのだった。

 輪廻転生はヒンドゥー教や仏教に共通する死生観だが、これをSF映画と合体させたところは発想力の勝利としかいいようがない。プラハスタは、地球上から次々に送られてくる魂を迎え入れ、まるで空港の出入国審査のように手続きを行い、完了済みの魂を地上に転生させていく。彼はその仕事を75年間も続けていた。逆算すれば、2100年過ぎの時代の物語ということになる。

 転生処理をされる人間の魂を除けば、登場人物の大半は羅刹である。羅刹の名前は、インド神話に登場する羅刹と共通するものがあった。例えばプラハスタやシュールパナカーは「ラーマーヤナ」に出て来る羅刹であるし、ガトートカチュは「マハーバーラタ」に出て来る人間と羅刹の子供である。

 また、羅刹にはそれぞれひとつずつ特殊能力が備わっているという設定も興味を引かれた。例えばプラハスタには手を触れずに物を持ち上げる力があり、上司のニティギャは透明になる力を持っていた。だが、それが物語の重要な伏線になっているわけでもなかった。唯一、ユヴィシュカーの治癒能力だけはストーリー上で重要な意味を持っていた。

 もっと細かい設定を精査していくと、さらに細かい作り込みが発見できるかもしれない。例えば、映画中で最初に登場した魂はKCサルカールという名前の老人だった。彼は生前、手品師だったと思われるが、PCサルカールという有名なインド人手品師がおり、そのパロディーだと思われる。バーヴェーシュ・ジョーシーという名の魂も登場したが、これはヴィクラマーディティヤ・モートワーネー監督の「Bhavesh Joshi Superhero」(2018年)から取られていると見ていいだろう。

 主演のヴィクラーント・マシーは、端整な顔立ちをした中肉中背の俳優で、あまり個性がない代わりに柔軟性がある。ヒロインのシュエーター・トリパーティーも、スラリとした美女というわけではないが可愛らしい雰囲気のある女優だ。ベテラン女優コーンコナー・セーンシャルマーの特別出演があったのはサプライズだった。

 「Cargo」は、低予算映画ながら知恵を絞って作り上げられたユニークなSF映画である。輪廻転生とインド神話をSF映画と融合させた点や、やたらレトロな宇宙船の内装など、驚きの発想力とギャップが癖になる。何となく応援してあげたくなる映画だ。