Bhavesh Joshi Superhero

4.0
Bhavesh Joshi Superhero
「Bhavesh Joshi Superhero」

 2011年、インドでは社会活動家アンナー・ハザーレーによって汚職撲滅運動が盛り上がり、その後、庶民党(AAP)の創設やモーディー政権の樹立など、政治的に大きな変化をもたらした。ヒンディー語映画もその影響を如実に受けており、汚職を取り上げた数々の映画が作られるようになった。おそらくその決定版ともいえる映画が、2018年6月1日公開の「Bhavesh Joshi Supehero」である。ヒンディー語映画を代表するスーパーヒーロー映画「Krrish」(2006年)を参考にしながら、汚職撲滅に立ち上がる若者たちの物語をスーパーヒーロー映画として仕上げた。

 監督はヴィクラマーディティヤ・モートワーネー。「Udaan」(2010年)で有名な監督であり、プロデューサーとしてもアヌラーグ・カシヤプらと共に数多くの名作を送り出している。主演は、アニル・カプールの息子でソーナム・カプールの弟ハルシュヴァルダン・カプール。他に、プリヤーンシュ・パイニューリー、アーシーシュ・ヴァルマー、シュレーイヤー・サバルワール、プラタープ・パード、パビトラ・ラーバー、ニシカーント・カーマトなどが出演している。また、映画中には使われていないが、アイテムソング「Chavanprash」でアルジュン・カプールがアイテムボーイ出演している。

 2011年の汚職撲滅運動に影響を受けたムンバイー在住の青年バーヴェーシュ・ジョーシー(プリヤーンシュ・パイニューリー)は、親友のスィカンダル・カンナー、通称スィクー(ハルシュヴァルダン・カプール)とラジャト(アーシーシュ・ヴァルマー)と共に「インサーフ(正義)TV」という動画チャンネルを立ち上げ、世の中の不正を正す活動を行い始めた。だが、汚職撲滅運動の停滞と共にスィクーとラジャトはその活動から手を引いた。バーヴェーシュだけがインサーフTVの活動を熱心に続けていた。スィクーは会社から米国駐在を命じられ、パスポート取得に手続きに入ったが、警察に賄賂を渡さなかったためになかなかパスポートを発給してもらえなかった。最終的にスィクーは賄賂を渡してパスポートを入手する。

 バーヴェーシュは、ムンバイー市民に届けられるはずの水が盗まれていることを突き止め、水マフィアの謎を追い始める。だが、この汚職には政治家も関わっており、バーヴェーシュは目を付けられる。バーヴェーシュは反逆者として群衆からリンチを受け、最終的には殺されてしまう。

 スィクーは米国に渡る振りをしてムンバイーに潜伏し、バーヴェーシュ・ジョーシーを名乗って水マフィアの真相を調査し始める。水道から水を吸い上げていたポンプを破壊し、水道局の汚職役人を拷問して、水マフィアのドン、ヘーマーント・パーティル(プラタープ・パード)まで辿り着く。パーティルの黒幕である政治家ラーナー(ニシカーント・カーマト)は、水を満載したタンカーを郊外に何百台も集めており、頃合いを見計らって水道のパイプを爆破して、水を使って権力を手中に収めようとしていた。

 スィクーはそれを止めるために、爆破の現場で待ち構え、阻止しようとする。だが、多勢に無勢でスィクーは捕まってしまい、撃たれて川に捨てられる。その様子を密かに撮影していたラジャトはスィクーを川から救い出し、病院に連れて行く。世間ではスィクーは死んだことになっていた。

 回復したスィクーは、バーヴェーシュ・ジョーシーとして再び活動を再開し、ラーナーの邸宅を襲撃する。

 YouTubeやFacebookを駆使して社会の不正を正す活動をしていた若者たちが、スーパーヒーローとしてムンバイーの水マフィアを巡る汚職に立ち向かうまでを描いた作品であった。スーパーヒーロー映画というと子供向け映画のように感じるかもしれないが、「Bhavesh Joshi Supehero」の年齢認証は16歳以上となっており、決して子供向け映画ではない。社会の誰もが汚職と不正の被害者になっており、目撃者にもなっている。その中の何人かは声を上げるかもしれない。だが、実際に汚職や不正を正そうと行動を起こす者は何人いるだろうか。この映画は、社会の一員となっている大人たちに向けて、我々一人一人がスーパーヒーローとなって立ち上がらなければ巨大な汚職を根絶することはできないというメッセージが込められていた。

 スーパーヒーロー映画にしては派手な展開も少なかった。2時間半を超える上映時間の内、手に汗握るアクションシーンがあるのは終盤になってからであり、前半はどちらかというと地に足の付いたストーリーになっている。若者特有の情熱と共に社会の不正を正す「インサーフTV」を立ち上げた若者たちが、就職し社会の一員となることで、徐々に清濁併せのんだ社会に自分を適応させていき、汚職撲滅の情熱を失っていくという過程はとてもリアルだった。

 主人公のスィクーも、会社員となり、インサーフTVの活動から足を洗った後も、しばらくは、自分自身は不正に手を貸さないように気を付けて生活していた。だが、会社の業務上必要となったパスポート取得の際、賄賂を渡さなければパスポートが手に入らないという現実を前にして、遂に膝を屈する。「Bhavesh Joshi Superhero」で優れていたのは、むしろ前半のこの展開だった。

 バーヴェーシュ・ジョーシーが殺され、スィクーがバーヴェーシュ・ジョーシーを名乗って汚職と戦うようになってからは、スーパーヒーロー映画の雰囲気となる。スィクーは、汚職問題で建設が止まった廃墟のホテルを秘密基地にし、空手を習得し、バイクを改造し、変装してスパイ活動をする。後半のバイクチェイスシーンでは、鉄道駅の中をバイクで疾走する類い稀なアクションも見られる。だが、他のスーパーヒーロー映画と異なるのは、彼の行動がなかなか世間に認められないことだ。

 スィクーが汚職撲滅のために動くと、それは不正に手を染める人々の力をますます増すことになった。バーヴェーシュ・ジョーシーはテロリスト扱いされ、水マフィアを裏で操る政治家は、ムンバイーが直面する危機を人々の扇動に利用した。水道パイプ爆破もバーヴェーシュ・ジョーシーの仕業とされた。スィクーの活動が日の目を見たり効果を上げたりするシーンはほとんどない。失意のスーパーヒーローといっていいだろう。

 スーパーヒーロー映画らしからぬ、後半のこのどうしようもないやるせなさが観客に受け入れられなかったのであろう、「Bhavesh Joshi Superhero」は、2018年の大失敗作の一本に数えられている。だが、お気楽なスーパーヒーロー映画とは一線を画した、リアルな悪との戦いが描かれており、玄人受けする映画だと評価できる。ヴィクラマーディティヤ・モートワーネー監督の手腕は決して否定されるべきものではない。

 主演のハルシュヴァルダン・カプールは「Mirzya」(2016年)でデビューし、本作が2作目となる。既にスター女優に定着した姉のソーナム・カプールと比べるまでもなく、まだくすぶっている俳優だ。だが、演技力に全く問題はなく、ルックスもいいので、そろそろヒット作が欲しいところである。

 「Bhavesh Joshi Supehero」は、ヴィクラマーディティヤ・モートワーネー監督が汚職撲滅のために立ち上がった若者たちの戦いを、大人向けのスーパーヒーロー映画に味付けして作った作品である。興行的には全く鳴かず飛ばずであったが、若者らしい情熱とその挫折がリアルに描かれており、とても地に足の付いた異色のスーパーヒーロー映画に仕上がっている。決して無視していい作品ではない。