Mrs. Serial Killer

3.0
Mrs. Serial Killer
「Mrs. Serial Killer」

 ファラー・カーンといえば、有能なコレオグラファーであり、「Om Shanti Om」(2007年/邦題:恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム)などのヒット作を持つ売れっ子監督でもある。だが、彼女の夫であり、監督のシリーシュ・クンダルからは、悪いが全く才能を感じない。彼の監督作「Joker」(2012年)は酷い映画だった。ファラーがなぜ彼と結婚したのかよく分からないのだが、とりあえず仲良くやっているようである。

 2020年5月1日からNetflixで配信開始された「Mrs. Serial Killer」は、そのシリーシュ・クンダルの監督作である。ファラー・カーンがプロデュースをしている。キャストは、ジャクリーン・フェルナンデス、マノージ・バージペーイー、モーヒト・ライナー、ダルシャン・ジャリーワーラー、そしてアーミル・カーンの姪で新人のザイン・マリー・カーンなどである。

 舞台はウッタラーカンド州ナイニータール。医科大学で教えるソーナー・ムカルジー(ジャクリーン・フェルナンデス)の夫、ムリティユンジョイ・ムカルジー(マノージ・バージペーイー)は著名な産婦人科医だった。ソーナーは妊娠したばかりだった。

 ナイニータールでは、6人の若い妊婦が相次いで行方不明になる事件が発生していた。ソーナーの元恋人イムラーン・シャヒード警部補(モーヒト・ライナー)は、ムリティユンジョイの所有地から6人の遺体を発見する。女性たちは手足や首を切断されており、胎児も摘出された状態で見つかった。

 ムリティユンジョイは逮捕され、地元の人々はムリティユンジョイを厳しく糾弾する。イムラーン警部補が復讐のためにムリティユンジョイに濡れ衣を着せたと考えたソーナーは、夫の無実を証明するため、ムリティユンジョイの旧知の知人である弁護士ブリジ・ラストーギー(ダルシャン・ジャリーワーラー)に相談する。ラストーギーは心臓発作を起こして病床に伏していたが、ムリティユンジョイに借りがあり、弁護を引き受けることにする。

 しかし、イムラーン警部補はムリティユンジョイを有罪にするための証拠をしっかりと揃えており、保釈が得られなかった。そこでラストーギーはソーナーに、ムリティユンジョイが留置所にいる間に同様の手口で犯罪を犯す方法を教える。連続殺人犯は未婚の妊婦を狙っていた。そこでソーナーは街にいる未婚の妊婦を調べる。見つけたのが、彼女の教え子であるアヌシュカー・ティワーリー(ザイン・マリー・カーン)だった。アヌシュカーは恋人のスィドの子供を身籠もっていたが、まだ誰にも公表していなかった。

 ソーナーはアヌシュカーを誘拐し、彼女の胎児を摘出して殺そうとする。だが、彼女にはできず、解剖用の遺体と不要な胎児をもらい受け、アヌシュカーの死を偽装する。同じ手口の犯行が起こったことでムリティユンジョイの裁判の流れは変わり、保釈を勝ち取る。

 ソーナーはアヌシュカーを幽閉した病院地下室にムリティユンジョイを連れて行き相談する。ところが、ムリティユンジョイは本物の連続殺人犯だった。ソーナーのいない間にムリティユンジョイはアヌシュカーの胎児を摘出して彼女を殺そうとする。そこへスィドが駆けつけ、後にソーナーもやって来る。二人はムリティユンジョイに捕まるが、スィドから連絡を受けたイムラーン警部補が助けにやって来た。乱闘の中でソーナーのお腹の子供が死んでしまうが、ソーナー、スィド、アヌシュカーは助かる。

 ムリティユンジョイは死んだかと思われたが、一命を取り留め、病院から脱走する。それを手引きしたのはラストーギーだった。

 山間の町で未婚の妊婦を狙った連続殺人事件が起き、その容疑者として産婦人科医のムリティユンジョイが逮捕される。妻のソーナーは夫の無実を信じ、彼を救うために奔走する。そこまではよくある話だったが、彼女が採った手段がユニークだった。夫が留置所に入っている期間に、連続殺人犯と同じ手口で殺人をし、他に真犯人がいることを証明しようとするのである。夫を救うために何の罪もない別の誰かを犠牲にするという、とんでもない手法だ。それを弁護士が助言するというのも常軌を逸している。

 そこまではまだロジカルに鑑賞することができたが、その後は急速に支離滅裂になっていく。ムリティユンジョイがやっぱり連続殺人犯だったというどんでん返しは予想は付いたが順当な展開だったものの、ソーナーはアヌシュカーを殺せず、別の遺体を用意するという点、実はラストーギーが黒幕であるという点、悪役だと思われていたイムラーン警部補が実はいい奴だった点など、唐突すぎる展開が目立った。アヌシュカーがテコンドーの黒帯という設定も必要だったのだろうか。

 連続殺人事件を題材にした映画では、犯人の動機も映画の成否を分ける重要な要素になる。「Mrs. Serial Killer」でムリティユンジョイが未婚の妊婦だけを狙って殺人を犯していた理由は、尻軽女への制裁という非常にありきたりなものだった。しかも、胎児を摘出してホルマリン漬けにしており、犯人が産婦人科医であることがすぐに分かってしまうような手掛かりを残すという失態まで犯していた。ムリティユンジョイを演じたマノージ・バージペーイーは本来ならば絶妙な演技力を持つ俳優なのだが、あまりに人物描写が稚拙すぎて、彼でもこのキャラを救うことができていなかった。

 それでも、今まで全く認めていなかったシリーシュ・クンダル監督の映画としては上々の出来であり、極端な展開もひっくるめて楽しむことができた。ジャクリーン・フェルナンデスやマノージ・バージペーイーの演技も時々オーバーアクティングに思えたが、羽目を外して楽しんで演技をしているようにも見えた。

 キャスティングの中でひとつ特筆すべきは、アーミル・カーンの姪アイン・マリー・カーンが本作でデビューしていたことだ。アーミル・カーンの従兄弟マンスール・カーンの娘である。彼女が演じたアヌシュカーは、なぜかパンク系のファッションをしており、テコンドーの黒帯という設定であった。

 「Mrs. Serial Killer」は、山間の町を震撼させる連続殺人事件を題材に、容疑者の妻が夫を救うために奔走するというスリラー映画である。展開が雑かつ極端で、細かいところを見ていくと稚拙な部分も散見されるのだが、全体的には普通に楽しめる映画に仕上がっている。また、続編を匂わす終わり方であった。