Love Sonia

4.0

 外国人はとかくインドの暗部を描きたがる。「Slumdog Millionaire」(2009年/邦題:スラムドッグ$ミリオネア)は世界中でヒットしたが、インド人には必ずしも受けがよくなかった。インドは急速に発展していたにもかかわらず、依然としてインドを貧しい後進国としたい外国人の視線が強烈に感じられたからだ。

 2018年6月21日にロンドン・インド映画祭でプレミア公開され、インドでは同年9月14日に公開された「Love Sonia」は、人身売買を主題としたリアリスティックな映画である。一応インド映画ではあるが、プロデューサーは米国人であり、印米合作とした方が適切だろう。

 監督はタブレーズ・ヌーラーニー。ロサンゼルス在住のインド系映画プロデューサーであり、米国の映画界の中では、インド関連の映画を作ろうと思った際、真っ先にコンタクトすべき人物として知られている。彼の関わった映画には、「Bride and Prejudice」(2004年)、「Slumdog Millionaire」、「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」(2011年)「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」(2012年)、「ミリオンダラー・アーム」(2014年)、「マリーゴールド・ホテル 幸せへの第二章」(2015年)、「Lion」(2017年)、「Viceroy’s House」(2017年/英国総督 最後の家)など、有名なタイトルが並んでいる。

 主演はムルナール・タークル。この映画は2012年に撮影されたようで、事実上、彼女のデビュー作となる。他に、アーディル・フサイン、マノージ・バージペーイー、ラージクマール・ラーオ、アヌパム・ケール、リチャー・チャッダー、リヤー・スィソーディヤー、フリーダ・ピントー、サイー・ターマンカルなどで、多くがヒンディー語映画界を代表する演技派俳優である。インド映画界が誇る巨匠ARレヘマーンが音楽を担当しているのも特筆すべきである。

 ムンバイーから北に1,500kmの農村で生まれ育ったソニア(ムルナール・タークル)は、借金で首が回らなくなった父親シヴァ(アーディル・フサイン)が姉のプリーティ(リヤー・スィソーディヤー)を地主のダーダー・タークル(アヌパム・ケール)に売られ、ムンバイーに連れて行かれたのを見て、自分も姉を追ってムンバイーへ行こうと思い立つ。人身売買を仲介するアンジャリ(サイー・ターマンカル)はソニアを連れてムンバイーへ行き、ファイザル(マノージ・バージペーイー)の経営する売春宿に売り払う。ソニアはそこで売春婦として生活することになるが、処女だったため、処女膜は大事にされた。ソニアは、先輩売春婦のマードゥリー(リチャー・チャッダー)やラシュミー(フリーダー・ピントー)と出会う。

 ソニアは何度も売春宿を逃げ出そうとするが、警察もファイザルとグルになっており、すぐに連れ戻された。ファイザルは一度ソニアをプリーティに引き合わせる。だが、プリーティはソニアを拒絶する。また、ソニアのところにはマニーシュ(ラージクマール・ラーオ)という男性が通ってくるようになるが、彼は実は人身売買された女性を救うNGOの一員だった。ある日、売春宿には警察の急襲があるが、マードゥリーから帰るところはないと言われていたソニアは、そのチャンスに逃げ出せなかった。

 ファイザルはソニアをマードゥリーと共に外国の顧客に売り払う。ソニアとマードゥリーはコンテナに入れられてまずは香港に上陸する。そこでソニアは顧客に処女を捧げる。次に彼女たちはロサンゼルスに運ばれる。だが、マードゥリーが自殺して起こった混乱に乗じてソニアは脱出し、NGOに助けられる。マニーシュやプリーティとも連絡が取れ、ソニアはインドに戻ってくる。だが、ソニアは麻薬漬けにされており、どこかへ逃げ出してしまっていた。ソニアはプリーティが帰ってくるのを待ち続けた。

 ムンバイーで人身売買により売春婦となった女性が香港経由でロサンゼルスまで辿り着き、コールガールになるというストーリーは一見突拍子もないのだが、実話に基づいた映画とのことで、この部分はかなり真実に近いのだろう。映画中には、人身売買の被害に遭った女性を救うインドと米国のNGOが登場するが、それらからのインプットから映画が作られたと推測される。

 主人公ソニアが売春宿に売られた経緯は少し変わっている。まずは姉が父親に売られ、ムンバイーに連れて行かれる。それを見てソニアも姉を追い掛けて、父親に無断でムンバイーへ行った。だが、田舎育ちで世間知らずだったソニアは、ムンバイーで待ち構えている仕事がどんなものか、全く想像できていなかった。案の定、売春宿に売り払われてしまう。

 ただ、ソニアは処女だったため、価値を見出された。売春宿の経営者ファイザルは、ソニアを高く売るために顧客を探した。ソニアは外国人の人身売買業者に売られ、香港経由でロサンゼルスに流れ着く。

 プリーティは別の運命を辿ることになる。彼女も売春婦にされたであろうことは想像に難くないが、それだけでなく、彼女は麻薬漬けにされてしまった。NGOのマニーシュに保護されるものの、麻薬の禁断症状を抑えきれず、ソニアが米国から帰ってくる前に施設から逃げ出してしまう。

 ソニアが売春宿で出会った先輩売春婦たちも、それぞれ歴史を持っていた。マードゥリーはソニアよりも幼い頃に誘拐されて売春宿に売られたし、ラシュミーは夫によって売春宿に売られた。

 ただ、ソニアは不思議なことも語っていた。貧しい農家に生まれ育ち、暴力を振るう父親に震えながら日々過ごしていたソニアは、売春婦になったことで、自分が価値を見出されたという感覚も持つようになった。売春婦の生活がマシに思えるほど、彼女の育った環境は酷いものだったということであろう。これだけリアルな自白は、NGOから入手した実例に基づいているとしか思えない。

 Eメールが効果的に使われていたのも印象的だった。ソニアが育った農村にはネットカフェがあり、そこでEメールを開けるのが唯一の娯楽だった。人身売買の被害に遭った後もソニアは時々Eメールを開ける。そこには、生まれ故郷で親しかった少年アマルからのメッセージがたくさん届いていた。

 新人ムルナール・タークルの演技は素晴らしかったし、脇役陣も演技派俳優ばかりで、非常にレベルの高い演技が見られたのは「Love Sonia」の美点であった。アヌパム・ケール、マノージ・バージペーイー、アーディル・フサインなどの男優陣も良かったし、売春婦を演じたリチャー・チャッダーやフリーダ・ピントーは絶賛に値する。

 「Love Sonia」は、インドおよび国際的な人身売買の現状に迫った、実話に基づくリアリスティックな映画である。新人ムルナール・タークルをはじめ、脇役陣のパワフルな演技が大きな見所だ。