Soorma

3.5
Soorma
「Soorma」

 21世紀に入り、ヒンディー語映画界でスポーツ映画がジャンルとして確立されていく中、その派生として、実在するスポーツ選手の伝記映画も盛んに作られるようになった。「Paan Singh Tomar」(2012年)、「Bhaag Milkha Bhaag」(2013年)、「Mary Kom」(2014年)、「Budhia Singh: Born to Run」(2016年)、「M.S. Dhoni: The Untold Story」(2016年)、「Dangal」(2016年/邦題:ダンガル きっと、つよくなる)などである。実話に基づくストーリーはそれだけでアピールになり、ヒット率は高い。

 2018年7月13日公開の「Soorma(戦士)」は、インド代表チームでキャプテンを務めたホッケー選手サンディープ・スィンの半生を描いた伝記映画である。サンディープはドラッグフリックの名手で、「フリッカー・スィン」の異名を持つ。一度、暴発した銃弾を受けて下半身不随になりながら復活し、インド代表に舞い戻ったという劇的な人生を送った人物でもあり、映画の題材として最適だ。

 プロデューサーの一人は女優のチトラーンガダー・スィン。監督は「Bunty Aur Babli」(2005年)などのシャード・アリー。主演はディルジート・ドーサンジで、ヒロインはタープスィー・パンヌー。他に、アンガド・ベーディー、サティーシュ・カウシク、クルブーシャン・カルバンダー、ヴィジャイ・ラーズ、ダーニシュ・フサインなどが出演している。

 ハリヤーナー州シャーハーバード出身のサンディープ・スィン(ディルジート・ドーサンジ)は、ホッケー選手の女性ハルプリート・カウル(タープスィー・パンヌー)に恋したことで、子供の頃に少しだけやっていたホッケーを再びプレイするようになった。サンディープの兄ビクラムジート(アンガド・ベーディー)はサンディープよりも有望な選手だったが、インド代表には選ばれなかった。

 夢破れて故郷に戻ってきたビクラムジートは、サンディープにドラッグフリックの才能を見出し、インド代表のコーチ、ハリー(ヴィジャイ・ラーズ)に紹介する。サンディープはフリッカーとしての才能を発揮し、試合で活躍するようになって、2006年にはインド代表に選ばれる。ハルプリートとの結婚も間近に控えていた。

 ところが、ワールドカップの試合に向かう列車の中でサンディープは暴発した銃から発射された銃弾を腹部に受け、重傷を負う。昏睡状態の後に目を覚ますが、下半身不随になっており、ホッケー選手としての復帰は絶望的だった。ハルプリートは病院にサンディープを見舞うが、自分が傍にいたら彼は二度と立ち上がれなくなると感じ、姿を消す。

 インドホッケー協会の会長(クルブーシャン・カルバンダー)はサンディープの復帰を信じ、彼のリハビリのために予算を付ける。サンディープはオランダに渡って特訓し、遂に立って走れるようになる。

 インドに戻ったサンディープは再びインド代表に返り咲き、2009年の英連邦スポーツ大会で活躍してチームを優勝に導く。

 インド代表チームのホッケー選手として絶頂期にありながら、不幸な事故で下半身不随となり、選手生命を絶たれながらも諦めず、過酷なリハビリを経てフィールドに復帰し、再びインド代表のホッケー選手に返り咲いたという、まるで嘘のような人生を歩んだスポーツ選手を題材にした映画であり、彼のその不屈の闘志に感動させられる。実話に基づく物語でなければ逆に映画として成立しなかったのではなかろうか。しかしながら、シャード・アリー監督のストーリーテーリングには素人臭さがあり、この格好の題材をさらに磨き上げることに失敗していた。

 まず、スポーツ映画として、スポーツのシーンは重視されなければならない。「Soorma」はホッケー映画であり、ホッケーの試合シーンもいくつか織り込まれている。だが、その肝心のホッケー・シーンに躍動感がない。また、試合では主人公のサンディープのみが活躍し、他のチームメイトの存在感が全くない。チームスポーツを題材にした映画は、チームワークも醍醐味のひとつだが、それが決定的に欠けてしまっている。スポーツ映画としては失格といわざるをえない。

 それではロマンス映画として見たらどうかということだが、サンディープとヒロインのハルプリートの関係も生焼け状態で引きつけるものがない。ハルプリートを演じたタープスィー・パンヌーは、女性中心映画に好んで出演する女優であるが、どういうわけかこの「Soorma」で彼女が演じた役は完全に脇役であり、序盤はまだ存在感があったものの、映画が進むにつれて出番を失い、最後には何をしている人かよく分からなくなってしまっていた。

 サンディープはハリヤーナー州に住むスィク教徒(参照)であり、祖父、父、兄らと共に住んでいた。他の大半のインド映画と同様に家族の要素はあったが、彼らの役割についても中途半端で、家族の大切さを謳った映画というわけでもない。

 結局、サンディープの波瀾万丈の人生に100%依存した映画である。彼の人生があまりに映画的すぎて、それを脚色すればするほど嘘っぽくなっていってしまうというジレンマもあったのかもしれない。しかしながら、素材はいいので、腕のいい監督が取り扱っていれば、もっと感動できる映画に仕上げられていたはずだ。シャード・アリー監督にとっては未熟さが露呈する映画になってしまっていた。

 それでも、サンディープ役を演じたディルジート・ドーサンジの演技は素晴らしく、彼のキャリアベストに数えていいくらいだ。コミックロールを得意とする俳優ではあるが、この映画のようなシリアスな演技もお手の物で、パンジャーブ人俳優としては間違いなく随一の人材だ。

 「Soorma」は、実在するホッケー選手サンディープ・スィンの伝記映画である。一度下半身不随になりながらインド代表に復帰したという不死鳥のようなスポーツ選手であり、映画の題材としては申し分ないが、その人生があまりに映画的すぎて、逆に監督がジレンマを抱えていたように感じた。感動できる映画だが、もっと有能な監督が撮っていたらさらに素晴らしいものになっていたのではないかというもったいなさも感じてしまう。興行的にも振るわず、フロップの烙印を押されている。