Love per Square Foot

4.0

 不動産を巡る物語はインドでも少なくなく、特に大半の人にとって人生で最大の買い物となるマイホームを巡るゴタゴタは、例えば「Khosla Ka Ghosla!」(2006年)という傑作で取り上げられた。2018年2月14日からNetflixで配信開始された「Love per Square Foot」も、世界で最も地価の高い都市とされるムンバイーにおいてマイホームを夢見る男女の物語である。

 監督はアーナンド・ティワーリー。「Go Goa Gone」(2013年/邦題:インド・オブ・ザ・デット)などのコミカルな役で知られる俳優だが、過去に短編映画を撮っており、この「Love per Square Foot」で長編映画監督デビューした。主演はヴィッキー・カウシャルと新人アンギラー・ダル。他に、アランクリター・サハーイ、ラグヴィール・ヤーダヴ、クナール・ロイ・カプール、ラトナー・パータク・シャー、スプリヤー・パータク、アルノーダイ・スィン、ブリジェーンドラ・カーラー、ガジラージ・ラーオなどが出演している。また、映画の最後にランビール・カプールがサプライズ出演している。

 インド鉄道で駅アナウンサーをする父親バースカル・チャトゥルヴェーディー(ラグヴィール・ヤーダヴ)と母親ラター(スプリヤー・パータク)と共に社宅に住む中産階級の青年サンジャイ(ヴィッキー・カウシャル)は、ITエンジニアとしてムンバイーの銀行に勤めていた。彼の夢はマイホームを持つことだった。だが、自分の勤める銀行からも住宅ローンの認可が下りなかった。また、サンジャイは、上司ラーシ・クラーナー(アランクリター・サハーイ)とただならぬ関係にあったが、ラーシにはカーシーン(アルノーダイ・スィン)という恋人がいた。

 ある日、サンジャイは新聞広告で、夫婦向けの高層住宅の入居者抽選が行われることを知る。サンジャイは、同じ会社に勤めるカリーナー・デスーザ(アンギラー・ダル)とその抽選に応募することにする。カリーナーも母親ブロッサム(ラトナー・パータク・シャー)と共にボロ屋に住んでおり、マイホームに憧れていた。てっきり落選するかと思っていたが二人は当選してしまう。そこで二人は取引を交わし、書類上は結婚して、その家を手に入れることにする。細かい手続きについては、サンジャイがたまたま知り合った公証人レヘマト・バーイー(ガジラージ・ラーオ)に任せた。

 カリーナーにはサム(クナール・ロイ・カプール)という許嫁がいたが、彼と価値観が合わないと感じたカリーナーはサムと別れる。また、サンジャイもラーシがカーシーンとの関係を続けるつもりであることを知って、彼女との関係を終わりとする。こうして二人は本当に夫婦となる道を歩み始める。サンジャイとカリーナーはお互いに両親と引き合わせる。チャトゥルヴェーディー家はヒンドゥー教徒でデスーザ家はキリスト教徒だったが、両家とも二人の結婚を認める。

 ただ、入居手続きのために必要だった頭金を用意するためにサンジャイは退職金基金を切り崩して金を用意していたが、その小切手を受け取りにラーシの家に行ったことで過ちを犯してしまう。カーシーンが浮気していると知ったラーシに誘惑されて一晩共に過ごしてしまったのである。サンジャイは結婚前にカリーナーにそれを打ち明ける。カリーナーはなかなかサンジャイを許さなかったが、サンジャイから心のこもった謝罪があったことで、彼と結婚することを決める。こうして新居にて二人の盛大な結婚式が執り行われた。

 普通は恋愛をし、結婚をし、そして家を手にするものだが、「Love per Square Foot」では、家を手に入れるために結婚をし、結婚のために恋愛をするという、逆順の関係を経験する若い男女が描かれていた点が新しかった。そして、それは決して非現実的なことではなく、地価が高く、庶民にとってマイホームが手の届かない夢になっているムンバイーにおいて、結婚を偽装でもしなければならない状況に陥っている厳しい現実がよく提示されていた。展開もテンポが良く、まだ経験の浅い監督の作品とは思えない出来であった。

 ヴィッキー・カウシャル演じるサンジャイがマイホームを欲しがっていたのは、インド鉄道に勤める父親の影響で、社宅を転々とする人生を歩んで来たからだ。彼はとにかく自分の家を求めており、その野心は比較的単純なものだった。

 一方、アンギラー・ダル演じるカリーナーは、マイホームを持ち、夫婦で何でも分担しながら生活することに憧れていた。許嫁のサムは裕福で、単純に経済的な観点から言えば、彼とそのまま結婚するのが、マイホームへの近道だった。だが、カリーナーにとってマイホームの意義は家を持つだけではなかった。銀行に勤め、経済的に自立しているカリーナーは、夫と50:50の関係で新しい生活を築いて行くことを希望していた。その価値観と、サムの価値観は相容れなかった。カリーナーが体現するこの女性像は非常に新しく、しかも世の流れをよく表していると感じた。

 カリーナーは、サムよりもサンジャイに、その夢が実現した姿を見ることができた。そのために彼を選んだのだった。英語にも「Home(家族)」と「House(家)」の違いがあるが、ヒンディー語にも「Ghar(家族)」と「Makaan(家)」の違いがある。サンジャイの浮気とその告白を機に二人の関係は悪化するが、最終的にはサンジャイもカリーナーの夢を理解し、彼女と共に家族を築き上げて行くことになる。

 サンジャイとカリーナーの関係はとてもよく描かれていた。カリーナーがサンジャイの浮気をなかなか許さなかったところだけ、少ししつこい気がしたが、二人の仲のアップダウンは非常に丁寧に描かれていた。それに対してサンジャイと上司ラーシの関係はスパイシーにし過ぎだった。なぜラーシがそんなにサンジャイに執着しているのか不明で、しかもカーシーンとの三角関係も唐突な展開をする。全般的によく出来ていた映画の中で、弱い部分だと感じた。

 「Masaan」(2015年)での好演から急激に台頭したヴィッキー・カウシャルは、ナワーズッディーン・スィッディーキーやラージクマール・ラーオなどと並ぶ、庶民層を的確に演じられる男優に成長した。今回もいい演技をしていた。ラトナー・パータク・シャーとスプリヤー・パータクは姉妹であり、共に高い演技力で知られている。他にもラグヴィール・ヤーダヴやガジラージ・ラーオなどの個性的な俳優が脇を固めており、キャストは豪華である。その中で新人アンギラー・ダルも物怖じしない演技をしており、映画に貢献していた。

 この規模の低予算映画において、最後にスター男優ランビール・カプールがサプライズ出演したのは驚きであった。そういえば彼は「PK」(2014年)の最後でも似たようなサプライズ出演をしていた。意外にフットワークの軽い男優なのかもしれない。

 音楽も効果的に使われていた。音楽監督はソハイル・セーンである。インド鉄道の駅アナウンサーが主人公の父親であることから、駅のアナウンスをラップ調にアレンジした「Yatri Kripaya Dhyaan De」や、アップテンポのダンスナンバー「Chicken Dance」など、耳に残る曲が多かった。

 「Love per Square Foot」は、決して派手な映画ではないが、しっかりした脚本、斬新な展開、俳優たちの好演、キャッチーな音楽などに支えられて、とても見応えのあるラブコメ映画に仕上がっている。地価が高騰するムンバイーにおいて庶民が直面する問題にも触れられており、ただの娯楽作で終わっていない点も評価できる。目立たないが光るもののある作品である。