2007年に「Welcome」というコメディー映画が公開された。監督は「Singh Is Kinng」(2008年)などのアニーズ・バズミー。この監督は好んでコメディー映画を作っているが、ヒンディー語映画界で「コメディーの帝王」と称されるデーヴィッド・ダワンやプリヤダルシャンら先人たちと比べると、詰めが甘く、まとまりに欠けることが多い。「Welcome」も、お世辞にも上質の映画とは言いがたかった。しかしながら、様々な要因から「Welcome」は2007年の大ヒット作の一本となった。主演の一人、アクシャイ・クマールがこの頃、当たりに当たっていたこと、オールスターキャストと言える豪華なキャスト陣だったこと、ヒンディー語映画界に大衆回帰の動きがあり、単純な筋書きの映画の需要があったことなどが要因として挙げられるだろう。
2015年9月4日公開の「Welcome Back」は、8年前の「Welcome」の続編である。これだけ期間が開いた続編はヒンディー語映画界では珍しい。監督は同じアニーズ・バズミー。作曲は、ミート・ブロス・アンジャーン、アヌ・マリク、ミカ・スィン。作詞はクマールとマノージ・ムンタシル。
主要なキャストは前作を引き継いでいる。アニル・カプール、ナーナー・パーテーカル、パレーシュ・ラーワルなどである。アクシャイ・クマール、カトリーナ・カイフ、フィーローズ・カーン(2009年に死去)が外れた代わりに、ジョン・アブラハム、シュルティ・ハーサン、ディンプル・カパーリヤー、ナスィールッディーン・シャー、アンキター・シュリーワースタヴ(新人)などが入っている。ヒンディー語映画の続編には、前作と全くストーリー上のつながりがないものが少なくないが、「Welcome Back」に関しては、前作を踏まえて今作がある形になっている。よって、前作の鑑賞・復習をして観るのが好ましい。
ウダイ・シェッティー(ナーナー・パーテーカル)とマジュヌー・バーイー(アニル・カプール)がマフィアの道から足を洗い、堅気になってから数年が経っていた。二人は未だに独身で、早く結婚したいと考えていた。そこへ「ナジャフガルの王族」を自称する、パドマーワティー女王(ディンプル・カパーリヤー)とチャーンドニー姫(アンキター・シュリーワースタヴ)が現れる。二人はチャーンドニー姫にゾッコンになり、彼女と結婚しようとする。実は二人は詐欺師の親子で、ウダイとマジュヌーと偽装結婚して大金をせしめようと画策していた。チャーンドニー姫がウダイとマジュヌーのどちらと結婚しようか選んでいるところへ、突然ウダイに腹違いの妹ランジャナー(シュルティ・ハーサン)が出て来る。ウダイは父親から、ランジャナーの結婚を託されてしまった。チャーンドニー姫は、なるべく結婚を遅らせるため、ランジャナーの結婚を優先するように言う。チャーンドニー姫と一刻も早く結婚したい二人は、ランジャナーの結婚相手を探し出す。 ウダイとマンジューは、ランジャナーを、親戚の医師グングルー(パレーシュ・ラーワル)の隠し子アッジュー(ジョン・アブラハム)と結婚させようとする。しかし、アッジューはムンバイーの下町を牛耳るチンピラの頭で、更生したウダイの妹との結婚には適していなかった。グングルーはこの結婚を何とか破談にさせようとする。ところが、アッジューは自然にランジャナーと出会い、恋に落ちる。グングルーは、ランジャナーがウダイの妹だとは知らず、これを理由にウダイから持ちかけられた縁談を断ろうとする。だが、ランジャナーがウダイの妹であることを知り、逆に縁談はまとまってしまう。 アッジューは、ウダイの前では真面目な青年を演じていた。しかし、婚約式の日に遂にアッジューの化けの皮がはがれる。アッジューは、絶対にランジャナーと結婚すると宣言する。アッジューと対立することになったウダイとマジュヌーは、ランジャナーを別の男と無理矢理結婚させることにし、マフィアの大ボス、ウォンテッド・バーイー(ナスィールッディーン・シャー)のところへ相談に行く。ところで、ウォンテッド・バーイーの息子ハニー(シャイニー・アーフージャー)は、空想上の女性に恋していた。その女性の顔は、なんとランジャナーとそっくりであった。それを知ったウダイとマジュヌーはウォンテッド・バーイーの豪邸からそそくさと抜け出すが、ランジャナーの結婚式にウォンテッド・バーイーとハニーが来てしまう。ランジャナーがハニーの理想の女性だと知ったウォンテッド・バーイーは、ハニーとランジャナーを結婚させることに決めた。 アッジューは、ハニーの理想の女性はランジャナーではなくチャーンドニー姫だと錯覚させようとする。ところがそれは失敗に終わり、アッジューはウダイやマジュヌーらと共にウォンテッド・バーイーに殺されそうになる。しかし、彼らはハニーを人質に取って逃げ出す。砂漠の真ん中でウォンテッド・バーイーに追いつかれるが、彼らは乱闘の中でラクダの大群に襲われ、そこでアッジューはウォンテッド・バーイーを助ける。また、ウォンテッド・バーイーは盲目だったが、このときにどさくさの中で頭を打ち、それが原因で視力が回復する。それに気をよくしたウォンテッド・バーイーは、アッジューとランジャナーの結婚を認める。
ウダイが妹を名家に嫁がせようと奔走するというプロットの核は前作を踏襲しており、そこから引き起こされるドタバタも、例えばグングルーが息子の恋人の正体を知らずにウダイに大見得を切るなど、前作を思わせるものが多かった。やはり全体的に詰めが甘い印象は拭えず、特に導入部や結末はあまりに乱暴だった。コメディーの多くもコント劇程度のもので、特別取り立てて話題にするようなものでもない。
その代わり、「Welcome Back」で感慨深かったのは、この8年の時の流れだ。前作「Welcome」公開時、アクシャイ・クマールは全盛期を迎えており、カトリーナ・カイフはまだまだ駆け出しの女優だった。アニル・カプールは、「Slumdog Millionaire」(2008年)で名を売り、今でこそ国際的に活躍する俳優となっているが、「Welcome」の頃の彼は伸び悩んでいた。フィーローズ・カーンは死に、「Welcome Back」では似たようなポストをナスィールッディーン・シャーが受け持った。一方で、ナーナー・パーテーカルとパレーシュ・ラーワルは業界内での立ち位置をそれほど変えていないと言える。前作のときから既に安定期に入っていたからだと分析できるだろう。
アニル・カプール、ナーナー・パーテーカル、パレーシュ・ラーワル、ナスィールッディーン・シャーの4人は、ベテランなので、このようなお馬鹿なコメディー映画でも余裕を持って役を演じられていたと思う。だが、ジョン・アブラハムは場違いな印象を受けた。特に彼は踊りがうまくないがネックだ。アニーズ・バズミーの映画は完全な娯楽路線なので、ダンスシーンも入るが、ジョンが踊るとどうも盛り上がらない。また、新人のアンキター・シュリーワースタヴの演技力にも疑問符を付けざるを得ない。シュルティ・ハーサンは、完全に才能の無駄遣いだ。
前作も大部分はドバイで撮影されたが、「Welcome Back」ではそのスケールがさらに大きくなっている。アブダビの高級ホテル、エミレーツ・パレスをはじめとして、ドバイの壮大な建築物がいくつも背景として登場し、圧倒的な豪華絢爛さを加えていた。前作はドバイで撮影されながら舞台はインドという設定だったと記憶しているが、本作では劇中でもドバイを舞台としていた。
「Welcome Back」は、8年前の大ヒットコメディー映画「Welcome」の続編。アニース・バズミー監督の新作である。前作も必ずしも傑作ではなかったのだが、本作は前作を越えるほどのレベルにも達していない。アニル・カプール、ナーナー・パーテーカル、パレーシュ・ラーワル、ナスィールッディーン・シャーなど、名優たちの肩肘張らないコミックロールを楽しむ以外の目的では、無理に観る必要はないだろう。