Kaagaz Ke Fools

2.5
Kaagaz Ke Fools
「Kaagaz Ke Fools」

 ヴィナイ・パータクはブラックコメディー映画「Bheja Fry」(2007年)でブレイクした男優であり、この映画で演じたような、天然ボケの善人役をよく演じることになった。「Dasvidaniya」(2008年)や「Chalo Dilli」(2011年/邦題:デリーに行こう!)がその典型例だ。2015年4月24日公開の「Kaagaz Ke Fools」も、ヴィナイ・パータク主演の善人系映画に数えられる。

 監督はアニル・クマール・チャウダリー。ほとんど無名の人物だ。主演のヴィナイ・パータクの他には、ムグダー・ゴードセー、ラーイマー・セーン、サウラブ・シュクラー、ラージェーンドラ・セーティー、アミト・ベヘルなどが出演している。

 題名の「Kaagaz Ke Fools」は「紙の馬鹿たち」という意味だ。これは、グル・ダット監督の名作「Kaagaz Ke Phool」(1959年)をもじったものだ。こちらは「紙の花」という意味になる。「Kaagaz Ke Fools」には主人公を含め何人か作家キャラが登場する。作家といえば紙にものを書く職業だ。それを意識してこのような題名を付けたものと思われる。

 デリー在住のプルショッタム・トリパーティー(ヴィナイ・パータク)は売れない作家だった。妻のニッキー(ムグダー・ゴードセー)は、彼がなかなか売れないことにやきもきし、突っかかってばかりいた。知り合いの作家ヴィノード(アミト・ベヘル)は売れっ子作家になっており、どうしても夫を成功している彼と見比べてしまっていたのだった。ある日、耐えきれなくなったプルショッタムは家を飛び出す。

 プルショッタムはクックー(ラージェーンドラ・セーティー)という賭博師が闇で経営するカジノに迷い込む。そこで意外な博才を発揮した彼は、その場にいた娼婦ルビーナー(ラーイマー・セーン)に目を付けられる。ルビーナーはプルショッタムを家に連れ帰るが、彼は彼女に手を出そうとしなかった。ルビーナーはますます彼のことが気に入ってしまう。

 翌朝、プルショッタムはルビーナーと共に警察に捕まる。警察から電話を受けたニッキーは、夫が見知らぬ女性と警察に捕まったことにショックを受ける。ルビーナーは賄賂を渡し、プルショッタム共々釈放される。プルショッタムはしばらくルビーナーと過ごすことになる。

 プルショッタムは再びクックーの賭博場へ行き、大儲けする。クックーが出て来て彼と勝負するが、それにもプルショッタムは勝ってしまう。プルショッタムはその金をルビーナーに渡し、去って行くが、クックーに誘拐され、監禁されてしまう。

 一方、ルビーナーはプルショッタムが書いた小説原稿を出版社に持ち込む。出版社の社長は小説を売れるようにアレンジするように言う。ルビーナーは勝手に原稿を書き換え、出版社に金を共に渡す。その本は大ヒットする。ニッキーは店で夫が書いた本を見つけ喜ぶ。

 プルショッタムは監禁から逃げ出し、家に帰る。そこで彼は初めて、自分の小説が出版されたことを知る。だが、勝手に書き換えられていたことに激怒する。出版社に怒鳴り込み事情を聞くと、ルビーナーがやったとのことだった。プルショッタムは、市場に出回っている本の回収を指示する。

 家では友人たちがプルショッタムの作家デビューを祝いパーティーを開いていた。家を訪ねてやって来たルビーナーをプルショッタムはニッキーに会わせる。そこへクックーの手下たちがやって来て、ニッキーを怪我させてしまう。ニッキーは入院する。ニッキーとルビーナーの間には友情が生まれ、プルショッタムは元通り、売れない作家に戻った。

 主人公のプルショッタムは、誠実だが処世術の下手な人物である。その頑固なまでの実直さゆえに、彼は作家として大成できていなかった。彼の書く小説は小難しく、大衆受けしそうになかった。出版社から、売れるようにもっと俗っぽく改変するように言われても頑として受け付けなかった。

 彼のそのバカ正直さは、妻への愛情にも現れている。彼がなかなか作家として成功しないため、ニッキーはついつい彼に厳しい言葉を投げ掛けてしまっていたが、本当は二人の夫婦仲はとても良かった。ニッキーはプルショッタムを愛し、それ以上にプルショッタムはニッキーを愛していた。だが、夫婦喧嘩がエスカレートし、プルショッタムは家を飛び出てしまう。

 彼の妻に対する愛情は、娼婦ルビーナーと出会った後に顕在化する。彼はルビーナーと二人きりの時間を長く過ごすが、彼女に指一本触れようとしなかった。ルビーナーがその理由を問うと、彼は妻への愛情を口にする。当初は彼から金を巻き上げようとして家に連れて来たルビーナーであったが、まず彼に好意を抱くようになり、次に彼に敬意を抱くようになる。

 そんな真面目一徹の彼が賭博を始めて博才を発揮するというのは変わった展開だ。特に賭博に対する罪悪感みたいなものは映画中では取り上げられていなかった。逆にプルショッタムは「ティーン・パッティー」と呼ばれるインド版ポーカーで勝ちまくり、多額の賞金を手にする。しかしながら、賭博で稼いだ金には手を付けないというのが彼のモットーであり、自分で自分のために使ったことはなかった。

 ルビーナーはプルショッタムと別れた後、彼から無理に渡された金を使って、彼の小説原稿を出版社に出版してもらおうとする。原稿の元々の題名は「एक ठहरी सी ज़िंदगीエーク テヘリー スィ ズィンダギー(ある止まったような人生)」だったが、ルビーナーはそれを勝手に「एक ठरकी सी ज़िंदगीエーク タルキー スィ ズィンダギー(あるスケベな人生)」に変えてしまった。そうしたら出版社も大喜びし、実際に市場でも飛ぶように売れる。

 プルショッタムがどういう反応をするか興味津々だったが、やはり彼は、勝手に改変された自分の小説が、たとえベストセラーになっていようと、許さなかった。出版社にはすぐに自主回収させる。最初から最後までとことん曲がったことをせず、自分も曲がろうとしない。

 そんな生き方にルビーナーも感化される。娼婦という仕事を悪と決め付けるのはよくないかもしれないが、プルショッタムに出会い、ニッキーと友情を結んだことで、彼女の人生が好転するであろうことがほのめかされ、映画は終わっていた。

 日本人には分かりにくいかもしれないが、プルショッタムはウッタル・プラデーシュ州の人間、ニッキーはパンジャービーという設定であった。つまり、この夫婦は地域や言語の壁を越えて恋愛結婚している。プルショッタム役を演じたヴィナイ・パータクはビハール州出身であり、ウッタル・プラデーシュ州とも遠くない。だが、ニッキー役を演じたムグダー・ゴードセーはプネー出身のマラーティーであり、パンジャービーを「演じた」ことになる。ムグダーは演技力のある女優だが、彼女のパンジャービー演技にはぎこちないものがあった。ちなみに、ラーイマー・セーンが演じたルビーナーはベンガル人という設定である。この辺りはセリフを聞くと分かるようになっている。

 ラーイマー・セーンは、往年の女優ムンムン・セーンの娘ということで血統も良く、大きな目が印象的な美人で、演技力もある。だが、役の選定が独特で、なぜ彼女がこんな変な役をするのかと疑問を持たされることも多い。「Kaagaz Ke Fools」で彼女が演じたのも、文学の素養がある娼婦という役であった。彼女に気品がありすぎて、安っぽい娼婦にはとても見えなかった。彼女の演技は映画にとってプラスに働いていたものの、彼女を起用したことでいい意味での安っぽさが出ていないと感じた。

 「Kaagaz Ke Fools」は、ヴィナイ・パータクが得意とする善人系のほんわかコメディー映画である。低予算映画の作りで、派手な点は一切ない。無理して観る必要はないだろう。


Kaagaz Ke Fools (2015) HD - Vinay Pathak - Mugdha Godse - Raima Sen - Popular Bollywood Hindi Movie