Tevar

2.5
Tevar
「Tevar」

 昔からヒンディー語映画界は南インド映画のリメイクをして来たが、現在のリメイク氾濫のきっかけはアーミル・カーン主演「Ghajini」(2008年)やサルマーン・カーン主演「Wanted」(2009年)辺りだった。これら以降の南インド映画リメイクはアクション映画に極度に偏っている。ヒンディー語アクション映画の大半は南インド映画のリメイクと言っても過言ではないほどだ。

 この傾向は2015年に入っても続いており、1月9日に公開された「Tevar」も、2003年公開のテルグ語アクション映画「Okkadu」のリメイクである。監督はアミト・シャルマー。元々テレビCM監督で、本作が映画デビュー作となる。基本的に作曲はサージド・ワージド、作詞はカウサル・ムニールやダーニシュ・サーブリーなどだが、1曲だけオランダ生まれのパーキスターン人歌手イムラーン・カーンが作詞作曲している。

 「Tevar」の主演はアルジュン・カプール。この映画のプロデューサー、ボニー・カプールの息子である。「Ishaqzaade」(2012年)や「2 States」(2014年)などに出演して来ており、若手男優の中では成長株だ。ヒロインは既に地位を確立しているソーナークシー・スィナー。他に、マノージ・バージペーイー、ラージェーシュ・シャルマー、ラージ・バッバル、ディープティー・ナーヴァル、グンジャン・マロートラー、スブラト・ダッターなどが出演している。また、シュルティ・ハーサンがアイテムガール出演している。

 ちなみにタイトルの「Tevar」とは「怒りの表情」といった意味である。

 アーグラー在住のガンシヤーム・シャルマー、通称ピントゥー(アルジュン・カプール)はカバッディーの選手で、仲間たちからも人望があった。父親のシュクラー(ラージ・バッバル)は警視で、家には母親の他におしゃべりな妹ピンキー(グンジャン・マロートラー)がいた。

 あるときピントゥーはマトゥラーへ行き、そこで州内務大臣マヘーンドラ・スィン(ラージェーシュ・シャルマー)の弟でバーフバリ(棟梁)のガジェーンドラ・スィン(マノージ・バージペーイー)に無理矢理連れて行かれそうになっていた美女ラーディカー・ミシュラー(ソーナークシー・スィナー)を助ける。ラーディカーはガジェーンドラから執拗に言い寄られており、ジャーナリストの兄を殺され、デリーを経由して米国に逃げるところだった。ピントゥーはラーディカーを救ったことでガジェーンドラから目を付けられることになる。

 ピントゥーはラーディカーをアーグラーまで連れ帰り、両親には内緒で自宅に匿っていた。一方、ガジェーンドラは兄の選挙集会を乗っ取ってラーディカーの写真を配り、彼女を捜索させた。ガジェーンドラはラーディカーのことを許嫁だと公言した。その甲斐があって、ラーディカーの居所が分かる。また、シュクラー警視もピントゥーがラーディカーを家に匿っていることに気付く。ピントゥーはラーディカーを連れて逃げる。

 ちょうどホーリー祭の日だった。ガジェーンドラによってアーグラー中に警察官が配置され、ラーディカーを逃がすまいとしていた。ピントゥーはホーリー祭の騒ぎに紛れてバイクで疾走し、警察官やガジェーンドラの手下たちの追っ手をかわす。そしてラーディカーをデリーの空港まで送り届けるが、そこでシュクラー警視やガジェーンドラに阻止されてしまう。ラーディカーはガジェーンドラに連れて行かれ、ピントゥーは逮捕される。

 ガジェーンドラは早速ラーディカーとの結婚式を準備し始めた。だが、ラーディカーと結婚する前にピントゥーに復讐しなければ気が済まず、ピントゥーに対するFIR(被害届)を取り下げ、ピントゥーを解放してマトゥラーへ連れて行く。ガジェーンドラは、兄の制止を振り切って、公衆の面前でピントゥーを殺そうとする。だが、ピントゥーは反撃し、ガジェーンドラを打ちのめす。最終的にガジェーンドラにトドメを刺したのは、それまでガジェーンドラの右腕だったカクリー(スブラト・ダッター)であった。弟を見放したマヘーンドラからバーフバリに任命され、ガジェーンドラの殺害を命令されたのだった。

 北インドはウッタル・プラデーシュ州の西部に位置するアーグラーとマトゥラーという歴史ある2都市を舞台にした、土臭いアクション映画であった。ヒンディー語映画の拠点があるムンバイーやマハーラーシュトラ州ではなく、ヒンディー語が話されている北インドの諸都市を舞台にした映画作りは「Dabangg」(2010年)辺りからのトレンドであり、「Tevar」もその流れに乗った作品だと言える。

 アーグラーはインドを代表する遺跡タージマハルを擁し、映画では頻出する町であるが、映画の舞台となることはそれほど多くなかった。アーグラーから60km離れた場所にあるマトゥラーはクリシュナ生誕寺院やヤムナー河に面したガート(沐浴場)があることで有名なヒンドゥー教の聖地であり、やはり有名な町だが、こちらも映画の舞台となることは今までほとんどなかった。よって、これら両都市を舞台にし、タージマハルやガートを効果的に映し出しながら、この地域で話されるブラジ方言を台詞にふんだんに活用した「Tevar」は、独自の雰囲気を醸し出すことに成功していた。

 主人公がインドの伝統的スポーツ、カバッディーの選手だという設定も新鮮だった。インドでスポーツと言えば断然クリケットであり、カバッディーのような伝統的なスポーツは辺縁に追いやられていたが、ちょうど2014年7月に都市対抗型のプロカバッディーリーグ(PKL)が発足し、インド人の間でカバッディーが改めて見直されて来ている。そんなタイミングでの公開だった。ただ、原作「Okkadu」で既に主人公がカバッディー選手という設定になっていたので、PKLに合わせて主人公をカバッディー選手ということにしたという訳ではなさそうだ。

 人間関係で面白かったのは、ヒーロー、ヒロイン、悪役、共に兄弟を持っていることだった。ヒーローのピントゥーには妹がおり、彼の良き理解者である。ヒロインのラーディカーにはジャーナリストの兄がおり、ガジェーンドラに殺されている。悪役のガジェーンドラは、兄で州内務大臣マヘーンドラの威を借りて横暴を繰り返しており、最後にはマヘーンドラに愛想を尽かされて殺される。関係はそれぞれだが、ストーリー進行上、それぞれの兄弟が重要な役割を果たしている。

 残念ながら「Tevar」はフロップに終わってしまったが、その要因は、まだアルジュン・カプールに観客動員力がないからであろう。主演がもしサルマーン・カーンやアクシャイ・クマールなどの、まとまったファン層を持つスター俳優であったら、興行成績はかなり変わっていたのではないかと思う。もっと脚本が弱いリメイク映画でも、それらの大スターが主演しただけでヒットということになった例は過去にいくつもある。むしろ、実際の町中でのファイトやチェイスなど、実地でのロケを重視した作りには好感が持てた。だが、アルジュンを責めることはできないだろう。彼は自身の現在のキャパシティーの中で十分に良い仕事をしていた。ソーナークシーも魅力と実力を上げており、マードゥリー・ディークシト型の女優に成長しつつあると感じた。

 南インド映画リメイクの名残が一番強く感じられたのはダンスシーンの使い方だった。ヒンディー語映画の標準から比べると、ダンスシーンの数が多く、また入り方が唐突気味であった。特にイムラーン・カーンが歌う「Let’s Celebrate」は無理に入れた感じがした。しかし、音楽やダンスの質は総じてなかなか良く、「Let’s Celebrate」を含め、「Superman」、「Radha Nachegi」、「Madamiyan」など、ノリのいい曲が揃っていた。

 「Tevar」は、アーグラーとマトゥラーを舞台としたアクション映画。2003年のテルグ語映画「Okkadu」のリメイクである。新人監督の作品で、興行的には失敗に終わったが、決してつまらない訳ではない。スターの力さえあればヒットに化けた可能性のある出来だ。主演のアルジュンは順調にキャリアを積んでいるが、3カーンなどと肩を並べるためには、もう少し経験を積む必要があるだろう。


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