Department

4.0
Department
「Department」

 かつてコンスタントにヒット作を連発し、ヒンディー語映画界の中で一目置かれる存在だったラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督であるが、伝説的名作「Sholay」(1975年)のリメイク「Ram Gopal Varma Ki Aag」(2007年)の大失敗辺りからケチが付き始め、それでも趣味に走った作品を懲りずに送り出し続けており、最近では業界からあまり相手にされなくなって来ている。それでも個人的には目が離せない監督であり、特に彼が自らメガホンを取った作品はどうしても観てしまう。

 ヴァルマー監督の持ち味のひとつはギャング映画であり、彼の作る一連のギャング映画群は徐々にアンダーワールドの真実に近付きつつあると言っていいだろう。2012年5月18日公開の最新作「Department」も、政治家、警察、マフィアの癒着をベースにしたギャング映画である。アミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットという大御所男優が共演することもあり、話題性は十分であったが、批評家や観客の反応はいまいちのようだ。

監督:ラーム・ゴーパール・ヴァルマー
制作:スィッダールト・オーベローイ、アミト・シャルマー
音楽:ダラム・サンディープ、バッピー・ラーヒリー、ヴィクラム・ネーギー
歌詞:ヴァーユ、シャッビール・アハマド、サンディープ・スィン
振付:ガネーシュ・アーチャーリヤ、シャバーナー・カーン
出演:アミターブ・バッチャン、サンジャイ・ダット、ラーナー・ダッグバーティ、ラクシュミー・マンチュー、アンジャナー・スカーニー、ヴィジャイ・ラーズ、アビマンニュ・スィン、マドゥ・シャーリニー、ナターリヤー・カウル、ディーパク・ティジョーリーなど
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ムンバイー警察のエンカウンター・スペシャリスト(現行犯射殺専門家)シヴナーラーヤン(ラーナー・ダッグバーティ)は、公衆の面前でマフィアを無慈悲に射殺したことで停職処分を喰らっていたところを、上司マハーデーヴ・ボースレー(サンジャイ・ダット)に呼び出される。マハーデーヴは、法律では対処できない事件を担当する「デパートメント」と呼ばれる特殊な部署を指揮することになり、所属する警察官を集めていた。かつてマハーデーヴはシヴと共にギャングを一網打尽にしたことがあり、彼に白羽の矢を立てたのだった。シヴは二つ返事でデパートメントに加わる。

 近年ムンバイーでは、ムハンマド・ゴーリーとサーワティヤー(ヴィジャイ・ラーズ)という2人のドンが抗争を繰り広げていた。デパートメントはサーワティヤーのギャングを潰しにかかる。サーワティヤーの右腕DK(アビマンニュ・スィン)とその恋人ナスィール(マドゥ・シャーリニー)は警察に反撃をすることを主張するが、サーワティヤーは不思議と黙認を続けていた。

 シヴは、マフィアから政治家に転身し、現在州政府の大臣を務めるサルジェーラーオ・ガーイクワード(アミターブ・バッチャン)の命を救ったことから、彼と親身になる。サルジェーラーオの発言から、シヴはマハーデーヴがゴーリーと通じていることを知る。尊敬していたマハーデーヴがマフィアと密通していることに失望したシヴだったが、デパートメントのために仕事をし続けることを決める。

 ところで、サーワティヤーとDKの関係はかなり悪化していた。遂にサーワティヤーはDKとナスィールの居所をマハーデーヴに密告する。だが、マハーデーヴはDKとナスィールを煽ってサーワティヤーから独立したギャングを作らせる。そのことを知らないシヴはDKとナスィールのギャングを潰しにかかる。だが、シヴは罠にはめられ、実業家タークル殺害の濡れ衣を着せられてしまう。デパートメントの仲間であるダーナージー(ディーパク・ティジョーリー)も、タークルを殺したのはシヴだと嘘の供述する。シヴは、逮捕しに来たマハーデーヴから逃れ、ダーナージーのところへ行く。ダーナージーは、息子を人質に取られており、誘拐犯から言われた通りの供述をしただけだと答える。シヴは、全てはサーワティヤーの仕業だと考える。そこへサーワティヤーから電話が掛かって来る。サーワティヤーはシヴに、自分のギャングに加わるように促す。シヴはサーワティヤーに会いに行くが、そこで彼のギャングを一網打尽にする。ところが、サーワティヤーを殺そうとしたときに、彼が自分はサルジェーラーオの仲間だと言い出したため、思い留まる。シヴはサルジェーラーオに会いに行く。

 サルジェーラーオの話では、アンダーワールドのバランスを保つために、強大となったゴーリーの対抗馬として、政府はサーワティヤーのギャングを裏で支援していると明かす。警察の中にデパートメントを作ったように、ギャングの中にもデパートメントを作ったのだった。しかし、デパートメントの頭マハーデーヴはゴーリーと通じており、DKとナスィールのギャングを作ったのもマハーデーヴであった。さらに、DKとナスィールはシヴの妻バーラティー(アンジャナー・スカーニー)を誘拐していた。それを知ったシヴは、まずはDKとナスィールのアジトを急襲し、二人を容赦なく殺害する。その後マハーデーヴと落ち合い、決闘の末に彼を殺す。

 一連の事件の中でシヴの容疑は晴れ、マハーデーヴは殉職したことになった。マハーデーヴに代ってデパートメントを指揮することになったシヴのところに、ゴーリーから電話が掛かって来る・・・。

 しばしばインド映画の特徴として「勧善懲悪」という言葉が使われるが、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の最新作「Department」にはそれは全く当てはまらない。映画の中で何度も若いシヴは善悪の狭間で葛藤するが、年上のマハーデーヴやサルジェーラーオが彼に教え諭すのは、世の中は善悪で動いていないということである。それがそのままこの映画全体のテーマになっていたと言っていいだろう。政治家、警察、マフィアがそれぞれの利益のために癒着し合う構造を描写しながら、それを決してネガティヴには描いておらず、むしろ世の中のバランスを保つためにその癒着は必要だと結論付けられていた。最後、マハーデーヴを殺したシヴのところに、マハーデーヴと密通していたマフィアのドン、ゴーリーから電話が掛かって来て、シヴが彼と会うことを承諾するところから、シヴもそのシステムの中に組み込まれたことが分かる。

 腐敗したシステムを変えようとするとき、果たしてそのシステムの中からシステムを変える努力をすべきなのか、それともシステムの外から行うべきなのか、これはヒンディー語映画においても、現実世界の政治においても、度々命題となる問題である。アンナー・ハザーレーの運動は正にシステムの外からシステムを変えようとする試みであった。「Sarkar」(2005年)に代表されるように、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督も、システムの外からシステムを変えようとする方向性に共感を抱いているようだが、「Department」ではさらに一歩考えを推し進めていたように感じた。たとえシステムの外に出ようとしても、さらに大きなシステムがそこには存在し、そのより大きなシステムの一部にならざるを得ないということである。これはシヴに当てはまる。シヴは法律の枠組みの中でギャングを取り締まることに限界を感じ、法律の外に位置する特殊部署「デパートメント」に参加する。しかしながら、システム外の存在だと思われたこのデパートメントも、結局はより大きなシステムの掌の上で動いていたに過ぎなかったのである。

 今回、最大マフィアのドン、ゴーリーは劇中に全く登場せず、そのライバルのサーワティヤーの生死も不明のままである。ゴーリーは海外に住みながらムンバイーのマフィアを動かしていると理解できる発言があり、おそらくダーウード・イブラーヒームをモデルにしているのではないかと思う。最近のラーム・ゴーパール・ヴァルマーは続編を匂わす終わらせ方を好む――実際に続編があろうとなかろうと。「Department」も十分に続編への伏線を張った終わらせ方であった。

 ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の映画に特徴的なカメラワークも健在で、今までよりも数段パワーアップしていた。多くのシーンにおいて、普通の映画監督がちょっと思い付かないようなアングルからカメラを向けていた。しかしここまで来ると奇をてらい過ぎで、映画の世界に入り込む際に支障となる。そのアングルが何かを意味するのかと勘ぐってしまったりもするのだが、特に何の意味もなかったりして、いちいち気が散るのである。ちなみにそれらのシーンでは、小型ビデオカメラGoProを使って撮影しているようで、この点でもユニークな試みが行われている。

 ミーハーな見方をすれば、最大の見所はアミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットの共演であろう。この2人は割と過去にスクリーンを共有しており、例えば「Kaante」(2002年)、「Eklavya: The Royal Guard」(2006年)、「Aladin」(2007年)などで共演している。二人の仲は悪くないようである。二人とも円熟期に入っており、ハードボイルドな演技であった。この二人に比べると、シヴを演じたラーナー・ダッグバーティはまだ経験が浅い。基本的にはテルグ語映画の男優で、ヒンディー語映画出演は「Dum Maaro Dum」(2011年)に続き2作目だ。しかしながら貫禄で負けておらず、非常に堂々と演じ切ったと言える。ルックスは完全にテルグ語映画向けで、このままラーム・ゴーパール・ヴァルマーのキャンプを越えてヒンディー語映画界で活躍して行けるか不明ではあるが、少なくとも「Department」での彼は素晴らしかった。

 他にも、サーワティヤーを演じたヴィジャイ・ラーズ、DKを演じたアビマンニュ・スィン、ダーナージーを演じたディーパク・ティジョーリーなど、曲者俳優がそろい踏みであった。女優陣では、ラーナー・ダッグバーティに加えてテルグ語映画界からの起用が多く、印象的な女マフィアのナスィールを演じたマドゥ・シャーリニー、マハーデーヴの妻サティヤーを演じた、ディーピカー・パードゥコーンに似た顔をしているラクシュミー・マンチューなどは元々テルグ語映画女優だ。他に「Golmaal Returns」(2008年)などに出演していたアンジャナー・スカーニーがバーラティー役で出演。この三人の中ではマドゥ・シャーリニーの存在感が圧倒的。エロティックなシーンも難なく演じていた。また、インド人とブラジル人のハーフでオペラ歌手のナターリヤー・カウルがアイテムソング「Dan Dan Cheeni Shoot Mix」でダンスを踊っている。このダンスもまた必要以上に妖艶であった。

 「Department」は全体的にハードボイルドな映画であったが、ミュージカルシーンやダンスシーンが極力組み込まれていた。この映画のサントラの中で特に話題となったのがムンバイー警察のテーマ曲的な「Mumbai Police」であったが、警察を茶化した内容であることが問題となり、本編中では使用されなかった。「Kammo」ではアミターブ・バッチャンとサンジャイ・ダットが一緒に踊るのが見所だ。前述のアイテムソング「Dan Dan Cheeni Shoot Mix」も良い。これはラジニーカーント主演のタミル語映画「Adutha Varisu」(1983年)のリミックスである。

 基本的にヒンディー語映画であったが、特徴的な話し方をする登場人物が2人いた。1人はサーワティヤー。ボージプリー語訛りのヒンディー語をしゃべっており、ビハール州出身のマフィアであることが分かる。一方、その右腕で後に独立することになるDKはマラーティー語訛りのヒンディー語をしゃべっている。

 「Department」は、ラーム・ゴーパール・ヴァルマー監督の飽くなきアンダーワールド研究の最新レポートと言ってもいい内容。善悪を越えた「バランス」と、システムの外まで包み込む「より大きなシステム」の存在を提示しており、非常に楽しめた。一般の評価は高くないようだが、個人的には高い評価を与えたい。