Dum Maaro Dum

3.5

 アラビア海に面したゴア州はインドを代表する観光地だ。ポルトガル領時代の遺構やフランシスコ・ザビエルのミイラも見物だが、何と言ってもゴアが世界に名を轟かせているのはそのビーチである。沿岸線にいくつものビーチが点在し、それぞれが独自のアイデンティティーを持っている。かつてはヒッピーの天国と呼ばれ、外国人長期滞在者の溜まり場となっていたゴアも、最近では地元インド人観光客が押し寄せるようになり、すっかり様変わりしたが、中心部から外れたビーチでは今でもヒッピー全盛時代のゴアの面影を探すことが出来る。また、ゴアはフルムーン・パーティーやレイヴ・パーティーと言ったパーティー文化でも有名である一方、ドラッグ汚染でも悪名を轟かせている。ドラッグ絡みと思われる外国人の変死事件や殺人事件も明るみに出るようになっている。ゴア州警察は健全な観光地として汚名返上するためにパーティーやドラッグの規制強化に努めており、かつての自由さはなくなって来ているとの話も聞く。また、既に本物のヒッピーたちは、ごった返したゴアを離れ、カルナータカ州やケーララ州のさらなる秘境ビーチに移動しているという話もある。

 本日(2011年4月22日)より公開の新作ヒンディー語映画「Dum Maaro Dum」は、ゴアのアンダーワールドを舞台にしたスリラー映画である。ゴアはヒンディー語映画の本拠地ムンバイーから近い風光明媚の地であることから、昔からヒンディー語映画の舞台として好まれて来た土地であるが、近年のインド人の間でのゴア人気のきっかけとなったのは確実に「Dil Chahta Hai」(2001年)である。その後もゴアはいくつもの映画の舞台となって来ており、最近では「Guzaarish」(2010年)や「Golmaal 3」(2010年)などが記憶に新しい。だが、ゴアのアンダーワールドと限定すると、「Musafir」(2004年)辺りが近い。また、ドラッグをテーマにしたインド映画と言うと、「Charas」(2004年)や「Dev. D」(2009年)などが思い浮かぶ。

 「Dum Maaro Dum」の監督は「Bluffmaster!」(2005年)のローハン・スィッピー。主演は「Game」(2011年)に続きアビシェーク・バッチャン。ビパーシャー・バスがヒロイン扱いと言えるが、意外に汚れ役で、この作品中にヒロインらしいヒロインはいない。ヴィディヤー・バーランとディーピカー・パードゥコーンの特別出演は豪華。他に、プラティーク・バッバルの出演や、テルグ語映画で活躍中のラーナー・ダッグバーティがヒンディー語映画デビューを果たす点にも注目。ちなみに題名となっている「Dum Maaro」とは「ハッパを吸え」という意味である。

監督:ローハン・スィッピー
制作:ラメーシュ・スィッピー
音楽:プリータム
歌詞:ジャイディープ・サーニー
振付:ボスコ・シーザー
衣装:ファールグニー・タークル
出演:アビシェーク・バッチャン、ビパーシャー・バス、ラーナー・ダッグバーティ(新人)、プラティーク・バッバル、アーディティヤ・パンチョーリー、ゴーヴィンド・ナームデーオ、アナイター・ナーイル、ヴィディヤー・バーラン(特別出演)、ディーピカー・パードゥコーン(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ゴアで生まれ育った青年ロリー(プラティーク・バッバル)は、米国の大学留学を夢見ており、合格通知も受け取るが、奨学金には通らなかった。留学には15,000ドルの資金が必要であり、中流家庭のロリーは留学を断念せざるを得なかった。一方、幼馴染みのタニー(アナイター・ナーイル)は、裕福な家庭に生まれ留学資金にも困っていなかったにも関わらず、大学にも奨学金にも合格し、米国に留学することになった。

 一人残され落ち込むロリーに近寄って来たのが、ゴアのアンダーワールドにコネを持つリッキーであった。リッキーはロリーに15,000ドルを支払うことを約束するが、その交換条件としてドラッグの運び屋になることを提案する。最初は断ったロリーであったが、最終的にはリッキーの誘いに乗ってしまう。米国へ飛び立つために家族に見送られて空港へ向かったロリーであったが、そこでヴィシュヌ・カーマト警視監(アビシェーク・バッチャン)に捕まってしまう。ヴィシュヌはロリーの鞄の中からドラッグを発見し、ロリーを署にしょっ引く。

 ヴィシュヌは5年前には非常にアクティブに活動していた警察官であった。次々に事件を解決する代わりに、汚職にもどっぷり浸かっていた。だが、ドラッグ中毒者が運転する自動車が引き起こした交通事故で妻(ヴィディヤー・バーラン)と子供を失い、それ以来孤独の世界に浸っていた。ところが、ゴア州の内務大臣が、ゴアのドラッグ汚染があまりに酷くなってしまったことを見て、ヴィシュヌを召還し、彼にドラッグマフィア一掃を命じる。それ以来、ヴィシュヌはメルシーとラーネーという2人の相棒と共にゴア中を駆け巡ってドラッグ密売マフィアたちの包囲網を敷いて来た。ゴアのアンダーワールドの総元締めはローザ・ビスクッタ、通称ビスケット(アーディティヤ・パンチョーリー)という男であった。表向きは実業家兼慈善活動家であったが、裏ではゴア中のドラッグ密売を取り仕切っていた。ビスケットを追う内にリッキーが捜査線上に浮かんだが、リッキーを追い詰めた時には既に殺されていた。リッキーにロザンナというブラジル人のガールフレンドがいること、彼女が出国しようとしていることを突き詰めたヴィシュヌは空港へ向かった。ブラジルの外交官の横槍が入ったためにロザンナを逮捕することは出来なかったが、ヴィシュヌはたまたまロリーに目を付け、彼を取り調べたのだった。

 ロリーを署に連行するときに、一人の男がヴィシュヌの前に現れ、彼の無実を訴えた。ヴィシュヌはその男も署に連行した。その男の名はDJジョキ(ラーナー・ダッグバーティ)。職業はギタリスト。かつて彼にはゾエ(ビパーシャー・バス)というガールフレンドがいた。ゾエはスチュワーデスになることを夢見ており、客室乗務員養成学校を卒業したが、なかなか就職できずにいた。そんなときにビスケットやリッキーと出会い、スチュワーデスの夢を叶えるためにドラッグの運び屋となることを承諾した。だが、何度か運び屋をする内に行為がばれて逮捕されてしまい、14年の懲役刑を受けた。だが、ビスケットの愛人となることで14日で出所し、それ以降ビスケットの秘書兼愛人として暗黒の人生を過ごしていた。それを見ていたジョキは、ロリーが第二のゾエとなりつつあることを心配し、忠告して来た。だが、ロリーは聞く耳を持たず、このようなことになってしまったのだった。ジョキはロリーに、洗いざらい全て話すことを助言するが、ロリーは脅されており、なかなか口を割ろうとしなかった。そのままロリーは少年院に入れられてしまう。

 だが、ビスケットやゴアの麻薬ディーラーたちの方も、ヴィシュヌが取り締まりと摘発を強化したために商売に支障が出て来ていた。そこで安全策を採り、手持ちのドラッグを全て集め、ゴアのアンダーグランドの真のボスであるマイケル・バルボーサに預けることにする。その価値は30億ルピー以上に上った。その情報を掴んだヴィシュヌは、ジョキの力も借りてマイケル・バルボーサについて調べ始めるが、全く得体の知れない人物で、誰もその正体を知らなかった。マイケル・バルボーサを追う内にメルシーが殉職してしまう。また、ジョキは密かにゾエと接触し、二人の間には再び関係が芽生える。

 国際的麻薬ディーラーたちはゴアでの麻薬売買から手を引こうとしていたが、ビスケットは場所をカルナータカ州のゴーカルナに移し、大レイヴ・パーティーを開催して、そこで今まで通り麻薬売買を行うことを宣言する。その情報をキャッチしたゾエはジョキに密告するが、それがビスケットにばれてしまい、彼女が殺される。だが、ジョキは責任を持ってその情報をヴィシュヌに渡す。また、ヴィシュヌはロリーに一部始終を紙に書かせ、その中からマイケル・バルボーサのヒントを探す。ヴィシュヌはゴーカルナのレイヴ・パーティーを急襲して密売人やドラッグ使用者を一網打尽にする。同時に彼はマイケル・バルボーサの正体も突き止める。だが、そのとき部下のラーネーに撃たれてしまう。実はラーネーはビスケットと密通していたのだった。ヴィシュヌは殉職する。

 ヴィシュヌ死後もジョキは独自に捜査を続けた。ジョキは、ヴィシュヌが遺したダイイング・メッセージに気付き、ヴィシュヌはラーネーに殺されたことを知る。また、ジョキはゾエの墓参りに行ったときにたまたまマイケル・バルボーサの秘密にも気付く。マイケル・バルボーサとは麻薬密売の黒幕ではなく、麻薬の隠し場所のことであった。マイケル・バルボーサという故人の墓に麻薬が隠されていた。ジョキはそれを全て奪い、ラーネーをおびき寄せてヴィシュヌの仇を取る。また、ビスケットも後に非業の死を遂げる。一方、ロリーは罪が晴れ、少年院から出て、帰郷していたタニーと再会する。

 まずは映像表現と音楽が格好いい映画だった。ゴアのドラッグカルチャーやパーティーカルチャーをサイケデリックな映像と印象的なリフの繰り返しで存分に表現していた。まるでゴアを訪れる外国人全てがドラッグ中毒者であるかのような、誇張した描写には多少疑問を覚えたが、ほぼ全編ゴアで撮影されて、ナイトマーケットやビーチも登場し、ゴアの俗語も満載で、総じてゴアの雰囲気がよく出た映画になっていた。

 物語は前半と後半で大きく分かれる。インターヴァル前の前半は、ロリー、ヴィシュヌ、ジョキと言う3人の主人公が今回の事件に関わることになるまでを各々の視点から順に追っている。この三人の接点となるのが空港で、ロリーはヴィシュヌに捕まり、ジョキもそこに飛び込むことになった。インターヴァル後は、ヴィシュヌと共に観客もマイケル・バルボーサの謎を追う。終盤でなんと主役だと思っていたヴィシュヌが死んでしまうという大番狂わせがある他、マイケル・バルボーサの正体もほとんど予測不可能なもので、意外性のある脚本になっていた。スリラーとしては一級の作品である。

 ただ、ヴィシュヌのキャラクターは「Dhoom」シリーズでアビシェーク・バッチャンが演じたジャイと酷似している。頭脳明晰かつ大胆不敵な警察官と言ったキャラである。アビシェークは「Game」でも同様の役柄を演じており、次第にイメージが固定して行ってしまっている。彼の演技は悪くはなかったが、このまま同じような役を演じ続けることは避けた方がいいだろう。

 アビシェークの他に主役級だったのがプラティーク・バッバルとラーナー・ダッグバーティ。それぞれロリーとジョキを演じた。「Dhobi Ghat」(2011年)での演技が記憶に新しいプラティークはオーバーアクティングなところがあったが、テルグ語映画からヒンディー語映画に飛び込んだラーナーは堂々とした演技で、アビシェークと十分に渡り合っていた。

 この映画に本当の意味でのヒロインは存在しない。ジョキの元恋人ゾエを演じたビパーシャー・バスがもっともヒロインの位置に近いが、悪役ビスケットの情婦となってしまっており、終盤には殺されてしまう。ロリーの幼馴染みタニーを演じたアナイター・ナーイルや、ヴィシュヌの亡き妻を演じたヴィディヤー・バーランは出番がほとんどない。密通者ラーネーを演じたゴーヴィンド・ナームデーオや、ビスケットを演じたアーディティヤ・パンチョーリーは好演だった。

 「Dum Maaro Dum」は音楽が印象的。作曲はプリータム。その素晴らしさの大部分は「Mit Jaaye Gham [Dum Maaro Dum]」で繰り返される不安定なリフに依っている。この曲は「Hare Rama Hare Krishna」(1971年)中の挿入歌「Dum Maro Dum」のリミックスで、このリフはその中でも出て来るのだが、ミディヴァル・パンディトの手によって、映画の顔とも言うべきメロディーに生まれ変わっている。この曲は終盤のゴーカルナ・レイヴ・パーティーで使用され、ディーピカー・パードゥコーンがアイテムガール出演して挑発的なダンスを踊る。また、「Thayn Thayn」ではアビシェーク・バッチャンが歌声を披露している。

 言語は基本的にヒンディー語であるが、ゴア州の言語であるコーンカニー語のエッセンスが混じっているようで、何を言っているかはっきり理解出来ない部分がいくつかあった。聞くところによるとゴアのスラングが随所で使われているらしい。他に珍しいところではロシア語の台詞もあった。ゴアはロシア人の人気バカンス先となっており、映画中でも外国人の中で特にロシア人のプレゼンスが高かった。

 ところで、「Dum Maar Dum」の中で、「ゴアでは酒は安いが、女はもっと安い」という台詞があり、公開前にゴアにおいて物議を醸していた。直前になってこの台詞は「酒は安いが、人間関係はもっと安い」と置き換えられた。

 劇中にカルナータカ州ゴーカルナという地名が出て来るが、ここは最近ゴアに代って浮上して来たビーチのひとつである。カルナータカ州沿岸部にはゴーカルナの他にも無名の極上ビーチが点在しており、穴場となっている。

 「Dum Maaro Dum」は、ドラッグが蔓延するゴアを舞台にしたスリラー映画であり、格好いい映像と音楽、そしてサプライズのある脚本のおかげで、楽しめる娯楽映画となっている。特別出演まで含めればキャストも豪華。観て損はない。