Tezz

4.0
Tezz
「Tezz」

 「Hera Pheri」(2000年)や「Malamaal Weekly」(2006年)など、ハチャメチャ・コメディー映画を得意とするプリヤダルシャン監督であるが、コメディー以外にも様々なジャンルの映画を作っており、非常に多作でバラエティーに富んだ才能を持っている。2005年にはコメディー映画「Garam Masala」と悲恋モノ「Kyon Ki…」を同時公開するという離れ業をやってのけたこともある。本日(2012年4月27日)公開の、プリヤダルシャン監督の最新作「Tezz」はアクションスリラー。「Slumdog Millionaire」(2008年)以降、今や国際的に活躍するアニル・カプール、コンスタントにヒット作に出演する脂の乗ったアジャイ・デーヴガン、そしてマラヤーラム語映画の大スター、モーハンラールなどをキャスティングしたマルチスター型の映画で、非常に気合いが入っている。

監督:プリヤダルシャン
制作:ラタン・ジャイン
音楽:サージド・ワージド
歌詞:ジャリース・シェールワーニー、シャッビール・アハマド
衣装:ナヴィーン・シェッティー、シャーヒド・アーミル
出演:アニル・カプール、アジャイ・デーヴガン、ザイド・カーン、サミーラー・レッディー、カンガナー・ラーナーウト、モーハンラール、ボーマン・イーラーニー、ドミニク・パワー、マッリカー・シェーラーワト(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 ロンドン。アーカーシュ・ラーナー(アジャイ・デーヴガン)は、英国生まれのインド系女性ニキータ(カンガナー・ラーナーウト)と駆け落ちの形で寺院結婚をし、会社を興して不法就労者を働かせていた。しかし移民局に捕まり、インドへ強制送還された。

 4年後。アーカーシュはロンドンに戻って来ていた。アーカーシュはかつて雇用していたアーディル(ザイド・カーン)やメーガー(サミーラー・レッディー)と再会する。アーカーシュは自分を強制送還した当局を恨んでおり、ロンドンでテロを企てていた。アーディルとメーガーはそれに協力し、爆薬、携帯電話、航空券手配などを支援していた。

 遂に決行の日が来た。アーディルは前日に貨物列車に爆弾を仕掛け、メーガーはグラスゴー行きの長距離列車に爆弾を仕掛けた。そしてアーカーシュは列車管理室に電話をし、爆弾を仕掛けたことを伝える。グラスゴー行きの列車に仕掛けられた爆弾は、スピードが時速60マイル以下になると爆発するようにセットしてあった。そして本気であることを示すため、貨物列車を爆発させる。そして乗客の身代金として1千万ユーロを要求した。列車管理室の室長サンジャイ・ラーイナー(ボーマン・イーラーニー)や対テロ・コマンドー司令官アルジュン・カンナー(アニル・カプール)は犯人の要求通り身代金を用意する。また、サンジャイの娘や、アーカーシュに爆薬を売った英国人マフィア、ジョー・ジョー(ドミニク・パワー)が偶然、爆弾の仕掛けられた列車に乗っていた。ジョー・ジョーは警察に逮捕されており、警察官シヴァン・メーナン(モーハンラール)が同行していた。

 サンジャイは身代金を渡して乗客の命を救うことを第一に考えていたが、アルジュンは身代金を餌に犯人を逮捕することに全力を挙げていた。アルジュンはアーカーシュの指示通り身代金を届けるが、それを受け取ったメーガーを追跡する。メーガーはバイクに乗って逃亡するが、その途中で事故に遭って死んでしまう。また、アーディルも身元が割れてしまい、逃亡中にアルジュンが撃った銃弾を脚に受けて負傷の身となる。

 アーカーシュはメーガーの死とアーディルの負傷に心を痛めるが、再びサンジャイに電話をし、新たな身代金の受け渡し方法を指示する。今回もアルジュンが受け渡しを担当し、スナイパーや警官を張り込ませる。アーカーシュは単身その金を受け取りに行き、アルジュンを出し抜いて逃亡する。だが、アーディルは警察の急襲を受け、自爆してしまう。また、アーカーシュはサンジャイに連絡し、列車に仕掛けられた爆弾は接続されていないことを伝える。

 アーカーシュは身代金を持ってニキータに会いに行く。アーカーシュとニキータの間には息子も生まれており、彼は初めて息子と対面する。アーカーシュはニキータと息子を連れてインドへ行こうとするが、その前にメーガーとの約束を果たさなければならなかった。メーガーには弟がおり、英国に留学していたが、突然目の病気にかかり、至急手術が必要となっていた。アーカーシュはメーガーの弟が入院する病院へ行き、その手術代を支払う。しかしそこには既にアルジュンも来ており、メーガーの弟からアーカーシュの情報を引き出してしまっていた。身元が割れたアーカーシュは、空路英国を脱出することが難しくなり、鉄道での脱出を図る。ところがアルジュンが既にニキータと話を付けて駅で待ち構えていた。ニキータはアーカーシュを助けようとするが、彼はアルジュンに見つかってしまう。一時はアーカーシュがアルジュンを征し、彼に理不尽な世の中の不平をぶちまけるが、後から突入した警官によってアーカーシュは射殺されてしまう。

 ここのところ「Don 2」(2011年)、「Players」(2012年)、「Agent Vinod」(2012年)とアクションスリラーが続くが、その中ではもっとも良い出来の映画だった。時速60マイルを下回ると爆発する爆弾が仕掛けられた列車を巡る攻防が映画の核であり、それは日本映画「新幹線大爆破」(1975年)やハリウッド映画「スピード」(1994年)を彷彿とさせるが、脚本はオリジナルであり、キャストが豪華だったこと、スタントシーンに才能あるコーディネーターを起用したことなどから、一級の娯楽作品となっていた。ただ、そのメッセージには疑問を感じた。

 また、映画のテーマは英国におけるインド人移民の問題である。主人公アーカーシュは、インド系英国人女性と結婚したものの、彼女の父親に反対されたために公式な手続きを踏んでおらず、寺院で結婚式を挙げた。しかし英国の法律ではそれは結婚とは認められず、彼は不法滞在、不法就労とみなされてしまった。また、アーカーシュは英国に来たものの金に困窮するインド人に仕事を与え、経済的に支援していたが、それも英国の法律上では不法就労であった。アーカーシュは妻と引き離され、本国に強制送還されてしまう。これが映画本編の4年前の出来事で、何とかして英国に戻って来たアーカーシュはテロを決行して英国当局に復讐することを決めたのだった。

 アーカーシュの主張としては、少なくとも4年前の時点では、間違ったことはしていないし、人道的に正しいことをしている、とのことであるが、一般的な日本人の目からするとそれはさすがに屁理屈に感じるであろう。あくまでアーカーシュたちは英国にとって外国人であり、もし英国に住みたいのならば英国の法律に従うべきである。しかも強制送還されたからと言って、監視の目をくぐり抜けて舞い戻り、テロを行うというのは非常に恐ろしいプロットだ。プリヤダルシャン監督はこの映画のこのキャラクターのこの主張から世界に何を訴えたいのか、非常に疑問であった。ただ、この点はそこまで強調されていなかったので、映画全体の質に響くことはあまりないと言える。

 それに対比する存在として描かれていたのがアルジュンである。インド系でありながら対テロ・コマンドーの司令官を務め、社会的に非常に信頼される立場にいた。退職の日にちょうどこのテロが発生し、職務に引き戻される。アルジュンは仕事に忠実な人物であるが、犯人がインド系であることが分かるとさらに使命感を強める。一人のインド人がこのような事件を起こすことで、インド系コミュニティー全体が不利益を被るからであり、この事件を解決するのはインド系である自分でなければならないという強い信念があった。最後にはアーカーシュへの同情も心の中に生まれるが、それを表明する前にアーカーシュは射殺されてしまう。

 このように、舞台は英国でありながら、結局インド人同士のドラマとなっている。登場人物のほとんどはインド人で、あたかも道を歩けばインド人に当たるかのごときインド人連鎖が起こって行く。確かにロンドンにはインド人が非常に多いようだが、さすがにここまで綺麗にインド人コンボが続くと、話が出来すぎだと思ってしまう。インドを舞台に作っていればこの辺りの弱点は完全に消え去ったのだが。

 しかしながらアクションシーンは非常に素晴らしかった。インターミッション直前、サミーラー・レッディー演じるメーガーを中心としたバイクチェイスシーンと、後半、ザイド・カーン演じるアーディルを中心とした足でのランニングチェイスシーンは、あまりにスタントが行き過ぎていた嫌いもあったが、手に汗握った。これらは「ボーン・アイデンティティー」(2002年)や「ナショナル・トレジャー リンカーン暗殺者の日記」(2007年)などで知られるハリウッドのスタントコーディネーター、ガレス・ミルネとピーター・ペドレロが担当しており、確かにハイレベルなアクションであった。はっきり言って「走り続けなければならない列車」からはほとんど緊迫感が感じられなかったのだが、これらのアクションシーンのおかげで「早い」という意味の題名の映画「Tezz」は面目躍如となっていた。

 アニル・カプールとアジャイ・デーヴガンは一歩も譲らぬハードボイルドな演技。それに加えてボーマン・イーラーニーも渋い存在感を醸し出しており、キャストの面ではこの3人が映画を支えた。ザイド・カーンやサミーラー・レッディーもそれなりに貢献していた。演技力では抜群のカンガナー・ラーナーウトは意外に出番が少なかったが、クライマックスにおいて見せ場があり、強い印象を残していた。さらに出番が少なかったのはモーハンラールで、ほとんどカメオ出演の域であった。後はマッリカー・シェーラーワトがアイテムナンバー「Laila」でダンスを踊っていたのが特筆すべきである。

 音楽はサージド・ワージド。全体的におふざけなしのハードボイルドな雰囲気で、楽曲をストーリーに組み込みにくい作品だったのだが、前述の「Laila」やバラード「Tere Bina」など、いくつか巧みに映画に溶け込んでいた。突出した曲はないが、映画の雰囲気を損なってはいなかった。

 ここ半年ほどヒンディー語映画界ではアクションスリラー映画が続いているが、プリヤダルシャン監督の「Tezz」はその中でももっとも完成度の高い娯楽作品。ロンドンを舞台に、インド人のテロリストとインド系の警察官の間の攻防が繰り広げられる。テロリストの動機にいまいち共感できない部分もあるのだが、ハリウッドの人材を活用したアクションシーンがいくつかあり、退屈しない展開となっている。


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