Pappu Can’t Dance Saala

3.5
Pappu Can't Dance Saala
「Pappu Can’t Dance Saala」

 「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)という映画に「Pappu Can’t Dance Saala」というノリノリのダンスナンバーがあったが、2011年12月16日公開のヒンディー語映画「Pappu Can’t Dance Saala」の題名はその曲から取られている。「パップーは踊れない、この野郎」という意味である。「パップー」というのはインド人によく付けられるあだ名のひとつで、日本語にすると「おぼっちゃん」みたいな響きがある。ちなみに、映画「Pappu Can’t Dance Saala」は「Jaane Tu… Ya Jaane Na」とは全く関係がない。

 監督はサウラブ・シュクラー。普段は曲者俳優としてヒンディー語映画を賑わせているが、脚本家でもあり、時々監督もしている。キャストは、ヴィナイ・パータク、ネーハー・ドゥーピヤー、ラジャト・カプール、ナスィールッディーン・シャー、サンジャイ・ミシュラー、ブリジェーンドラ・カーラーなどで、シュクラー監督がカメオ出演している。

 公開当時はインド在住だったがこの映画は見逃していた。2023年6月9日に鑑賞し、このレビューを書いている。

 ヴァーラーナスィー出身のヴィディヤダル・アーチャーリヤ(ヴィナイ・パータク)は稼ぎのいい職を求めてムンバイーに出て来て、医薬品のセールスマンをしていた。ヴィディヤダルは、売上税局の職員向けの住宅団地に住むことになった。本当は違法だったが、物価の高いムンバイーでこれほど安く住める物件はなかったため、そこに決めたのだった。時々監査が入るが、そのときは協力的な警備員が知らせてくれるので、家を留守にして屋上に逃げていればよかった。

 ヴィディヤダルの部屋の前の部屋にメヘク・マールヴァデー(ネーハー・ドゥーピヤー)というダンサーが住み始めた。メヘクも税務局員ではなく、違法居住者であった。メヘクは大量の友人を呼んで夜中までパーティーをするようなタイプの女性で、ヴィディヤダルは彼女の傍若無人な振るまいに立腹する。ところがメヘクは運悪く監査員に見つかってしまい家を追い出されてしまう。そこでメヘクはヴィディヤダルの部屋に転がり込んでくる。

 ヴィディヤダルにとっては大迷惑だったが、一緒に住むうちに二人は心を通わせ合うようになる。メヘクはミュージックビデオの主役としてデビューし、一躍スターになる。ヴィディヤダルが厚意から彼女の晴れ姿を彼女の父親に見せるため、故郷コーラープルから呼び寄せる。だが、父親はダンサーになったメヘクを拒絶した。ショックを受けたメヘクはヴィディヤダルの勝手な行動に腹を立て、彼と絶交する。メヘクはヴィディヤダルの家を出て行き、ヴィディヤダルもヴァーラーナスィーに戻ることを決意する。

 ヴァーラーナスィーに戻ったヴィディヤダルは事あるごとにメヘクのことを思い出すようになった。叔父(ナスィールッディーン・シャー)から助言を受けた彼はメヘクへの愛情を再確認し、ムンバイーに戻る。そしてメヘクに告白をする。

 主演のヴィナイ・パータクは、「Bheja Fry」(2007年)の天然ボケ演技が大いに受けて有名になり、「Rab Ne Bana Di Jodi」(2008年)などのヒット映画に恵まれたことで地固めができた俳優だ。幅広い演技のできる俳優ではあるが、「Bheja Fry」の印象が強く、その後も同じような役で起用されることが多い。今回の「Pappu Can’t Dance Saala」でヴィナイが演じたヴィディヤダルは、ヴァーラーナスィー出身の古風なインド人というキャラであり、彼の過去作では「Chalo Dilli」(2011年/邦題:デリーに行こう!)がもっとも近い。「Chalo Dilli」で彼が演じたマヌは、オールドデリー出身の下町人情溢れる人物であった。また、そんなマヌが、ひょんなことからラーラー・ダッター演じるキャリアウーマンと一緒に旅をすることになるのだが、そんな設定も共通している。

 一方のネーハー・ドゥーピヤーは、ミス・インディアから女優に転身したものの、「Julie」(2004年)などでセクシーな役柄が定着してしまったことで、やはり同じような役を宛がわれることが多くなった人物だ。今回彼女が演じたメヘクは、スターになるのを夢見てダンスの練習をし、夜な夜な友人たちとパーティーをしているような派手な現代的女性であり、今までの彼女のイメージとそう遠くない。ただ、それだからこそ、そんな役がとてもはまっていた。彼女以外に適役はいないのではないかというくらいのはまり役だ。

 つまり、「Pappu Can’t Dance Saala」では、ヴィナイとネーハーがそれぞれ今までのキャリアの中で確立したキャラを演じ、そして共演している。そういう意味では安定感があり、すんなりと物語の世界に入り込むことができた。

 ただ、ストーリーはほとんど予想通りに進み、意外性は少ない。正反対の性格をしているヴィディヤダルとメヘクがひょんなことから同居し始め、恋に落ちる。インド映画らしく、二人の関係の進展に下品な要素はなく、普通は有り得ないような事態が、多少の口げんかはあるものの、かなり平和に接近していく。そんなところに好感が持てた。

 ヴィディヤダルもメヘクもムンバイー出身ではなく、経済的には中産階級に属する点は興味深い。ヴィディヤダルは古都ヴァーラーナスィーからムンバイーに出稼ぎにやって来た。ヴァーラーナスィーの人間は一般的に自分の出身地に並々ならぬプライドを抱いている。だから彼はムンバイーで事あるごとにヴァーラーナスィーを引き合いに出し、ムンバイーの欠点をあげつらう。一方、メヘクの出身地はコーラープルだが、スターを夢見て家出をして来ていた。彼女は初めは田舎娘だったはずだが、おそらくすぐにムンバイーの若者文化を全身で受け入れ、刹那的な生活を送る。どちらもいかにもいそうなキャラである。

 さらに、ムンバイーを経験した田舎者の二人が急にルーツに引き戻される場面も用意されている。メヘクは、ダンサーになった自分を父親から受け入れてもらえなかった。コーラープルのような田舎町ではダンサーという職業は良家の女性が就くようなものではなかったからであり、父親は今でもその価値観から抜け出せていなかった。ヴァーラーナスィーに戻ったヴィディヤダルは、ムンバイーについてあれこれ好き勝手なことを口走る両親たちに辟易する。しかも勝手にお見合いの話を進められる。ヴィディヤダルはいつの間にかムンバイー贔屓になっており、両親たちの前でムンバイーを擁護する。

 ラジャト・カプールが演じる監督が意外にいい奴だったのは意外だった。てっきり彼はメヘクを手込めにしようとしているのかと思ったが、実は彼女のことをかなり親身になって考えており、彼女とヴィディヤダルの関係もいち早く理解し、後押しした。

 総じて「Pappu Can’t Dance Saala」は、田舎からムンバイーに出て来たお上りさんの視点から、ムンバイーを非常に肯定的に映し出した映画だと感じた。大きなサプライズはないものの、俳優たちがイメージ通りの役柄を演じ、分かりやすいストーリーラインがなぞられ、鑑賞している間、安定した時間を過ごすことができる。そんなフィールグッド映画である。


Hindi Full Comedy Movie | Pappu Can't Dance Saala | Neha Dhupia | Vinay Pathak