Shor in the City

3.5

 現在クリケットの国内リーグ、インディアン・プレミアリーグ(IPL)が開催中で、大予算型映画の公開は控えられているが、こういう時期には、小規模ながらも良質な映画がたくさん公開される傾向にあり、映画好きとしてはうかうかしていられない。先週も今週も複数の映画が公開されており、選択に迷う。カラーチーに旅行に行っていたために先週(2011年4月29日)公開の映画は「Chalo Dilli」(2011年)1本しか観られなかったが、どうも「Shor in the City」の評判も上々で、今日は今週公開の映画よりも先にこちらを鑑賞することにした。監督は、ラージ・ニディモールーとクリシュナDKのコンビ。このコンビは過去に「Flavors」(2004年)や「99」(2009年)などを撮っている。TVドラマ界の敏腕プロデューサー、エークター・カプールが母のショーバー・カプールと共にプロデュースしており、弟のトゥシャール・カプールが主演。キャストはくせ者揃いである。

監督:ラージ・ニディモールー、クリシュナDK
制作:エークター・カプール、ショーバー・カプール
音楽:サチン・ジガル、ハルピート
歌詞:サミール、プリヤー・パンチャール
出演:トゥシャール・カプール、センディル・ラーマムールティ、プリーティ・デーサーイー、ピトーバーシュ・トリパーティー、ニキル・ドイヴェーディー、ラーディカー・アープテー、サンディープ・キシャン、ギリジャー・オーク、ザーキル・フサイン、アミト・ミストリー
備考:DTスター・プロムナード・ヴァサントクンジで鑑賞。

 ムンバイー、ガネーシュ・チャトルティー祭の頃。ティラク(トゥシャール・カプール)は書籍の海賊版を売って生計を立てる出版業者であった。親友でチンピラのマンドゥーク(ピトーバーシュ・トリパーティー)とラメーシュ(ニキル・ドイヴェーディー)はティラクの商売を助けていた。ティラクは既婚で、サプナー(ラーディカー・アープテー)という妻がいた。

 アバイ(センディル・ラーマムールティ)は米国帰りのNRIで、インドでビジネスを始めようとしていた。だが、早速地元のマフィア、プレーマル(ザーキル・フサイン)からみかじめ料を求められ困っていた。アバイは偶然出会ったモデルのシャルミラー(プリーティ・デーサーイー)と恋仲となったが、マフィアはシャルミラーに危害を加えることをちらつかす。とうとうアバイはプレーマルにみかじめ料として100万ルピーを支払うことになる。

 サーワン(サンディープ・キシャン)はクリケット選手になることを夢見ていたが、なかなかセレクションに合格できなかった。恋人のセージャル(ギリジャー・オーク)は両親から結婚を強要されており、連日お見合いをさせられていた。セージャルは、サーワンがプロのクリケット選手になったときに両親に紹介しようと考えていたが、もはや時間がなかった。サーワンも成功を焦るようになり、スカウトに賄賂を渡すことを考える。だが、100万ルピーを要求される。サーワンは銀行に行ったり姉に相談したりするが、そんな大金はすぐにはどこからも手に入りそうになかった。

 あるときマンドゥークとラメーシュが置き引きをして来たバッグの中に、自動小銃、拳銃、爆弾などが入っていた。ティラク、マンドゥーク、ラメーシュは、マフィアのティープー(アミト・ミストリー)に相談する。ティープーはそれらの武器の買い手を探し始める。

 アバイはマフィアにみかじめ料を払ってしまったことを後悔し、プレーマルらに対して復讐を考え出す。アバイはティープーと会い、拳銃と弾丸を購入する。

 サーワンは近所の銀行に、警備員が留守になる時間帯があることを知っており、100万ルピーを手に入れるために銀行強盗を思い付く。サーワンはティープーに相談するが、ティープーはそれを断る。だが、ティープーはその情報に基づき、ティラク、マンドゥーク、ラメーシュを使って、自分たちで銀行強盗をしようとする。ティラクは読書に没頭してしまい、最初はなかなか首を縦に振らないが、最終的には銀行強盗に荷担することになる。

 ガネーシュ・チャトルティー祭の最終日。ティープー、ティラク、マンドゥーク、ラメーシュの4人はサーワンの家の近所の銀行に武装して押し入る。だが、ちょうどマネージャーがおらず、金庫を開けられなかった。四人はマネージャーが帰って来るのを待つ。マネージャーが帰って来て、四人は金庫から大金を盗み出すが、そこへ警備員が帰って来てしまう。両者の発砲によりティラクと警備員が被弾する。ティープーは既に警察が来ることを察知して逃げ出しており、ティラクが死んだと思ったマンドゥークとラメーシュも逃げ出す。また、銃撃を聞いて銀行にやって来たサーワンは、強盗らが持ち出そうとして落として行った金から必要な量を懐に入れる。

 銀行には警察が来て現場検証を始める。このときティラクは気絶して死体のように横たわっていたが、銀行内にちょうど誰もいなくなった頃に目が覚め、そのまま警察に気付かれずに外に出る。

 一方、アバイはプレーマルの隠れ家に押し入り、奪われた100万ルピーを奪い返すと共に、プレーマルらマフィアを一掃する。そして海に拳銃を投げ捨てる。

 サーワンは100万ルピーを持ってスカウトのところへ行く。だが、寸前で賄賂を渡すことをやめ、実力でプロのクリケット選手になることを決める。セージャルも母親に今は結婚したくないことをはっきりと明かす。

 象頭の神ガネーシュの生誕を祝うガネーシュ・チャトルティー祭はマハーラーシュトラ州に特有の祭りで、ムンバイーがもっともカオスとなる時期である。その時期のムンバイーを舞台に、主に3人の主人公がムンバイーのインフォーマルなシステムの中にはまり込んで行く様子を描いたドラマであった。それぞれの出来事は新聞に掲載された実際の事件からインスピレーションを得て再構成されたと言う。映画の中には、書籍を不法に印刷して道端で売るビジネス、弱小の実業家からみかじめ料を徴収するマフィア、銃器爆薬の密売、銀行強盗、クリケット業界の腐敗などが散りばめられており、ムンバイーを下から赤裸々に映し出した作品になっていた。

 複数の登場人物によるショートストーリーが同時進行する、いわゆるグランド・ホテル式映画では、脚本の整理が出来ていないと分かりにくいストーリーになってしまう。だが、「Shor in the City」では鑑賞中に混乱することはなく、深く考えなくてもストーリーを追うことが出来た。それだけでも大したものだと感じる。それに加えて監督は「間」を心得ており、絶妙な間が取られたシーンがいくつもあった。特にティラク、マンドゥーク、ラメーシュの三人が郊外で爆弾を爆発させるシーンは良かった。なかなか爆発しない爆弾、それにビクビクする三人。だがいざ爆発するとなったときに、たまたま通りすがった子供が爆弾を拾ってしまい、一気に緊迫感のあるシーンとなる。他にも、騒がしいコメディーシーンではないのだが、ボディーブローのように後から利いて来る笑いが随所に散りばめられており、そして単に笑いだけでなく、その後のストーリーにつながって行くような、無駄のない構成がされていた。

 この映画の最大の見所は個々の俳優の鬼気迫る演技である。特にマン・オブ・ザ・フィルムはマンドゥークを演じたピトーバーシュ・トリパーティーだ。いかにもトラブルメーカーと言った外観に、チャラチャラした言動。そしてやっぱり彼のドジのせいで周囲の人々はいらぬトラブルに巻き込まれる。ストーリーの原動力であり、笑いの中心であった。今後も個性派俳優として伸びて行く可能性大である。

 トゥシャール・カプールもいつになく良かった。僕などは彼のことを「ヒンディー語映画界ののび太君」と呼んでいたのだが、「Shor in the City」の演技は今までのイメージを覆す硬派なもので、文句なくキャリア中ベストである。最近は「Golmaal」シリーズにおける唖キャラが彼の名刺のようになってしまっているが、もっと幅広い演技が出来る俳優であることをこの作品で証明したと言える。

 シャルミラーを演じたプリーティ・デーサーイーはインド系英国人で、2006年のミス・グレートブリテンである。有色人種として初めてこの栄冠に輝いたようで、本作がヒンディー語映画デビュー作となる。その相手役を務めたセンディル・ラーマムールティはインド系米国人俳優で、「It’s a Wonderful Afterlife」(2010年)に出演していた。きれいな米国英語を話し、NRI役は適役であった。

 他にもなかなか渋いキャスティングで、「Rakht Charitra」(2010年)に出演していた女優ラーディカー・アープテー、インド主要3言語(ヒンディー語、テルグ語、タミル語)の映画界で活躍する若手男優サンディープ・キシャン、そしてザーキル・フサインやアミト・ミストリーと言ったくせ者俳優など、皆いい演技を見せていた。

 音楽はサチン・ジガルとハルピート。ハルピート作曲の「Deem Deem」は軽快なビートの曲でムンバイーの雰囲気をよく表わしている。映画自体は風刺の効いたドライな作品なのだが、音楽は意外にソフトなものが多く、あまり印象に残らない。それでも、バラードの「Saibo」などが名曲と言える。

 「Shor in the City」は、しっかりした脚本と個性的な演技に彩られた佳作。ムンバイーのあまりきれいでない部分を映し出す犯罪映画なのだが、見終わった後には不思議な爽快感がある。どこか祭りが終わった後の翌日の雰囲気に似ている。メッセージ性のある映画ではないが、決して鑑賞中の2時間は無駄にはならない。