Dostana

4.0

 11月中旬は日本に一時帰国していたが、その間にいくつか重要なヒンディー語映画が公開された。なるべく見逃さないようにひとつずつ観て行く予定である。帰国後すぐに観ることにしたのは2008年11月14日公開の「Dostana」。ヒンディー語映画界のカリスマ的映画監督カラン・ジョーハルがプロデュースした、ゲイをテーマにしたコメディー映画である。

監督:タルン・マンスカーニー
制作:ヒールー・ヤシュ・ジョーハル、カラン・ジョーハル
音楽:ヴィシャール・シェーカル
歌詞:アンヴィター・ダット・グプタン、ヴィシャール・ダードラーニー、クマール
振付:ヴァイバヴィー・マーチャント、ファラー・カーン
出演:アビシェーク・バッチャン、ジョン・アブラハム、プリヤンカー・チョープラー、ボビー・デーオール、スシュミター・ムカルジー、キラン・ケール、ボーマン・イーラーニー、シルパー・シェッティー(特別出演)
備考:PVRプリヤーで鑑賞。

 舞台はアメリカ合衆国フロリダ州マイアミのビーチ。ロンドン生まれのサミール(アビシェーク・バッチャン)は、マイアミの病院で看護師をしていた。また、不法滞在中のクナール(ジョン・アブラハム)はファッション写真家をして生計を立てていた。二人とも大のプレイボーイで、度々顔を合わすことになるが、最初は特にお互い気にしていなかった。しかし、二人とも新居を探していることが分かると、ある作戦が浮上する。

 二人は高級マンションの一室に空き部屋を見つけており、是非ともそこに住みたいと思っていた。しかし、部屋の大家(スシュミター・ムカルジー)は女性の入居者しか認めていなかった。そこで二人はゲイ・カップルだということにし、無害で、しかもいざとなったら心強いガードマンになることを売りにアピールする。大家も考え直し、二人の入居を認める。しかし、そこに一緒に住むのはその大家ではなく、彼女の姪のネーハー(プリヤンカー・チョープラー)であった。ネーハーはファッション雑誌で編集の仕事をしていた。

 ネーハーは極上の美人で、二人は一瞬にして恋に落ちる。だが、ゲイだと自称して入居したからにはなかなか本当のことを切り出せなかった。また、住所登録のために移民局を訪れるが、そこでゲイ・カップル用の申請窓口があり、ゲイは優遇されていることを知ってクナールは大喜びする。彼は不法滞在中であったが、ゲイであることにすればすぐに滞在許可が出ることが分かったからである。

 だが、ロンドンに住むサミールの母親スィーマー(キラン・ケール)は、息子がゲイであると知って驚き、マイアミまで押しかけて来る。また、移民局のオフィサーも二人が本当にゲイであるか確かめに来るが、実際は彼自身がゲイで、2人に気があったのであった。さらに、ネーハーの上司でゲイのM(ボーマン・イーラーニー)まで家にやって来る。彼らの家は大混乱に陥るが、特に騒動の原因となったのはスィーマーであった。だが、ネーハーの説得によって考え直したスィーマーは、サミールとクナールの仲を認める。次第に2人のゲイと1人の女の子の奇妙な同居生活が軌道に乗って行き、三人の間で友情が芽生え始める。

 その頃、ネーハーの上司Mはライバル雑誌にヘッドハンティングされてしまい、その後釜としてアビマンニュ(ボビー・デーオール)という青年が編集長の座に就く。ネーハーは自分が編集長になれると思い込んでいたため、アビマンニュに敵対心を燃やすが、アビマンニュは彼女の才能を引き出し、成功を褒め称える。その中でネーハーはアビマンニュに恋するようになる。

 ネーハーにアビマンニュという恋人ができたことに危機感を募らせたサミールとクナールは、何とか2人の仲を裂こうとする。アビマンニュの最大の弱点は息子であった。彼は前妻と死別しており、5歳の息子と同居していた。二人は息子に継母の恐ろしさを吹き込む。アビマンニュはネーハーにプロポーズしようとするが、息子の反対を受けてそれを諦める。また、ネーハーはこのとき、サミールとクナールが本当はゲイではないこと、そして二人が彼女に恋していることを知って大きなショックを受ける。

 サミールとクナールは家を追い出されることになった。二人は、てっきりアビマンニュとネーハーが婚約したと思い込んでいたが、アビマンニュが息子の反対を理由にプロポーズしなかったことを知って、自分たちの行為のせいだと悟る。そこでアビマンニュとネーハーに許しを乞いに行く。アビマンニュは条件として、公衆の面前でキスをするように言う。サミールとクナールは顔をしかめるが、思い切って二人はキスをする。それを見てネーハーはサミールとクナールに駆け寄り、抱き合う。三人の友情はこのとき再び復活したのであった。

 インドでは同性愛は犯罪である。インド刑法(IPC)第377条に、自然に反する性交を行った者は、最高で無期懲役に処せられると明記されている。この法律は英領インド時代の1860年に起草されたものであるが、現在までそのままの形で残存しており、最近では物議を醸してもいる。同性愛者に対する軽蔑の念もインドでは非常に強い。それでもインドに同性愛者は存在し、デリーやムンバイーのような大都市では、同性愛者が集まるスポットというものも時々耳にする。ヒンディー語映画も時代の変遷を敏感に察知し、同性愛を映画のテーマに巧みに織り込んで来た。もっとも有名なのは、2004年に公開された「Girlfriend」である。この映画ではレズビアンが主人公になっており、当時は大きな問題になったものだった。あれから4年、今度は男性同士のホモセクシャリティーをテーマにした映画が公開された。プロデューサーのカラン・ジョーハル自身がゲイなのではないかと思うが、とりあえずそれは置いておいて、映画の内容を吟味して行こう。

 予告編を見た段階では、主演の男優2人がゲイで、彼らの人生に一人の美女が入り込んだことがきっかけで二人がストレートに目覚めてしまうというストーリーを予想していたのだが、実際は二人がゲイではなく、ヒロインと同居するためにゲイだと偽っただけであった。よって、正確には「Dostana」はゲイを主人公とした映画ではなく、ゲイではない男たちがひょんなことからゲイということになってしまった状況を笑うコメディーになっている。しかし、偽りから生まれた三人の友情ではあったものの、最後にはそれが本当に男女の垣根を越えた友情に昇華されており、それが映画の真のテーマになっていた。よって、「Dostana」は、同性愛を真っ向から扱った「Girlfriend」と比べるよりも、男女間の純粋な友情は可能かどうかという命題に触れた「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)に近いテーマを持った映画だと言える。

 それでも、「Dostana」中には本当のゲイ役も登場し、同性愛というタブーに触れた映画であることには変わりがない。カラン・ジョーハル監督は「Kabhi Alvida Naa Kehna」(2006年)で結婚後の恋愛の成就という、インド映画が今まで避けて通って来た結末を用意し、インドの保守的な観客層からそっぽを向かれたが、今回はよりソフトなタブーに無難な方法で挑戦したと言える。評判は上々のようで、既にヒット作と記録されている。

 さらに、ゲイをテーマにしたコメディーの他、「Kuch Kuch Hota Hai」(1998年)、「Kabhi Khushi Kabhie Gham」(2001年)、「Taare Zameen Par」(2007年)など、過去のヒット作のパロディーもあり、ヒンディー語映画ファンは特に存分に楽しめる映画となっていた。

 主演のアビシェーク・バッチャン、ジョン・アブラハム、プリヤンカー・チョープラーは、スクリーン上での相性も良く、映画をいい方向へ持って行っていた。三人とも最近少し下降気味であったが、この映画のヒットでひとまずキャリアを安定させたと言っていいだろう。特筆すべきはジョンの肉体であろう。ますますムキムキになっており、しかもカメラが彼の肉体を最大限に強調していた。もちろんプリヤンカーのセクシーショットも多かったのだが、ゲイ観客にアピールすることを少し念頭に置いているのではないかと感じた。映画のクライマックスではアビシェークとジョンのキスシーンもあるが、インド映画伝統のキスシーン・テクニック(本当にキスしていなくてもキスしているように見える撮影技術)が使われており、二人が本当にキスしているかは不明である。

 主演以外では、ボビー・デーオールが重要な脇役として登場し、シルパー・シェッティーが冒頭のダンスシーン「Shut Up & Bounce」でアイテムガール出演していたのが特筆すべきであろう。名脇役俳優に数えられるボーマン・イーラーニーやキラン・ケールは、今回は一瞬のみの出演であった。むしろ、ヒロインの叔母を演じたスシュミター・ムカルジーの方が目立っていた。

 音楽はヴィシャール・シェーカル。アップテンポのダンスナンバーが多い。主演の3人が踊る「Desi Girl」、シルパー・シェッティーのアイテムナンバー「Shut Up & Bounce」などがいい。

 「Dostana」は、ゲイをテーマにした映画ではあるが、題名通り、真のテーマは友情であり、しかもそれは男女間の友情である。ライトなノリのコメディーに仕上がっており、誰でも気軽に楽しめるだろう。