Jai Santoshi Maa

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Jai Santoshi Maa
「Jai Santoshi Maa」

 1975年に公開された「Jai Santoshi Maa」は、インド映画史の中で非常にミステリアスな現象を引き起こした作品として知られている。インドには、神話を題材とした映画を作る伝統がある。そもそも最初期のインド映画は、「Raja Harishchandra」(1913年)や「Kaliya Mardan」(1919年)などを含め、神話映画ばかりであった。次第に題材の主流は現代社会へと向いて行ったが、コンスタントに神話映画は作られ続けている。最近では、ハヌマーンを題材としたアニメーション映画「Hanuman」(2005年)が記憶に新しい。サントーシー女神の強力な現世利益の力を題材とした「Jai Santoshi Maa」も、社会映画的要素も盛り込まれていた点で多少特異であったが、その神話映画の伝統の延長線上にある映画であった。同映画は低予算ながら大ヒットし、社会現象を巻き起こした。この映画の影響により、インド全国にサントーシー女神を祀る寺院が建造され、映画中で「金曜日の断食を16週間続ければ、サントーシー女神の恩恵を受けられる」とされたため、金曜日はサントーシー女神の日とされるようになった。だが、面白いのは、「Jai Santoshi Maa」が公開される前まで、サントーシー女神なる女神は全く存在しなかったか、存在していたとしても非常にマイナーな女神であったことだ。同映画でサントーシー女神役を演じたアニター・グハーもインタビューの中で、「この役のオファーを受けるまで、サントーシー女神なんて聞いたこともなかった」と語っている。また、ヒンドゥー教では、月曜日はシヴァの日、火曜日はハヌマーンの日など、週によって神様が割り当てられているが、同映画が公開されるまで金曜日は空白の日だったと言われる。よって、サントーシー女神は、しばしば「映画が生み出した女神」と言われている。

 30年の月日を越え、その伝説的「Jai Santoshi Maa」のリメイク映画が2006年9月29日に公開された。女神と非常に関わりの深い、ドゥルガープージャーの直前、ナヴラートリー期間中に封切られたのは、制作者の狙い通りと言ったところであろう。今日、PVRナーラーイナーで観た。監督はアハマド・スィッディキー、音楽はアヌ・マリク。キャストはマイナーな俳優ばかりで、ヌスラト・バルチャー、ラーケーシュ・バーパト、パラク・マダン、スムリティー・カウシクなど。

 TV局に勤めるプリーティは、夫から離婚を言い渡されており、安穏でない生活を送っていたが、上司からの命令で、サントーシー女神の加護により子供を授かった女性ウマーを訪ね、農村を訪ねることになる。ウマーは彼女に、マヒマーとサントーシー女神の物語を聞かせる。

 マヒマー(ヌスラト・バルチャー)は、音楽家の父と、サントーシー女神の敬虔な信者である母親と共に住む普通の女の子であった。マヒマーには、シンガーを目指すアヌラーグ(ラーケーシュ・バーパト)というボーイフレンドがいた。アヌラーグの父親と二人の兄は、町で電器屋を営んでいた。母親のシャーンティと兄嫁たちは、アヌラーグを大富豪の娘と結婚させて、多額のダウリー(持参金)を獲得しようと目論んでいたが、アヌラーグとマヒマーの仲睦まじさを知っていた父親は、家族に黙って二人を結婚させる。嫁として家にやって来たマヒマーは、シャーンティや兄嫁たちから執拗な嫌がらせを受けるようになる。だが、マヒマーはサントーシー女神をひたすら信じ、そのいじめに耐え抜く。サントーシー女神も、度々化身として現れてはマヒマーを救っていた。

 仕事を手伝うようになったアヌラーグも兄たちからいじめを受けており、泥棒の濡れ衣を着せられる。アヌラーグは、そのお金を返すためにムンバイーへ単身行って職探しを始める。だが、すぐに彼は交通事故に遭ってしまう。アヌラーグをひいたのは、ネーハー(パラク・マダン)という大富豪の娘だった。アヌラーグは退院した後、ネーハーの家に住むようになる。ネーハーは、シンガーになりたいというアヌラーグの夢を叶えてあげようと、人脈を使って音楽会社のオーディションを受けさせる。アヌラーグは見事オーディションに合格し、デビューが決まる。

 一方、家ではアヌラーグの父親が転んで半身不随となってしまっていた。以後、マヒマーに対するいじめはエスカレートするばかりだった。マヒマーはサントーシー女神の加護を得ようと、金曜日の断食を16週間続けることを決める。マヒマーの献身的な看病により、父親も次第に回復して来る。また、今まで彼女をいじめていたシャーンティや兄嫁たちも、いくつかの事件を経て彼女を尊敬するようになる。16週間が過ぎ去る前にアヌラーグも家に帰って来た。こうして、サントーシー女神の恩恵により、バラバラだった家族は結束を取り戻したのだった。サントーシー女神寺院で行われた断食完了の儀式で、サントーシー女神(スムリティー・カウシク)が光臨し、人々の怪我や病をたちまちの内に治してしまった。

 この物語を聞いたプリーティは、サントーシー女神のペンダントと共に家に帰る。すると、夫は離婚を考え直し、仲直りすることを申し出る。サントーシー女神のご利益により、全ての人々が幸せになった。

 低予算大馬鹿宗教映画と言いたいところだが、マヒマーがあまりに純真なことと、周囲の嫁いじめがあまりに酷かったことから、サントーシー女神が全てを解決してくれたときには少しホロリとさせられてしまった。

 基本的には、1975年の「Jai Santoshi Maa」のストーリーを現代風にアレンジしていた。原作にあった、シヴァ、パールワティー、ナーラドなどの神様が総出演して相談し合うシーンなどをカットすることにより、宗教映画色を減らし、社会映画色が強くなるように調節されていたものの、ストーリー自体は1975年のままで止まっており、非常に古めかしく、陳腐で、退屈。カメラワークもTVドラマの域を出ていない。多くの俳優たちの演技もTVドラマっぽかった。TVドラマ界には全く詳しくないのだが、もしかしたらこれらの俳優たちはTVドラマ俳優かもしれない。

 その中で、アヌラーグを演じたラーケーシュ・バーパトは今まで「Dil Vil Pyar Vyar」(2002年)や「Koi Mere Dil Mein Hai」(2005年)などに出演している。だが、映画スターのオーラが全くない男優であった。また、映画中にヒロインと呼べる女優は数人いたが、皆無名の三流女優ばかり。しかもみんな同じような顔と体格をしていたので困った。マヒマーを演じたヌスラト・バルチャーの演技が最もマシであった。

 これほどヒンドゥー色溢れる映画でありながら、監督や多くの俳優がイスラーム教徒であることはかなり驚きである。監督のアハマド・スィッディーキーはこれが監督デビュー作であるが、将来はなさそうだ。

 僕は、「Jai Santoshi Maa」というと、「Yahan Wahan Jahan Tahan Mat Pucho Kahan Kahan Hai Santoshi Maa, Apni Santoshi Maa…」という歌詞の曲をすぐに思い出す。意訳すると、「どこにでもサントーシー女神はいるよ」という意味である。とてもリズミカルな曲で、バジャン(宗教賛歌)と映画音楽の見事な融合だと思う。また、ウシャー・マーンゲーシュカルが歌う「Main To Aarti Utaaroon」も同じくらい有名だ。アヌ・マリクはリメイク版の中でこれらの曲を現代風にアレンジして使っている。しかし、アレンジ曲に往々としてあることだが、原作にあるシンプルさは失われてしまっていた。

 2006年のリメイク版「Jai Santoshi Maa」は、原作に負けず劣らず低予算映画ではあるが、原作と同じような大ヒットは全く期待できない。駄作と言っていい。特別な理由がなければ、見ない方がいいだろう。

 ちなみに、これから年末にかけて、リメイク映画のビッグウェーヴが到来する。先月公開の「Shiva」(未見)から既にこの傾向は始まっており、この「Jai Santoshi Maa」もその一環である。今後、「Don」(2006年)、「Umrao Jaan」(2006年)などが続けて公開される。だが、「Jai Santoshi Maa」の失敗を見ても分かるように、ヒット映画のリメイクというのは非常に難しいものだ。果たしてどうなるであろうか?