No Entry

4.0
No Entry
「No Entry」

 今日は夕方からPVRアヌパム4で、2005年8月26日公開の新作ヒンディー語映画「No Entry」を観た。「No Entry」とは文字通り「入場禁止」という意味。プロデューサーはボニー・カプール、監督はアニース・バズミー、音楽はアヌ・マリク。キャストは、アニル・カプール、サルマーン・カーン、ファルディーン・カーン、イーシャー・デーオール、ビパーシャー・バス、セリナ・ジェートリー、ラーラー・ダッター、ボーマン・イーラーニー、ラザーク・カーンなど。「Musafir」(2004年)のヒロイン、サミーラー・レッディーが特別出演。

 主人公は3人の男。新聞社を経営するキシャン(アニル・カプール)は既婚男性、その部下のサニー(ファルディーン・カーン)は独身男性、そしてキシャンの親友プレーム(サルマーン・カーン)は「既婚の独身」だった。キシャンは浮気ひとつしない真面目な男だったが、その妻カージャル(ラーラー・ダッター)はキシャンのことを愛しすぎるあまり、彼の一挙手一投足を疑ってばかりだった。一方、プレイボーイのプレームの妻プージャー(イーシャー・デーオール)は、プレームのことを信じて疑わない健気な女性だった。また、サニーにはサンジャナー(サリナ・ジェートリー)というガールフレンドがいた。サニーはキシャンの家の離れに居候させてもらっていた。

 プレームはある日、真面目一徹のキシャンに浮気をさせて弱みを握るため、バーの踊り子ボビー(ビパーシャー・バス)に金を渡してキシャンを誘惑させる。最初は頑なに拒否するキシャンも、だんだんボビーの誘惑に負けてくる。カージャルがアジメールに出掛けたのを見計らい、キシャンはボビーをサニーの部屋に呼び込む。ところが、そこへ航空券を家に忘れたカージャルが戻って来てしまう。そのとき、サニーもちょうど部屋に戻って来る。キシャンはとっさに、ボビーはサニーの妻だと紹介する。夫のことをこれ以上疑わないと誓っていたカージャルはそれを信じる。

 勝手にボビーを妻にされたサニーは怒るが、キシャンは、サニーの上司としてサンジャナーの両親に結婚の話をしに行くことを約束して彼をなだめる。キシャンとサニーはサンジャナーの家に行くが、そのときボビーは売春の容疑で警察に捕まりそうになっていた。ボビーは警察に言い訳をするため、一緒にいた男性を弟だと誤魔化し、自分には夫がいると嘘を付く。それを証明するため、ボビーは警察と共にサンジャナーの家に来てしまう。キシャンとサニーは驚くが、今度はキシャンがボビーのことを自分の妻だと嘘を付く羽目になってしまった。

 サニーとサンジャナーの結婚式の日。キシャンはカージャルに内緒で結婚式に参加したが、別の場所で偶然サンジャナーに出会い、仲良くなっていたカージャルも結婚式に来てしまう。キシャンとサニーは必死に誤魔化し、緊急事態になるとキシャンは心臓発作の演技をしてカージャルを連れて病院に逃げ出す。何とかサニーとサンジャナーの結婚式は済んだ。

 病院でキシャンは、気分転換にバカンスへ行くことを勧められ、カージャルと共にモーリシャスへ行く。ところが同じホテルには、サニーとサンジャナーもハネムーンに来ていた。さらに悪いことには、ボビーまでもが愛人と共に同じホテルに来ていた。その場は何とかやり過ごすことができたが、その後、ムンバイーの映画館でまたも6人は鉢合わせしてしまう。カージャルは、サニーの妻がボビーだと思っており、サンジャナーは、キシャンの妻がボビーだと思っている。カージャルとサンジャナーは口論になり、その結果全てがばれてしまう。怒ったカージャルとサンジャナーは、それぞれの夫に離婚届を送り付ける。

 絶体絶命のピンチに陥ったキシャンとサニーは、南アフリカで悠々自適の生活を送っていたプレームに助けを求める。プレームはインドに戻って来ると、カージャルとサンジャナーの前で、ボビーは自分の幼馴染みかつ恋人で、出張中にキシャンとサニーに面倒を見てもらっていたと言い訳をする。ところがそこへ、プレームの妻プージャーが現れ、プレームもピンチに陥ってしまう。カージャル、サンジャナー、プージャーは「法廷で会いましょ」と言い残して去って行く。

 プレームは起死回生を計るため、自殺スポットへ行って自殺の演技をする。そこへキシャン、サニー、カージャル、サンジャナー、プージャーが駆けつけるが、サニーが突進したためにプレームとサニーは崖から落っこちてしまう。何とかプレームは崖の端につかまり、サニーはプレームの右足につかまる。2人を助けようとしたキシャンも崖から落ちてしまい、プレームの左足につかまる。3人の妻たちはロープを持って来て3人を引き上げる。こうして3組のカップルは仲直りしたのだった。

 インド映画も最近はいろんなジャンルの映画が作られるようになってきたが、インド映画の真髄は何と言ってもコメディー映画にあると思う。インド人の多くは、カップルを除き、家族や仲間でワイワイ楽しむために映画館へ行くので、自然とコメディーが最もそれに適したジャンルとなる。だから、どんなに低予算のコメディー映画でも、どんなにしょうもないコメディー映画でも、蓋を開けてみれば意外とヒットしたりする。ヒンディー語のコメディー映画で縦横無尽に笑えるか否かは、ヒンディー語の機微とインディアンジョークをどれだけ理解できるかということに留まらず、インド映画を肌でどれだけ理解できるかを計るひとつの試金石だと言える。

 「No Entry」も、馬鹿馬鹿しいながら優れたコメディー映画であった。この馬鹿馬鹿しさを見て映画を低評価するか、コメディーの切れを見て高評価するかは、人によって分かれるであろうが、僕は非常に高く評価した。敢えて比較するなら、プリヤダルシャン監督の「Hungama」(2003年)や「Hulchul」(2004年)に似た、登場人物の人間関係が複雑に絡み合う、ハチャメチャドタバタ劇コメディー映画だった。ただ、上映時間が丸々3時間ほどある長編コメディー映画だったので、やたら長い印象はあった。それでも、途中でだるけることなく、コンスタントに爆笑させられるコメディー映画である。

 テーマは浮気と不倫。浮気と不倫を司る(?)クリシュナの誕生日を祝うジャナマーシュトミーに合わせて公開されたのには納得。「Masti」(2004年)も同じようなプロットであったが、「No Entry」の方がキャラクターの設定やエンディングなど、うまくまとめられていたと思う。主人公は3人いたが、対照的な性格のキシャンとプレームの不倫ライフの対比が面白かった。キシャンは真面目な性格で、不倫など全くしていなかったが、たった一度出来心で不倫未遂をしてしまったために家庭崩壊の危機に巻き込まれる。その一方で、プレームはたくさんのガールフレンドをはべらし、悠々自適の不倫生活を送っていたが、妻には全くばれなかった。また、キシャンの妻の疑り深さと、プレームの妻の夫に対する信頼の深さも対照的だった。

 こんなシーンがあった。プレームはキシャンに言う。「神様は人間に知恵を与えた。なぜだと思う?頭を使ってばれないように不倫するためさ!」そしてキシャンにボビーを紹介する。ボビーはキシャンに抱きついて挨拶をするが、ドギマギしたキシャンは一目散に逃げ帰ってしまう。家に帰ったキシャンだったが、妻のカージャルに「あら、この香水の匂いは何?いつものと違うんじゃない?」と聞かれ大ピンチに。とっさに「ああ、香水屋やってる友達が試しにって言って僕に無理矢理かけたんだよ」と嘘を付く。するとカージャルは「この香水なかなかいいじゃない。そうそう、ミターイー(お菓子)があるから食べる?」と言って簡単に信じ込んでしまった。それを見たキシャンは、日頃真面目に生きていたときにどれだけ妻に疑われ、叩かれてきたかを思い出し、「正直にものを言ったらピターイー(お仕置き)、嘘を付いたらミターイー」とつぶやき、嘘を付いた方が夫婦仲は円満に行くことを発見する。

 サニーとサンジャナーの出会いの場面も面白かった。新聞記者のサニーは、自殺をテーマにオープンカフェで記事を書いていた。自殺者の遺言を一生懸命考えていたサニーは、没の原稿を放り投げる。それはサンジャナーのところへ落ちる。サンジャナーは、サニーが失恋して自殺を考えていると勘違いし、彼を追いかける。そのときサニーは、自殺者の気持ちを理解するために飛び降り自殺スポットに来ていた。そこには、「愛しのチャンパー、僕は君を抱擁することができなかった、だから死を抱擁するよ。チャンパク」という自殺者の書き置きが書いてあった。それを見たサニーは、チャンパクの気持ちになるために、「チャンパー!チャンパー!」と大声を上げる。そこへ駆けつけたサンジャナーは、慌ててサニーを押してしまい、サニーは崖から落っこちてしまう。何とかサニーは這い上がって来た。それが縁でサニーとサンジャナーは付き合うようになる。

 これ以外にも、モールのシーン、ゲストハウスのシーン、結婚式のシーン、モーリシャスのシーンなど、爆笑シーンが盛りだくさんで飽きなかった。実はボビーは、夫の治療費を稼ぐためにバーで踊ったり売春したりしていたことが後で発覚するが、それは蛇足だったように思えた。ボビーには魔性の女のままで終わってほしかったのだが、こういうところが「インド映画の良心」なのだろう。その他、恐妻家のグプター大臣をボーマン・イーラーニーが、怪しい占い師をラーザック・カーンが演じていた。2人ともヒンディー語映画界を代表するコメディアンだが、この映画では脇役に徹していた。また、5年後のシーンで、サミーラー・レッディーが特別出演する。

 女優陣の中で光っていたのはビパーシャー・バス。やはり彼女は魔性の女の役が似合う。超人的容姿を持つラーラー・ダッターは、「Kaal」(2005年)に引き続き普通の女性の役を演じており、好感が持てた。男優はアニル・カプールを筆頭に皆、優れたコミックロールを演じたと言っていいだろう。

 音楽はアヌ・マリク。アップテンポかつコミカルな曲が多かった。特にタイトルソングの「No Entry」の「Ishq Di Galli Vich No Entry(恋の道の途中に進入禁止の道がある)」というパンジャービー語の歌詞が、映画館を出るときに耳に残った。

 爆笑の嵐は確実の「No Entry」。2005年最高のコメディー映画と言える。それにしても、夫婦でこの映画を観に来た人たちは、映画を見終わった後にどんな会話をするのだろうか・・・?