Yaadein

3.0
Yaadein

 2001年7月27日公開の「Yaadein(思い出)」は個人的に思い出深い作品だ。インド留学のためにデリーに降り立ったタイミングで公開され、生活が落ち着いて映画館に行く余裕ができたときに鑑賞した、インド映画との関わりの最初期を飾る作品の一本であった。ただ、筋が複雑で、まだヒンディー語が未熟だったために、あまり理解ができなかった。音楽はとても良かったので、この映画のサントラCDはよく聴いていた。2022年9月23日にもう一度見直し、このレビューを書いている。

 監督はスバーシュ・ガイー。「Taal」(1999年)をヒットさせたばかりで、それに気を良くしたのだろう、この「Yaadein」は「Taal」と類似点の多い映画だ。例えば、インド映画基準で見てもソングシーンやダンスシーンが多く、それぞれが長い。歌と歌の合間にストーリーが進むといっていい。とはいっても、ストーリー部分でもいろいろな事件が矢継ぎ早に起き、上映時間は3時間ある。

 キャスティング上の話題は、「Kaho Naa… Pyaar Hai」(2000年)でデビューしたリティク・ローシャンと、「Refugee」(2000年)でデビューしたカリーナー・カプールが初共演していることだ。当時、両者とも、もっともホットな若手スターだった。

 その他のキャストは、ジャッキー・シュロフ、ラティ・アグニホートリー、スプリヤー・カールニク、アムリーシュ・プリー、アーナング・デーサーイー、キラン・ラートールなど。スバーシュ・ガイー監督自身がカメオ出演しているシーンもある。

 ロンドン在住のインド人で、レストラン経営をしていたラージ・スィン・プリー(ジャッキー・シュロフ)は、最愛の妻シャーリニー(ラティ・アグニホートリー)を事故で失う。二人の間には3人姉妹、長女アヴァンティカー、次女サーニヤー、そして三女イーシャー(カリーナー・カプール)がいた。ラージは3人の娘を連れてインドに帰る。

 ラージの親友ラリト・クマール・マロートラー(アーナング・デーサーイー)と妻ナーリニー(スプリヤー・カールニク)の間に生まれたローニト(リティク・ローシャン)は、ラージを実の父親のように慕っており、その3人娘とも仲が良かった。特にイーシャーとは淡い恋仲にあった。ラージの一家がインドに帰国したことを知り、ローニトはインドまで彼らを追い掛けていく。

 ローニトは、大学時代の親友パンカジをラージに紹介し、パンカジとアヴァンティカーの結婚が決まる。サーニヤーには、ロンドン時代に出会ったスカーントという恋人がいた。現在スカーントもインドに来ていた。サーニヤーはスカーントとの結婚をラージに頼む。ラージはスカーントの両親が気に入らなかったが、最終的に二人の結婚を認める。

 ローニトは一旦ロンドンに戻るが、イーシャーがマレーシアで自転車レースに出場することになり、彼もマレーシアに応援に駆けつける。そこで幼馴染みの二人は、友情が愛情に変わったことを感じる。二人は結婚を決意する。しかし、インドではサーニヤーが離婚の危機を迎えていた。ラージはサーニヤーの現状を見て、恋愛結婚反対派になる。また、ローニトの両親は、ラージの仲介もあって、彼とモーニシュカー・ラーイ(キラン・ラートール)の縁談をまとめていた。

 ラージは、ローニトとイーシャーが恋愛結婚を望んでいることを知るが、恋愛結婚の失敗を見たことと、ローニトとモーニシュカーの縁談を仲介してしまったこともあって、二人の結婚を却下する。イーシャーは反発するものの、最終的には父親の意向に従うことにし、ローニトにもそれを伝える。ローニトは荒れるが、イーシャーから諭され、モーニシュカーとの結婚を受け入れる。

 だが、ラージはラーイ家のライフスタイルに疑問を持ち始め、モーニシュカーもローニトの妻にはふさわしくないと思い始める。ラージはそれをマロートラー家に伝えるが、ラリトの兄ジャグディーシュ(アムリーシュ・プリー)はラージを侮辱して追い出す。マロートラー家とラーイ家はどちらも裕福な実業家であり、両家の縁談はビジネス上、メリットが大きかった。そのため、何としてでもローニトとモーニシュカーの結婚を強行しようとする。

 ローニトとモーニシュカーの婚約式前日、ローニトはマロートラー家とラーイ家が、金のために子供たちを結婚させようとしていると糾弾する。モーニシュカーもローニトとイーシャーが愛し合っていることに気付いており、ローニトをイーシャーに譲る。ジャグディーシュも二人の結婚を認める。

 ロンドン、インド、マレーシアと舞台が世界中を点々とし、インドではラージャスターン州ウダイプルの名所レイクパレスでもロケが行われた、非常にスケールの大きなロマンス映画である。また、アヌ・マリクによる音楽も素晴らしく、ダンスシーンにも力が入っている。話題の若手俳優たちを起用している点でも抜かりがない。

 だが、あまりに四方八方に大風呂敷を広げすぎてしまったために収拾が付かなくなっており、3時間に収めるのがやっとであった。おそらく、主人公イーシャーの恋愛のみならず、その2人の姉、アヴァンティカーとサーニヤーの結婚についても本来ならばもっと時間を割いて描写したかったはずだが、時間不足により、かなり駆け足で触れられていただけだった。このてんこ盛り感は、複数の恋愛を同時進行的に描いた「Mohabbatein」(2000年)とも似ている。

 ローニトとイーシャーの結婚の障害になったのは主に2点だった。まずひとつは、イーシャーの姉サーニヤーが恋愛結婚をして失敗したため、父親のラージが恋愛結婚反対派になってしまったことだ。もちろん、好きになった者同士が結婚するのが一番だが、結婚は個人間だけのものではない。家族と家族の縁結びでもあり、きちんと相手の家族を確認する必要がある。ラージは、サーニヤーの結婚相手の両親と会い、彼らに不信感を抱いたため、極力娘をその家に嫁がせたくなかった。だが、最後はサーニヤーの要望を聞き入れ、その結果、彼女を不幸にさせてしまったのである。イーシャーには同じ思いをさせたくないと思うのは当然のことだった。

 もうひとつ、ローニトとイーシャーの前に立ちはだかったのは、圧倒的な経済格差である。ローニトのマロートラー家は裕福な実業家であったが、イーシャーの父親ラージはしがないレストラン経営者だった。両家の仲は良好だったが、ラージ自身はその経済格差から、娘がローニトと結婚することは無理だと考えていた。そのため、ラージはローニトの結婚相手として、マロートラー家と同じ経済力を持つラーイ家の娘モーニシュカーを勧めたのだった。

 マロートラー家の家長を務めていたのは、アムリーシュ・プリー演じるジャグディーシュであった。アムリーシュは、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」(1995年)で演じた、結婚に反対する厳格な父親役が板に付いてしまい、その後も似たような役柄を演じさせられ続けることになった。この「Yaadein」でも結局ローニトとイーシャーの結婚を頑強に認めなかったのは彼が演じるジャグディーシュであった。そして、「Dilwale Dulhania Le Jayenge」よろしく、最後の最後で彼は二人の結婚を認める。「ジャー、スィムラン、ジャー(行け、スィムラン、行け)」効果である。

 この映画でもっともジレンマに陥っていたのはジャッキー・シュロフ演じるラージであろう。妻を失い、3人の娘の結婚という重大な責任を一人で背負うことになった。妻の遺言により、娘たちとは友人のように接しようとするが、次女サーニヤーの恋愛結婚失敗により、やはり父親として権限を振るう必要性に迫られる。また、親友ラリトや尊敬するジャグディーシュの意に反して、ローニトがイーシャーとの結婚を望むようになってしまった。この葛藤をジャッキーは情緒豊かに演じ切っていた。

 カリーナー・カプールも、父親と恋人の間で揺れるイーシャー役を健気に演じていた。特に、父親の気持ちを優先し、愛するローニトとの結婚を諦めるシーンや、ローニトに「あなたのことを愛しているけど、友達として」と強がって言うシーンはホロリとさせられる。

 リティク・ローシャンに関しては、演技力よりもダンスの方で注目される。「Jab Dil Miley」や「Chamakti Shaam Hai」などの豪勢なダンスシーンで、彼のダンスの切れが存分に披露されていた。

 「Taal」に続いてテーマメロディーの使い方がうまく、何度もタイトルソング「Yaadein」のメロディーが流れ、感情を高ぶらせる。

 また、映画内広告が目立つ映画でもあった。コカコーラがとても目立つ使われ方をしていた他、いくつかの商品が映画の中でわざとらしく映し出されていた。

 「Yaadein」は、娯楽映画の名手スバーシュ・ガイーが、「Taal」の成功を受けて送り出した、よりスケールの大きなロマンス映画である。しかしながら、スケールを大きくしすぎてまとめきれなくなっており、各要素のバランスが悪い。興行的な評価はフロップとされている。しかしながら、音楽は素晴らしいし、リティク・ローシャンとカリーナー・カプールの初々しい演技が見られるのも魅力だ。再評価されてもいい映画である。