Refugee

3.5
Refugee

 2000年6月30日公開の「Refugee」は、ヒンディー語映画界のスーパースター、アミターブ・バッチャンの息子アビシェーク・バッチャンと、名門カプール一族の末裔カリーナー・カプールのデビュー作として記憶されている映画である。単なるスターキッドのローンチ映画ではなく、印パの国境をまたぐ恋愛を描き、印パの親善を訴える、3時間を越える壮大な映画だ。興行成績は期待通りにはいかなかったが、見応えのある映画ではある。2022年9月4日に改めて鑑賞し、このレビューを書いている。

 監督は、戦争映画を得意とするJPダッター。この直前には1971年の第三次印パ戦争を描いた戦争映画「Border」(1997年)を大ヒットさせている。音楽監督はアヌ・マリク。主演は新人のアビシェーク・バッチャンとカリーナー・カプールであるが、ジャッキー・シュロフ、スニール・シェッティー、アヌパム・ケールなどのベテラン俳優が脇を固めている。他に、スデーシュ・ベリー、クルブーシャン・カルバンダー、シャダーブ・カーン、リーナー・ロイ、ムケーシュ・ティワーリー、アーシーシュ・ヴィディヤールティー、アヴタール・ギルなどが出演している。

 この映画には原作がある。ケーキー・ダールーワーラーの短編小説「Love Across the Salt Desert」である。この小説はインドの学校の教科書にも掲載されているようである。

 時は1971年の第三次印パ戦争直後。東パーキスターンはバングラデシュとして独立したが、そこに住んでいたビハール州出身のイスラーム教徒マンズール・アハマド(クルブーシャン・カルバンダー)は、バングラデシュで余所者扱いされたため、家族と共にインドを陸路で越えて、西パーキスターンに逃げようとする。彼らはグジャラート州西部のカッチ地方まで辿り着き、インド側にある国境沿いの村で、違法な国境越えを支援するジャーン・ムハンマド村長(アヌパム・ケール)に相談する。ジャーンは、息子のリフュジー(アビシェーク・バッチャン)に道案内をさせる。

 マンズールが連れていた家族の中には、一人娘のナズニーン(カリーナー・カプール)がいた。リフュジーは彼らをパーキスターンまで送り届け、しばらく滞在するが、その間に二人は恋仲になる。リフュジーはインドとパーキスターンの間を往き来し、ナズニーンと密会を続ける。

 一方、パーキスターンの国境警備隊長ムハンマド・アシュラフ中佐(スニール・シェッティー)はナズニーンに一目惚れする。アシュラフ中佐はマンズールにナズニーンとの結婚を申し出る。マンズールはそれを喜んで受け入れるが、ナズニーンはてっきりリフュジーとの結婚が決まったと勘違いしてしまう。

 そんなとき、インドで列車やバスを狙った爆破テロが起きる。その犯人は、リフュジーがパーキスターンから密入国させた者たちだった。インドの国境警備隊長ラグヴィール・スィン(ジャッキー・シュロフ)は、アシュラフ中佐と会談し、両国の国境沿いで警戒を強めることで合意する。その中でリフュジーはインド国境警備隊に撃たれて負傷する。また、パーキスターン国境警備隊にマンズールがバングラデシュから来たこともばれてしまった上に、ナズニーンはアシュラフ中佐との結婚を拒否する。ナズニーンはマンズールから絶縁される。

 回復したリフュジーは再びナズニーンを訪ねるが、パーキスターン国境警備隊に捕まってしまい、リンチを受けた後、RDXと共にインドへ送り返される。ラグヴィールはリフュジーの治療させ、彼を軍に入隊させて、軍事訓練を施す。

 爆破テロの首謀者シャダーブ・ムハンマド(シャダーブ・カーン)は、ジャーンの兄弟アター・ムハンマド(アヴタール・ギル)と共にインド領に攻め込み、ジャーンの村を占領して、ジャーンを殺す。それを聞いたリフュジーはラグヴィールやインド国境警備隊と共に村に突入して、シャダーブやアターを殺す。

 一方、ナズニーンはリフュジーの子供を身籠もっていた。アシュラフ中佐は、ナズニーンを印パ国境にあるハージー・ピール廟に連れて行く。そこでリフュジーと再会し、二人は結婚する。ナズニーンは産気づき、印パ国境上で子供を生む。ちょうどそれは印パの独立を祝う8月14日と15日の間の夜だった。

 JPダッター監督は愛国主義的な戦争映画を得意としており、インド人観客の愛国心とうまく共鳴すると、その映画はヒットする。ただ、映画作りが格別にうまい監督ではなく、素人っぽさが残る大味な映画になりがちだ。「Refugee」も、3時間半に迫る大長編だが、それだけ長く引き延ばす必要性があるとは思えない。冗長なシーンが多く、台詞も長ったらしくて、忍耐力が試される。しかしながら、過去に何度も戦火を交えてきたインドとパーキスターンの友好を訴える内容であり、そのメッセージには共感するところが多い。音楽もとてもいい映画だ。

 主人公ナズニーンの父親マンズールの家系は時代に翻弄されてきた。元々はビハール州に住むイスラーム教徒であったが、1947年の印パ分離独立(パーティション)時、パーキスターン国籍を選び、東パーキスターンへ移住する。ところが、1971年の第三次印パ戦争の結果、東パーキスターンがバングラデシュとして独立すると、バングラデシュはベンガル人のための国になり、ビハール州出身の彼らにとっては住みにくい国になってしまう。そこで、西パーキスターンへ再び移民することを決めるが、戦後の混乱期であり、彼らの移民の便宜が図られるはずがなかった。彼らはまずバングラデシュからインドに密入国し、陸路で横断して、グジャラート州西部カッチ地方から西パーキスターンに再び密入国しようとしていた。これが映画の導入部である。

 つまり、この映画の主人公の一方は、国籍からいえばパーキスターン人になる。ただ、彼らはアイデンティティーの危機に陥っていた。バングラデシュにいると「インド人」と呼ばれ、インドにいると「パーキスターン人」と呼ばれ、パーキスターンに行くと「バングラデシュ人」と呼ばれ、余所者扱いされる。つまり、彼らはどの国からも歓迎されない、孤児のような難民になってしまったのである。

 マンズールやナズニーンのパーキスターンへの密入国を助けたのが、もう一方の主人公リフュジーであった。題名にもなっている「リフュジー(Refugee)」とは「難民」という意味の英語である。アビシェーク・バッチャン演じる主人公は本名を明かしておらず、「リフュジー」を名乗っていた。彼は天涯孤独の身だったが、アヌパム・ケール演じるジャーン・ムハンマドに実の息子同然に育てられた。リフュジーは、印パ国境にまたがる、「カッチ湿地(Rann of Kutch)」と呼ばれる塩の大地を通って両国を往き来していた。現在はここまで簡単に越境はできないが、1970年代はまだ国境は緩かったと思われ、国境警備隊の目を盗めば国境の往き来は可能だった。リフュジーは根無し草的な存在ではあったが、インドに対する愛国心はきちんと持っているという設定であった。

 カッチ湿地と国境をまたぎ、ナズニーンとリフュジーは愛を育み、二人の間に子供が生まれる。その子供が生まれた場所が印パ国境上という、非常に狙い澄ました設定であり、その子供は印パどちらにも属さない、両国親善の象徴となる。また、誕生日はちょうど、パーキスターンの独立記念日である8月14日と、インドの独立記念日である8月15日の合間であった。JPダッター監督は、これらの計算し尽くされた設定によって、国境で分断された印パの融和を訴えた。

 挿入歌の中にも「Panchi Nadiya Pawan Ke」という曲があり、「鳥や河や風には国境は関係ない」と歌っている。正に映画の主題を歌っている名曲だ。ただ、国境を無効化しようとするインド側からの一方的なメッセージは、パーキスターン分離独立の否定と受け取られる可能性がある。

 もう一曲挙げるとすれば、リフュジーとナズニーンのロマンスソング「Mere Humsafar」である。シンプルだが美しいバラードである。インド在住時、「Refugee」のサントラCDはよく聴いており、思い出深い。

 また、登場人物のほとんどがイスラーム教徒という点も特筆すべきだ。パーキスターン人は、インドに残されたイスラーム教徒同胞を救うという名目でインド側に攻め込むが、ジャーン・ムハンマドをはじめとしたインド側に住むイスラーム教徒は、インド人としてのアイデンティティーを持っており、パーキスターン側のイスラーム教徒には同調しない。「Refugee」公開前年の1999年にはカールギル紛争が起こっており、インド国内で対パーキスターン感情が高まっていた。それがイスラーム教徒に対する反感につながってはいけないとの配慮から、インド人イスラーム教徒もインドに愛国心を持っているということがわざわざ強調されていたのかもしれない。

 この映画で同時にデビューを飾ったアビシェーク・バッチャンとカリーナー・カプールであるが、改めて見返すと、どちらも精いっぱい演技をしていたと評価できる。アビシェークは父親譲りのハードボイルドな演技に徹しており、インパクトがある。カリーナーは、お茶目な一面もありながら、全体的には悲劇のヒロインを謙虚に演じ切っていた。残念ながら「Refugee」は大ヒットとまではいかなかったため、この2人のスターとしての定着は、その後のそれぞれのヒット作を待つことになった。

 「Refugee」は、2000年代を代表する二大スターであるアビシェーク・バッチャンとカリーナー・カプールのデビュー作である。戦争映画を得意とするJPダッター監督が、印パ国境をまたいだロマンス映画を、多少の戦闘シーンを盛り込みながら、かなり冗長に映し出している。アヌ・マリクによる音楽が素晴らしく、全体的に名作のオーラはまとっているが、もう少しコンパクトにまとめていれば、さらに評価が高くなったかもしれない。


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