Bandit Queen

3.5
Bandit Queen
「Bandit Queen」

 ウッタル・プラデーシュ州、ラージャスターン州、マディヤ・プラデーシュ州にまたがるチャンバル谷は荒涼とした渓谷が続いており、昔から数々の盗賊たちが闊歩する土地として知られてきた。このチャンバル谷で暗躍した盗賊として有名なのが、女盗賊プーラン・デーヴィーである。貧しいマッラー(船頭)カーストの生まれで、幼児婚や強姦の被害に遭った後に盗賊の一員となり、やがて首領にのし上がった。カースト制度によって抑圧されてきたこともあり、彼女がターゲットにするのは上位カーストで、貧しい人々からは人気を集める義賊であった。警察に投降して11年服役した後、1994年に社会党(SP)から出馬して国会議員に当選したが、2001年に暗殺されて劇的な生涯を閉じた。

 彼女がインド国内外で高い知名度を誇るようになった一因が、シェーカル・カプール監督の「Bandit Queen」であった。この映画はまだプーラン・デーヴィーが服役中だった1994年1月26日に公開されており、カンヌ映画祭などで上映され話題になった。日本でも1997年に「女盗賊プーラン」の邦題と共に公開されている。マーラー・セーン著の伝記「India’s Bandit Queen: The True Story of Phoolan Devi」(1993年)に基づいて作られた伝記映画であるが、プーラン自身はこの映画の内容を認めていなかったとされる。2023年3月7日に鑑賞し、現在の視点からこのレビューを書いている。

 「Bandit Queen」の主役プーラン・デーヴィーを演じるのはスィーマー・ビシュワース。現在ではベテラン演技派女優の一角を占めている。この映画ではレイプシーンなど、かなり際どい演技もあるが、スィーマーは体当たりの演技でプーランを演じ切った。「Bandit Queen」は彼女の出世作である。

 他に、ニルマル・パーンデーイ、アーディティヤ・シュリーヴァースタヴァ、ガジラージ・ラーオ、サウラブ・シュクラー、マノージ・バージペーイー、ラグヴィール・ヤーダヴ、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、アニルッド・アガルワール、ゴーヴィンド・ナームデーヴなどが出演している。現在ベテランの俳優たちの若々しい姿と演技を見ることができる。シェーカル・カプール監督もカメオ出演している。

 また、音楽はパーキスターン人でカッワーリーの巨匠ヌスラト・ファテー・アリー・カーンが作曲しているのも特筆すべきである。

 1968年、ウッタル・プラデーシュ州の村で生まれたプーラン(スィーマー・ビシュワース)は、11歳の内に年上の男性プッティーラール(アーディティヤ・シュリーヴァースタヴァ)と結婚させられるが、すぐに実家に逃げ帰ってくる。プーランは、村を支配するタークル・カーストの人々から嫌がらせを受け、レイプもされそうになる。プーランは全ての罪をかぶることになり、村から追い出される。

 プーランはしばらく従兄弟のカイラーシュ(サウラブ・シュクラー)のところに身を寄せるが、彼の妻から疎まれ、やはり家を出ることになる。仕方なくプーランは村に戻るが、そこで警察に捕まってレイプされ、バーブー・グッジャル(アニルッド・アガルワール)の盗賊団に売り飛ばされる。そこでも彼女はレイプされるが、グッジャルの部下ヴィクラム・マッラー・マスターナー(ニルマル・パーンデーイ)に見初められる。ヴィクラムは、プーランをレイプするグッジャルを殺し、盗賊団を乗っ取る。プーランはヴィクラムのパートナーとして盗賊団を率いることになる。プーランはヴィクラムの助けを借りて、夫のプッティーラールに復讐する。

 ところが、盗賊団の真のボスは、服役中のタークル・シュリーラーム(ゴーヴィンド・ナームデーヴ)であった。釈放されたシュリーラームは盗賊団に戻り、ヴィクラムを殺してプーランを誘拐する。そしてプーランはベヘマーイー村で集団強姦を受け、公衆の面前で裸にされる。プーランはカイラーシュに助けを求め、カイラーシュはヴィクラムの親友マーン・スィン(マノージ・バージペーイー)を紹介する。マーン・スィンは、バーバー・ムスタキーム(ラージェーシュ・ヴィヴェーク)の盗賊団にプーランを連れていき、プーランが自分の盗賊団を立ち上げる支援を求める。

 女盗賊プーランは、メディアによって英雄に祭り上げられ、チャンバル谷の貧しい庶民から支持を受ける。プーランはシュリーラームへの復讐の機会をうかがっており、ムスタキームからのタレコミに従ってベヘマーイー村を急襲し、24人のタークルを惨殺するが、シュリーラームは逃した。この事件を受けて警察は本腰でプーラン退治に乗り出し、彼女の仲間たちは次々に殺される。とうとうプーランは州首相の前に銃を差し出して投降する。だが、人々はプーランを讃えた。

 実在する女盗賊プーラン・デーヴィーの伝記映画である以上に、インドにおける女性の地位の低さに焦点を当てた映画であった。プーランは女性、貧困、カーストという三重苦から、幼児婚、レイプ、集団強姦などの性的搾取に遭う。チャンバル谷は暴力が支配する地域で、男尊女卑の文化が根付いている上に、貧しい低カースト者には人権がなかった。ちなみにプーランが所属するマッラー・カーストは、一般的にはカースト内の最下層シュードラとされるが、限りなくアウトカーストである不可触民に近く、差別の対象になっている存在である。

 だが、プーランは幼少時から負けん気の強い女性で、どんなに酷い目に遭っても這い上がろうとした。チャンバル谷に跋扈する盗賊団の一員で、同じマッラー・カーストのヴィクラムに見初められたことで盗賊としての人生を歩み出し、やがて首領にまで上り詰める。ただ、女盗賊として名が知れ渡った後も苦難は続き、ヴィクラムの死や集団強姦などの被害に遭う。映画は、プーランは州首相に投稿するところで終わるが、この映画の公開後もプーランは国会議員に当選したり暗殺されたりと波瀾万丈の人生を送った。

 今でこそ名作に数えられる作品であるが、冷静に観てみると気になる点も多い。まず、当時存命中の有名人の半生を映画化した作品ながら、本人の名誉毀損など全くお構いなしの物語になっていることが問題点として挙げられる。映画の中には数え切れないほどのレイプシーンがある。スィーマー・ビシュワースはそれらをかなり体当たりで演じ切ってはいるが、ここまでレイプのオンパレードにする必要性は感じなかった。カンヌ映画祭で上映されたことから分かるように、映画祭サーキットを狙っての映画だったと思われるが、一歩間違えれば、1980年代の低俗な暴力映画と変わらなくなってしまう。また、プーランが公衆の面前で裸にされるシーンもかなり際どい映像表現になっていた。インドではいくつかのシーンがカットされ、A認証(18歳未満閲覧禁止)で公開されたとされている。

 また、プーランの人生において重要な事件が起こった年月を数珠つなぎのように並べたような構成になっており、ストーリーテーリング上、大した工夫がなく、淡泊に感じた。言い換えれば、歴史年表のような映画になっていた。そのためにプーランの内面を丁寧に描いた作品にはなかっていなかった。プーランの人生には辛い出来事も多かったが、ヴィクラムとの恋愛など、明るい話題もあった。それらをもっと心情表現豊かに描写しても良かったのではないかと感じた。プーランが女盗賊になってロビンフッド的な活躍をするシーンも少なかったし、メディアが彼女を祭り上げたという部分も、台詞で出て来ただけで、映像では語られていなかった。

 ただ、プーランが夫に復讐するシーンで、「幼児婚をした男を殺す」と言うシーンがあった。実際のプーランが幼児婚をした男性たちを殺していたのか不明なのだが、彼女の義賊としての一面を見せていた場面であった。

 「Bandit Queen」で非常に重要なのは、この映画でデビューし、その後、演技派俳優として活躍するようになった俳優たちがとても多いことである。主演のスィーマー・ビシュワースも実質的にこの映画で名を知られるようになったし、マノージ・バージペーイー、サウラブ・シュクラー、ガジラージ・ラーオなどはこの映画がデビュー作だ。デリーの国立演劇学校(NSD)出身者が多いのも特徴だ。

 実在する女盗賊プーラン・デーヴィーの伝記映画「Bandit Queen」は、現在国際的に活躍するインド人監督シェーカル・カプールが世界進出するきっかけになった作品であり、多くの俳優たちがデビューするきっかけを作った映画でもある。冷静に観ると不必要なレイプシーンが多い点や歴史年表的な構成になっている点など、気になるシーンも多いのだが、この映画が持つ歴史的な意義は否定できない。