ヒンディー語映画界においてコメディー映画を得意とする監督は複数いるが、インドラ・クマールはその一人だ。「Masti」(2004年)、「Grand Masti」(2013年)、「Great Grand Masti」(2016年)の「Masti」シリーズなど、多くのコメディー映画を送り出して来た。「Masti」と並ぶインドラ・クマール監督のコメディー映画シリーズに「Dhamaal(騒動)」シリーズがある。第1作の「Dhamaal」(2007年)、第2作の「Double Dhamaal」(2011年)に続き、第3作の「Total Dhamaal」は2019年2月22日に公開された。
「Masti」シリーズでは主演の3人は固定されているが、「Dhamaal」シリーズでは若干の入れ替わりがある。今まで全3作を通して出演しているのは、リテーシュ・デーシュムク、アルシャド・ワールスィー、ジャーヴェード・ジャーファリーだ。「Total Dhamaal」では、主演級スターとしてアジャイ・デーヴガンが入った。他に、アニル・カプール、マードゥリー・ディークシト、イーシャー・グプター、サンジャイ・ミシュラー、ピトーバーシュ・トリパーティー、ジョニー・リーヴァル、ボーマン・イーラーニー、マノージ・パーワー、マヘーシュ・マーンジュレーカルなどが出演している。また、ソーナークシー・スィナーがアイテムソング「Mungda」でアイテムガール出演する他、ジャッキー・シュロフが声のみ出演している。
泥棒コンビのグッドゥー(アジャイ・デーヴガン)とジョニー(サンジャイ・ミシュラー)は、悪徳警視総監ドン(ボーマン・イーラーニー)が汚職で手にした5億ルピーの現金を盗み出すが、仲間のピントゥー(マノージ・パーワー)に奪われてしまう。だが、ピントゥーは飛行機の墜落によって息絶える。たまたま墜落事故現場に居合わせ、ピントゥーが死ぬ前に金の在処を聞いたのが、グッドゥーとジョニーに加え、離婚したての夫婦、アヴィナーシュ(アニル・カプール)とビンドゥー(マードゥリー・ディークシト)、悪徳消防士のラッラン(リテーシュ・デーシュムク)と相棒ジングール(ピトーバーシュ・トリパーティー)、双子の兄弟アーディ(アルシャド・ワールスィー)とマーナヴ(ジャーヴェード・ジャーファリー)の六人だった。 金はジャナクプルの動物園の「OK」にあるとのことだった。グッドゥーの提案で、一番早くジャナクプルの動物園に辿り着いた者が金を総取りできることになった。八人は一目散にジャナクプルを目指すが、道中数々の困難に直面する。また、ドン警視総監はグッドゥーらの後を追う。 八人はほぼ同時にジャナクプルの動物園に到着する。若き経営者プラーチー(イーシャー・グプター)は、マフィアのボス、チンナッパ・スワーミー(マヘーシュ・マーンジュレーカル)に動物園の土地を騙し取られており、動物たちは毒殺されようとしていた。八人はライオン、虎、ゴリラ、象などの猛獣を救う。恩を感じた動物たちはチンナッパとその手下たちを襲う。 「OK」型の木の下から5億ルピーの現金が見つかる。この金はその場にいる者で山分けされることになった。また、アヴィナーシュとビンドゥーは仲直りし、グッドゥーはプラーチーにプロポーズする。
警視総監が汚職をして手にした5億ルピーを巡り、欲深い八人がドタバタ劇を繰り広げるが、最後には強引な感動的結末が待っている、というインド製コメディー映画の鑑のような作品だった。コミックロールに定評のあるアルシャド・ワールスィーやジャーヴェード・ジャーファリーなどのメインキャラに加え、ジョニー・リーヴァルなどのコメディー俳優がチョイ役で盛り上げ、連続するコント劇をつなげてひとつのストーリーにしたような映画になっている。お気楽なコメディー映画であることに納得した上で観るのならば、楽しい2時間になることだろう。
前半は、現金が隠されたジャナクプルまでのレースとなる。ジャナクプルは架空の町で、しかも現在地がどこなのか不明だが、数百kmの距離を移動していた。南インド人が出て来たので南インドでロケが行われているのかと思ったが、実際にはウッタラーカンド州を中心にロケが行われたようである。
道中の景色には、荒涼とした山岳地帯あり、広大な砂漠あり、湖や滝ありと、やたら多様な自然環境となっていた。彼らは近道しようとしたり、ヘリコプターでひとっ飛びしようとしたりと、それぞれ工夫しながら相手を出し抜こうとする。だが、どれもうまく行かず、笑いを誘う。
後半は動物園が舞台となる。ほとんどの動物はCGや着ぐるみなどを使っての撮影であろうが、唯一、動物園の警備員として働いていたサルは、クリスタルという名前のハリウッド動物俳優である。今まで「ナイト ミュージアム」(2006年)など、多くの作品に出演して来た。
第1作「Dhamaal」と第2作「Double Dhamaal」にはストーリー上のつながりがあった。そのつながりにおいて、サンジャイ・ダット演じるカビール・ナーイク警部補がキーパーソンとなっていたが、「Total Dhamaal」にはサンジャイ・ダットも出ていなければ、カビール警部補も登場しない。前作と今作をつなぐのは、アルシャド・ワールスィー演じるアーディとジャーヴェード・ジャーファリー演じるマーナヴぐらいである。その一方で、リテーシュ・デーシュムク演じるラッランは、前作とのつながりが希薄だった。突然降って湧いた大金を巡るドタバタ劇という点では、第1作「Dhamaal」のストーリーに回帰していたと言える。
キャストの中では、マードゥリー・ディークシトがコミックロールを演じていたのが目新しかった。今までこういうお馬鹿なコメディー映画には出演して来なかったイメージがあるのだが、今回、「Tezaab」(1988年)や「Beta」(1992年)など、多くの作品で共演して来たアニル・カプールとのカップリングで、伸び伸びとコミカルな演技をしていた。
今回新たに「Dhamaal」シリーズに参入したアジャイ・デーヴガンは、既に「Golmaal」(2006年)や「Bol Bachchan」(2012年)などのコメディー映画でキャラクターを確立している。よって、どうしても彼が出演のコメディー映画というと、そちらのイメージが強く、「Dhamaal」シリーズの特色が出せなくなってしまっているのではないかとの危惧を感じた。彼自身の演技に問題はないが、彼の起用は諸刃の剣だと感じた。
「Total Dhamaal」は、2007年から続く「Dhamaal」シリーズの第3作。5億ルピーの現金を巡って多人数がドタバタ劇を繰り広げるタイプのコメディー映画である。2019年の大ヒット映画の一本なだけあり、爆笑は保証されている。前作、前々作からのつながりは薄いので、いきなり第3作を観ても戸惑うことはないだろう。気晴らしに観るのがいい作品だ。