Grand Masti

3.5
Grand Masti
「Grand Masti」

 ヒンディー語のコメディー映画と一口に言ってもいろいろある。ローヒト・シェッティー監督が得意とするアクション・コメディーもあれば、「Peepli Live」(2010年)のような、風刺の効いたブラックコメディーもある。それら細分化されたコメディー映画の一角にあるのがセックス・コメディーである。いわゆる下ネタを前面に押し出したコメディー映画だ。ヒンディー語映画界において、セックス・コメディーの2巨頭と言えば、「Masti」シリーズと「Kyaa Kool Hai Hum」シリーズだ。「Masti」は2004年に公開され、その続編の「Grand Masti」が2013年に公開、3作目の「Great Grand Masti」がまもなく公開される予定である。一方、「Kyaa Kool Hai Hum」は2005年に公開され、その続編となる「Kyaa Super Kool Hain Hum」が2012年に公開、3作目となる「Kyaa Kool Hain Hum 3」は2016年に公開された。

 「Grand Masti」は、2013年9月13日に公開された。監督は前作と同じインドラ・クマール。チープなコメディー映画を作り続けている、大衆志向の監督だ。作曲は前作のアーナンド・ラージ・アーナンドに加え、サンジーヴ・ダルシャンが担当、作詞はクマールとマノージ・ダルパン。メインキャストは前作と変わっておらず、リテーシュ・デーシュムク、ヴィヴェーク・オーベローイ、アーフターブ・シヴダーサーニーの3人。一方、ヒロインは総入れ替えだ。前作ではラーラー・ダッター、アムリター・ラーオ、ジェネリアなど、結構な女優が出演していた。「Grand Masti」のヒロインは、彼女たちよりも多少格が落ち、ヒンディー語映画界でそれほど名が売れていない女優ばかりである。ただ、ヒロインは6人おり、ソーナーリー・クルカルニー、マンジャリー・ファドニース、カリシュマー・タンナー、マリヤム・ザカーリヤー、ブルーナ・アブドゥッラー、カーイナート・アローラーである。他に、スレーシュ・メーナンとプラディープ・ラーワトなどが出演している。

 ちなみに、題名となっている「Masti」とは「陶酔」とか「浮かれること」という意味のヒンディー語の単語で、ここでは文字通り「浮気」を指すとしていいだろう。「Grand Masti」は、「大浮気」と言ったところだ。

 アマル・サクセーナー(リテーシュ・デーシュムク)、ミート・メヘター(ヴィヴェーク・オーベローイ)、プレーム・チャーウラー(アーフターブ・シヴダーサーニー)は大学時代の仲良し三人組。シュリー・ラールチャンド技術科学大学(SLUT)を卒業して既に6年が経っており、三人とも結婚していた。ところが、それぞれの家庭で異なった状況に置かれていた。アマルの妻マムター(ソーナーリー・クルカルニー)はパップーという赤ん坊の世話に忙しく、アマルは疎外感を味わっていた。ミートとウナッティ(カリシュマー・タンナー)の間に子供はいなかったが、二人は同じ職場で働いており、しかもウナッティは彼の上司であった。さらに、ウナッティが上司と不倫している疑惑があった。プレームの妻トゥルスィー(マンジャリー・ファドニース)は完璧な主婦であったが、完璧すぎて姑や兄嫁に代わって家事をこなしすぎ、プレームとの時間を作れずにいた。つまり、三人とも異なる状況に置かれていたものの、問題はひとつであった。それは、セックスに飢えているということであった。

 あるとき、三人のもとに、SLUTから同窓会のお知らせが届く。三人は妻をおいてSLUT同窓会へ行く。彼らの知るSLUTは、ビキニを着た美しい女子大生たちが闊歩するパラダイスであった。ところが、6年振りに訪れたSLUTは、以前とは全く異っており、女子大生たちは慎ましい服装をしていた。また、男子学生たちは女子学生を極度に恐れていた。その原因は、6年前に就任した厳格な学長ロバート・ペレイラ(プラディープ・ラーワト)であった。彼はセクハラを一切許容せず、もし違反した生徒がいた場合は吊し上げて罰すると宣言していた。実際、アマル、ミート、プレームの友人だったハールディク(スレーシュ・メーナン)が血祭りに上げられ、以後、キャンパス内では恐怖政治が行われていたのである。ハールディクはその後、精神病院に入院し、未だに退院していないとのことであった。

 しかし、そんな枯れたキャンパスでも、アマル、ミート、プレームは3人の美女と出会う。アマルは謎の美女メリー(ブルーナ・アブドゥッラー)と出会い、恋に落ちる。ミートは、すっかりグラマラスに成長した同期生の美女マーロー(カーイナート・アローラー)と再会し、ぞっこんとなる。プレームはセクシーな恩師ローズ(マリヤム・ザカーリヤー)と再会し、誘惑を受ける。ロバート学長が留守なのをいいことに、三人は彼女たちと楽しもうとする。ところがそこへロバートが突然帰って来る。しかも、さらに悪いことに、ローズはロバートの妻であり、マーローはロバートの妹であり、さらにメリーはロバートの娘であった。アマル、ミート、プレームは、何とか取り繕う。

 そこへ、マムター、ウナッティ、トゥルスィーがやって来る。しかし、メリー、マーロー、ローズの誘惑は続いた。こうしてアマル、ミート、プレームは妻と美女の間に板挟みとなる。しかも、精神病院から抜け出したハールディクが、アマルとメリー、ミートとマーロー、プレームとローズの情事を盗撮していた。ハールディクはロバート殺害を計画しており、その盗撮ビデオを使ってアマル、ミート、プレームを脅して、ロバートを殺させようとする。

 一方、ロバート学長は、自分の妻、妹、娘に手を出そうとした三人組を捜索していた。ロバート学長は、1週間続いた同窓会最後の夜に、参加者全員に媚薬を飲ませ、犯人をあぶり出そうとする。アマル、ミート、プレームはそれに引っかかり、ロバートにばれてしまう。ところが、メリー、マーロー、ローズが反撃に出た。ローズは、ロバートが事故でEDとなったために、その腹いせとして、生徒たちに禁欲を強いているということをばらす。ロバート学長はアマル、ミート、プレームを追いかけるが、最後には四人とも建物の屋上から落っこちる。

 四人は全身に大怪我を負って入院する。しかし、このときのショックがきっかけで、ロバートのEDが治る。こうして一件落着となる。

 結婚生活に不満を抱え、満足な性生活を送れていない3人組が、家庭の外にはけ口を求めるという導入部や、それが原因でとんでもないトラブルに巻き込まれるという中盤の展開は、前作を引き継いでいた。きわどいヴィジュアル依存の下ネタから、ダブルミーニングを駆使した台詞の下ネタまで、下品な笑いがちりばめられていたのも前作同様である。そして、浮気に走った男たちが浮気に懲りて家庭に戻るという結末も前作通りだ。この辺りが「Masti」のお約束と言える。おそらく次の「Great Grand Masti」でも変わらないところだろう。

 前作「Masti」から今作「Grand Masti」まで、ほぼ10年の月日が流れた訳だが、当時駆け出しの男優だったメインキャスト3人の現在の立場は様々だ。もっとも成功していると言えるのはリテーシュ・デーシュムクであろう。元マハーラーシュトラ州首相の息子という恵まれた背景を持っていることも幸いしたのだろう、決してトップ集団にいる訳ではないが、時々主演を張れるほどの位置にはいる。その一方で凋落著しいのがヴィヴェーク・オーベローイだ。2004年当時は、アイシュワリヤー・ラーイと付き合っていたこともあって、人生の絶頂期にいたが、2005年にアイシュワリヤーと破局すると、急に運気が衰えた。その後も出演作が途切れることはなかったが、代表作と呼べる作品には出会えていない。アーフターブ・シヴダーサーニーは、ヴィヴェークほどのアップダウンは経験していないが、やはり低空飛行を続けている男優である。この顔ぶれを見るに、特にヴィヴェークとアーフターブが自分たちの存在を思い出してもらうために作られたのがこの「Grand Masti」という感じである。

 ただ、徹底的な下ネタ攻勢が功を奏したのか、「Grand Masti」は10億ルピー以上のコレクション(国内興行成績)を収め、スーパーヒットとなった。ヴィヴェークとアーフターブにとっては喉から手が出るほど欲しかった業績だ。決して褒められた出来の映画ではなかったが、割り切った下ネタで、安易な娯楽を求める大衆層の支持を獲得したと言える。

 6人のヒロインは、ヒンディー語映画界ではほとんど無名の存在だ。ソーナーリー・クルカルニーはマラーティー語映画で実績があるが、ヒンディー語映画はこれが初めて。マンジャリー・ファドニースは「Jaane Tu… Ya Jaane Na」(2008年)で主人公ジャイの恋人役を演じ、一躍注目を浴びた女優であるが、その後ヒンディー語映画と南インド映画を往き来しており、腰が落ち着いていない。カリシュマー・タンナーはTV出身で、まだ映画界では売れていない。ブルーナ・アブドゥッラーはブラジル人で、アイテムガールとして映画デビューし、「Grand Masti」の前は「I Hate Luv Storys」(2010年)に出演している。カーイナート・アローラーは本作で本格映画デビューした新人女優である。そしてマリヤム・ザカーリヤーは「Agent Vinod」(2012年)に出演した女優である。

 ちなみに、劇中でシュリー・ラールチャンド技術科学大学(Sri Lalchand University of Technology and Science)という架空の大学キャンパスとして出て来た建物は、グジャラート州ヴァドーダラー(旧名バローダー)の象徴、ラクシュミー・ヴィラース・パレスである。

 「Grand Masti」は、2004年にヒットしたセックス・コメディー映画「Masti」の続編。前作と同じく、浮気な男たちが巻き込まれるドタバタ劇を中心としたチープな作品だ。下ネタ満載のため観客を選ぶが、インドでは一応スーパーヒットとなっている。