Detective Sherdil

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Detective Sherdil
「Detective Sherdil」

 2025年6月20日からZee5で配信開始された「Detective Sherdil」は、人気歌手・俳優ディルジート・ドーサンジ主演の探偵映画である。

 監督はラヴィ・チャーブリヤー。「Tiger Zinda Hai」(2017年/邦題:タイガー 甦る伝説のスパイ)などで助監督を務めた人物で、本作が監督デビュー作となる。また、「Tiger Zinda Hai」を監督したアリー・アッバース・ザファルがプロデューサーである。

 主演ディルジート・ドーサンジの他に、ダイアナ・ペンティー、ボーマン・イーラーニー、ラトナー・パータク・シャー、チャンキー・パーンデーイ、バニター・サンドゥ、スミート・ヴャース、カシュミーラー・イーラーニー、ミカイル、アルジュン・タンワル、ムケーシュ・バット、アマヤー・ベルモンテなどが出演している。

 ハンガリーの首都ブダペスト在住の探偵シェールディル(ディルジート・ドーサンジ)は、ナターシャ(ダイアナ・ペンティー)やダニー(ミカイル)と共に、インド系実業家パンカジ・バッティー(ボーマン・イーラーニー)殺人事件を捜査することになる。とはいえ、パンカジを射殺した犯人ルカは既に逮捕されていた。

 シェールディルは、これは単なる殺人事件ではなく、動機が重要だと考える。そして、パンカジの遺族を外出禁止にし、捜査を開始する。パンカジの遺族は、妻ラージェーシュワリー(ラトナー・パータク・シャー)、長男アンガド(スミート・ヴャース)、その妻エリザベス、長女シャーンティ(バニター・サンドゥ)であった。また、彼の邸宅では、庭師ボーディー(チャンキー・パーンデーイ)、侍女ファラク(カシュミーラー・イーラーニー)、運転手ジャイパール(ムケーシュ・バット)が働き、飼い犬のラビットも住んでいた。パンカジの遺書では、彼の600億ユーロ相当の遺産の内、10%がラビットに、10%がボーディーに、そして残りの80%がプールヴァク(アルジュン・タンワル)に渡されることになっていた。プールヴァクとはシャーンティの恋人であった。パンカジ殺人事件の後、ジャイパールとプールヴァクは行方不明になっていた。

 シェールディルはルカの尋問によりまずはジャイパールを見つけ出す。ジャイパールはルカに拉致され監禁されていたとのことだったが、病院搬送後、彼は何者かに殺される。シェールディルはプールヴァクの行方を追い、彼の家を探し出すが、そのとき彼はパンカジの邸宅に侵入したところをアンガドたちに取り押さえられていた。プールヴァクは逮捕され、犯行を自白するが、彼はそれを疑っていた。また、シェールディルはボーディーから重要な情報を得る。バッティー家の人々が監禁状態にある中でジャイパールを誰が殺したのかも謎だったが、彼は侍女ファラクが関わったことを突き止める。そしてファラクの家でプールヴァクの妹キラン(アマヤー・ベルモンテ)を発見する。

 全てのピースがそろった。シェールディルは、癌になり、全財産を慈善団体に寄付しようとしたパンカジを、バッティー家の人々が結託して暗殺した事実を突き止める。彼らはファラクやジャイパールを丸め込み、スケープゴートとしてシャーンティの恋人プールヴァクを利用しようとする。プールヴァクはパンカジからシャーンティとの結婚を拒絶されていて彼に恨みを抱いていたが、パンカジはプールヴァクを認め、娘との結婚を許す。それに心を動かされたプールヴァクはパンカジに暗殺計画を暴露し、怒ったパンカジが彼らに詰め寄ったところ、シャーンティに射殺されたのだった。彼の遺体は自動車に乗せられ、雇われたルカが彼を襲撃したが、そのときには既に死んでいた。彼らは不法滞在者だったキランを拉致し、プールヴァクを再度犯人に仕立て上げようとした。

 こうして、バッティー家の人々は逮捕され、後にはプールヴァク、キラン、ボーディーだけが残された。

 裕福な実業家の家で起こった殺人事件を個性的な探偵が解決するという典型的な探偵映画である。殺害されたのは通信ビジネスを成功させ一代で財を成したパンカジ・バッティー、容疑者は妻や子を含むバッティー家の全員。それに加えてバッティー家で働く人々にも疑いの目が向けられる。実行犯は既に逮捕されていたが、黒幕は誰か、動機は何かを調べるのが主人公シェールディルの仕事になる。

 インドにおける国民的な探偵というと、シャラディンドゥ・バンディヨーパディヤーイが著したベンガル語の人気推理小説「Byomkesh Bakshi」シリーズ(1932-70年)の主人公ビョームケーシュ・バクシーが有名で、「Detective Byomkesh Bakshy!」(2015年)というヒンディー語映画にもなっている。おそらくシェールディルは、パンジャービーの探偵を生み出す目的で創出されたキャラであろう。ターバンをかぶり、髭を生やした典型的なサルダールジー・ルックであり、時々ハーモニカを吹き鳴らすことでアクセントを付けてある。舞台はハンガリーの首都ブダペストであり、物語はほとんどハンガリー在住のインド人社会で進行する。

 パンジャーブ人およびスィク教徒はインド人の中でも特に海外移民に積極的であるが、ハンガリーやブダペストにインド系移民が多い国や都市というイメージはなく、ましてやインド系の大富豪がいたり、スィク教徒が探偵をしたりしていることに現実感や信憑性があるわけではない。素直にパンジャーブ州を舞台にした方が良かったのではないかと感じた。

 とはいえ、パンジャービーの探偵というのは十分ユニークであり、現在パンジャーブ人アーティストとしてもっとも人気のあるディルジート・ドーサンジを起用した判断に間違いはないだろう。ただ、彼が歌を歌う場面は少なく、演技面で魅せているわけでもなかった。また、イマドキのスタイリッシュな編集にしようとした努力は見受けられるのだが外しており、逆にダサくなってしまっていた。監督がまだ未熟であるために力及ばなかったのだろうと予想した。

 このような探偵映画では、複数の容疑者の中で誰が真犯人なのか、観客もその推理に参加するのが楽しいものだ。だが、「Detective Sherdil」では容疑者のほぼ全員が犯人という反則技を使っていた。これでは元も子もない。結局、殺人の動機は遺産相続のゴタゴタであり、サプライズに乏しかった。

 「Detective Sherdil」は、パンジャービーの探偵を作り出そうとして企画された映画だと思われる。続編を匂わす終わり方でもあった。だが、監督の力が未熟で、魅力的な作品に仕上がっていなかった。ディルジート・ドーサンジの良さも出ていなかった。しょせん、OTTリリースの映画であり、過度の期待は禁物である。