Woh Bhi Din The

3.5
Woh Bhi Din The
「Woh Bhi Din The」

 2024年3月29日にZee5で配信開始された「Woh Bhi Din The(あんな日もあった)」は、イムティヤーズ・アリー監督の12歳年下の弟サージド・アリー監督が11年前に初めて撮った映画である。ただし、何らかの事情で公開されず、こうして時を経てOTTによって日の目を見た。サージド・アリー監督はその後、「Laila Majnu」(2018年)を撮り、こちらの方が先に公開されたため、形式上は「Laila Majnu」の方が彼の監督デビュー作に数えられている。

 主演はローヒト・サラーフとサンジャナー・サーンギー。ローヒトは「Vikram Vedha」(2022年/邦題:ヴィクラムとヴェーダ)にてシャタクを演じていた若手俳優である。サンジャナーは「Dil Bechara」(2020年)で注目を浴びた女優だ。2020年代を担う俳優たちに目されているが、「Woh Bhi Din The」撮影時にはどちらもまだ高校生であった。「The White Tiger」(2021年/邦題:ザ・ホワイトタイガー)で主演を務めたアーダルシュ・ゴウラヴが助演で出演しているのも注目される。

 他に、ズィーシャーン・カードリー、チャールー・ベーディー、ケーヴァル・アローラー、アシュウィン・マシュー、ガウラヴ・パラージュリー、ヴィヴェーク・クマール、ウッジャル・デーブナート、アヴィジョート・スィン、チャイタニヤ・ブーシャン、プラカル・シャルマーなどが出演している。また、ジョン・アブラハムが特別出演している。

 プロデューサー陣には、ジョン・アブラハムに加えて、「Vicky Donor」(2012年)などを監督したシュジト・サルカールの名前が見える。

 著名な写真家ラーフル・スィナー(ジョン・アブラハム)は久々にジャムシェードプルの母校ロヨヤスクールを訪れ、学生たちの前でスピーチをする。スピーチ中、私語をしていた4人の男子学生たちは罰を受けることになった。ラーフルは彼らに自分の学生時代の話をし出す。

 11年生に進学したラーフル(ローヒト・サラーフ)は、近所に住む同学年の女の子シャーリニー(チャールー・ベーディー)に片思いをし、彼女と何とか仲良くなろうとしていた。ラーフルの親友ジョイ(アーダルシュ・ゴウラヴ)はクラスメイトのミルキー(サンジャナー・サーンギー)と仲良くなる。ラーフルはミルキーを通じてシャーリニーと話すきっかけを作ろうとするが、実はラーフルはミルキーに好かれていることを知る。ラーフルはミルキーを意識し出す。そして遠足の日、ジョイが不参加の中、ラーフルとミルキーは恋仲になる。元々ジョイはミルキーについても彼女とは認めていなかった。遠足から帰ってきた後、ラーフルはジョイにミルキーに恋したことを伝え、ミルキーと付き合う許可をもらう。

 ラーフルは文化祭で演劇のリーダーをし、高い評価を受ける。その直後、自宅にシャーリニーが訪ねてくる。シャーリニーとは音楽の趣味が合い、意気投合する。ラーフルはシャーリニーとも付き合うようになる。それを見たジョイは彼に不信感を抱き出す。ラーフルは調子に乗るようになり、クラスの男子の間でも標的になる。とうとうラーフルはクラスの大半の生徒たちと対立してしまい、追い出されそうになる。だが、校長(ケーヴァル・アローラー)は敢えて彼をクラスに戻す。その後、ラーフルは孤独を好むようになり、勉強に集中するようになる。

 12年生の共通テストが近づいていた。地元でチンピラのボスをするダールー(ズィーシャーン・カードリー)はラーフルにリークされたテスト問題を売ろうとするが、ラーフルは断る。だが、ジョイを始め、クラスの男子たちはダールーからテスト問題を買っていた。テスト当日、ジョイたちが問題用紙を見てみると、ダールーから渡された問題とは全く違うことに気付いた。おかげで彼らの留年は決定した。それでもダールーから残金の支払いを求められ、金に困窮した彼らはラーフルとケンカになる。ラーフルが重傷を負ったために警察沙汰になるが、ラーフルは彼らの名前を明かさなかった。こうしてラーフルは彼らから恩人扱いされる。また、ラーフルはジョイと仲直りする。

 果たしてラーフルはシャーリニーと結婚したのか、ミルキーと結婚したのか。ラーフルは答えなかった。

 サージド・アリー監督は1983年、ジャムシェードプルに生まれた。ということは彼が高校生活を送ったのは1990年代末だったはずだ。現在、ジャムシェードプルはジャールカンド州の都市だが、ジャールカンド州は2000年にビハール州から分離独立した州であり、彼が高校生だった頃はまだビハール州に含まれていた。

 アリー監督の生い立ちは、この「Woh Bhi Din The」で描かれた物語とピッタリ一致する。時代は正に1990年代末であり、「Gupt」(1997年)が公開された後くらいだ。映画の主な舞台になるのはロヨラスクールというミッション系の学校だが、アリー監督が通ったのもこのロヨラスクールだったようだ。ということは、「Woh Bhi Din The」はアリー監督の自伝的映画だと捉えて差し支えないだろう。

 自身の思い出を映画化しただけあって、とてもピュアで甘酸っぱい映画だった。主人公ラーフルは、近所に住むシャーリニーに片思いしていたが、ずっと話しかけられずにいる。シャーリニーに近づくために、クラスメイトのミルキーと友達になるが、ミルキーから好意を寄せられているのを知り、彼女が気になり始めてしまう。ラーフルはミルキーを親友ジョイの彼女と勝手に認識していたが、そんなことも忘れてミルキーと恋仲になってしまう。ジョイも二人の関係を承認する。ミルキーと付き合い出した途端、今度はシャーリニーからアプローチを受けるようになり、ラーフルは二股を掛けるようになる。調子に乗りすぎたラーフルはジョイと仲違いし、クラスからも村八分になってしまう。

 そんな高校時代にありがちな人間関係のゴタゴタが、ドラマチックになり過ぎるのを抑えながら、誠意を持って描かれる。揺れる恋心、燃えあがる嫉妬、そして全てを水泡に帰する慢心など、青春時代に去来する心情のひとつひとつを丁寧に再現している。高校時代にしか味わうことのできないあの何ともいえない感情がこの映画には詰まっている。

 ラーフルが結局シャーリニーを選んだのか、ミルキーを選んだのかは、語られていない。もしかしたらどちらとも結婚しなかったという設定なのかもしれない。確かに高校時代に付き合っていた人と必ず結婚するわけではない。監督の自伝的映画ということもあって、その辺りは曖昧にしたとも考えられる。ロマンスの結末が見えないのでもどかしい気持ちはするが、敢えて結末を曖昧にする手法に斬新さも感じた。まるでスーパーファミコンのRPG「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(1992年)のようだ。

 物語の舞台となった1990年代末にはまだ携帯電話が普及しておらず、人々は固定電話で会話をしていた。恋人のいる高校生はそのことが親にばれないように電話をしなければならないので大変だ。そのドキドキ感も何だか懐かしい。高校生がスクーターで通学しているのには多少の驚きを感じた。ジャムシェードプルではこれが普通なのだろうか。試験問題のリークについても現実の話だと思われる。

 ローヒト・サラーフ、アーダルシュ・ゴウラヴ、サンジャナー・サーンギーの3人はこの頃からとてもいい演技をしていた。3人とも俳優としてまだ駆け出しの時期だっただろうが、それぞれ個性のある演技をしており、素晴らしかった。

 「Woh Bhi Din The」は、サージド・アリー監督が故郷ジャムシェードプルにて初めて撮影した映画だ。彼の監督デビュー作となるはずだったがお蔵入りになってしまい、11年の歳月を経てOTTプラットフォームで配信された。監督自身の高校時代を再現したような、誠実な青春映画である。起用された主要な俳優たちは現在注目株になっているが、まだ若いときでも光るものを持っていたことがよく分かる。観て損はない映画である。