
「Life In A… Metro」(2007年)は、「Barfi!」(2012年/邦題:バルフィ!人生に唄えば)などで有名なアヌラーグ・バス監督にとって出世作の一本になったオムニバス形式の都市型ロマンス映画であった。複数の登場人物がそれぞれ結婚や恋愛についての悩みに直面し、お互いに絡み合いながら、それぞれの目的地にたどり着くという、難しい筋書きの映画だったが、見事にまとめ上げ、興行的な成功も達成した。
あれから18年の月日が流れ、バス監督は「Life In A… Metro」と同じ手法でオムニバス形式のロマンス映画を送り出した。2025年7月4日公開の「Metro… In Dino(最近の都会)」である。主題や題名から続編ということもできるが、ストーリー上のつながりは全くなく、キャストの共通性もほぼない。ただし、音楽監督のプリータムは続投である。前作ではプリータムによる音楽が強烈なアイデンティティーになっており、彼自身もバンドを率いて映画中に度々登場し演奏を行っていたが、それが今作にも引き継がれている。
キャストは、アヌパム・ケール、ニーナー・グプター、シャーシュワタ・チャタルジー、コーンコナー・セーンシャルマー、パンカジ・トリパーティー、サーラー・アリー・カーン、アーディティヤ・ロイカプール、アリー・ファザル、ファーティマー・サナー・シェーク、プラナイ・パチャウリー、ダルシャナー・バニク、アハーナー・バス、ローハン・グルバクシャーニー、クシュ・ジョートワーニーなどが出演している。また、「Rockstar」(2011年)などで知られる映画監督イムティヤーズ・アリーがカメオ出演している。この中で前作にも出演していたのはコーンコナーのみである。
前作同様に登場人物が非常に多く、お互いに複雑に絡み合っているのだが、ストーリーの軸となるのは、60代の専業主婦シバーニー(ニーナー・グプター)、その長女カージョル(コーンコナー・セーンシャルマー)、次女チュムキー(サーラー・アリー・カーン)の女性3人だとすると分かりやすい。
シバーニーの夫はサンジーヴ(シャーシュワタ・チャタルジー)で、引退した弁護士であった。シバーニーには大学時代の恋人パリマル(アヌパム・ケール)がいた。パリマルは息子と孫を交通事故で亡くし、息子の妻ジヌク(ダルシャナー・バニク)と住んでいた。ジヌクは大学時代の友人ローハン(プラナイ・パチャウリー)からアプローチを受けていたが、死んだ夫の遺言により義父の世話を見なければならず、ローハンの愛を受け入れられずにいた。シバーニーとパリマルの元には同窓会の案内が届き、二人は久しぶりに再会する。
カージョルは会社員モンティー・スィソーディヤー(パンカジ・トリパーティー)と結婚し、2人の間には思春期の娘ピーフー(アハーナー・バス)がいた。モンティーは悪友の誘惑に乗ってデートアプリを始め、そこで出会った女性と不倫を始める。それを知ったカージョルは自分もデートアプリに登録し、モンティーのアカウントを見つけ出して、彼とアプリ上でチャットを始める。ピーフーは自分が同性愛者かもしれないと悩んでいた。
チュムキーにはアーナンド(クシュ・ジョートワーニー)という許嫁がいたが、ある日偶然、パールト・サハデーヴ(アーディティヤ・ロイカプール)という旅行ブロガーと出会う。パールトにはアーカーシュ・シュクラー(アリー・ファザル)という友人がいた。アーカーシュの妻はシュルティ(ファーティマー・サナー・シェーク)であった。アーカーシュはミュージシャンになる夢を諦めて会社員をしていたが、やはり夢を捨てきれず、会社を辞めて音楽の道に再挑戦する。シュルティは妊娠していたが、アーカーシュの夢を応援するため、堕胎し、仕事を始める。
「Your Own Story」のキャッチコピーが示す通り、各世代各者各様の人間関係が描写されるが、中心テーマになっていたのは「結婚とは何か」であった。特に、これから許嫁アーナンドと結婚しようとしていたチュムキーの視線から、結婚の理想と現実のギャップが映し出される。当初、チュムキーの目には、父母であるサンジーヴとシバーニー、姉夫婦であるモンティーとカージョルが理想的な結婚生活を送っているように見えていた。だが、サンジーヴが不倫をした過去が暴かれ、モンティーは今まさに不倫をしていたことが分かる。また、チュムキーの視線からは外れるが、40年以上前に恋愛関係にあったシバーニーとパリマルや、夢を追うアーカーシュと夫の夢のために子供を犠牲にしたシュルティのエピソードも語られる。最終的にチュムキーは、一緒にいて自分のことが好きになれる人と結婚すべきだという結論に至り、アーナンドを捨てて、これから別の女性と結婚しようとしていたパールトのところへ駆けつける。
さらに、これらの物語がインド各地の都市で繰り広げられる。デリー、コルカタ、ムンバイー、プネー、ベンガルール、ゴア、アンバーラー、シムラーなどの都市名や地名が登場し、各キャラクターたちが移動しながら、それぞれの関係を追求していく。
前作「Life In A… Metro」が公開された2007年は、ヒンディー語映画界でロマンス映画が全盛期を迎えていた。その後、2010年代に入るとアクション映画の時代に大転換し、次第に正統派ロマンス映画が隅に追いやられていった。だが、2025年はロマンス映画復権の年になりそうな予感がしている。この「Metro… In Dino」も、その原動力となりそうな一本だ。こういう直球のロマンス映画を久しぶりに観た気になった。さらに、「Life In A… Metro」の単純な焼き直しでもない。この18年の間に人々のコミュニケーションや人間関係がどのように変化したのかも反映されている。やはり一番の大きな違いはデートアプリやマッチングアプリだ。基本的には実直な男性だったモンティーは、悪友の入れ知恵によってデートアプリを始め、不倫をするようになってしまった。だが、その妻カージョルもデートアプリで夫のアカウントを見つけ出し、彼をハニートラップに掛けて復讐する。いかにも現代的なエピソードであった。
さまざまな人間関係が描かれる中で、解決されたものもあれば、解決されずに終わってしまったものもあった。必ずしも全てをハッピーエンディングで終わらせる必要もないので、これはこれでいいだろう。ただ、ひとつだけ気になったのは、パリマルとジヌクの関係である。ジヌクは夫の死後、義父であるパリマルの面倒を健気に見てきた。ジヌクにはローハンという大学時代の友人がアプローチをしてきていたが、ジヌクはそれを拒絶していた。その理由は、パリマルの面倒を見なければならなかったからだった。ジヌクの幸せを願うパリマルは、同窓会で再会したシバーニーに再婚相手を演じてもらい、同居を始め、ジヌクに嫌がらせを始める。とうとうジヌクはパリマルを捨ててローハンと共に旅出つ。ジヌクには、それがジヌクのためにパリマルが行った配慮だったことが分かっていない。それだけがかわいそうだった。
ベテラン俳優から中堅どころの俳優まで、バランスのいいキャスティングで、それぞれ自分の仕事をしっかりこなしていたといえる。キャストの中でこの企画によって特に磨かれたと感じたのはサーラー・アリー・カーンであった。サイフ・アリー・カーンの前妻の娘であり、2020年代を代表する女優になるべく着実にステップアップしているが、まだ業界内に自分のユニークなスペースを築けていないように感じる。だが、「Metro… In Dino」で彼女が演じたチュムキーは、決して完全無欠のヒロインではなく、むしろ弱点があり悩みもある等身大の現代女性であり、彼女からはいい意味でスターオーラが抜けていた。決して美人に見せようともしていなかった。それにとても好感が持てた。後で振り返って見たとき、「Metro… In Dino」は彼女のキャリアにとって重要な転機だったと評価されるのではなかろうか。
「Metro… In Dino」は近年のヒンディー語映画では珍しいくらいに多くの挿入歌で彩られた作品だった。しかも、西洋的なミュージカル仕立てになっており、歌でストーリー進行や説明が行われる場面がいくつかあった。アリジート・スィンの歌う「Zamaana Lage」、ラーガヴ・チャイタニヤの歌う「Dil Ka Kya」、19世紀の詩人モーミン・カーン・モーミンの有名なウルドゥー語詩を翻案した「Yaad」など、名曲も多い。
「Metro… In Dino」は、2007年にヒットしたオムニバス形式のロマンス映画「Life In A… Metro」の2025年版といえる作品だ。ロマンス映画全盛期だったあの頃の雰囲気そのままに、現代的な要素も入れた映画であり、アクション映画に食傷気味になっていたこともあって、久しぶりにいいロマンス映画を観た気分になった。音楽もとてもいい。必見の映画である。