Jaat

2.5
Jaat
「Jaat」

 2025年4月10日公開の「Jaat」は、「Jawan」(2023年/邦題:JAWAN/ジャワーン)の成功を機に本格化した南北コラボ映画の最新例で、南インドの映画監督が撮ったオリジナルのヒンディー語アクション映画である。従来、南インドの映画監督がヒンディー語映画界に進出する際は南インドのヒット作をリメイクすることが多かったが、アトリー監督はシャールク・カーンを主演にオリジナルの脚本で「Jawan」を撮り大ヒットさせた。しかも、スタッフの多くは南インドから連れて行った。「Jaat」はほぼその手法を踏襲して作られた作品である。

 監督は「Veera Simha Reddy」(2023年)などのゴーピーチャンド・マリネーニ。テルグ語映画界で活躍してきた、アクション映画を得意とする監督である。今回、初めてヒンディー語映画を撮った。音楽はタマンS。

 主演はサニー・デーオール。「Gadar: Ek Prem Katha」(2001年)で有名なヒンディー語映画界のアクションスターだが、2000年代にヒンディー語映画界がアクション映画を積極的に作らなくなったことで活躍の場を失い、低迷期が続いた。だが、2010年代に入り、テルグ語映画などの影響でヒンディー語映画界もアクション映画に回帰したことで、サニーの時代がやって来た。それでもすぐにはヒット作に恵まれなかったが、「Gadar」の続編Gadar 2」(2023年)に主演し、大ヒットさせたことでようやくスターの座に返り咲いた。「Jaat」の主演をオファーされたのも「Gadar 2」の成功があったからであろう。

 悪役は「Swatantrya Veer Savarkar」(2024年)などのランディープ・フッダー。やはりヒンディー語映画界で活躍する俳優だが、正統派スターというよりはニッチな役柄を演じる渋い立ち位置にいる。準悪役を演じていたのは、「Mukkabaaz」(2018年)や「Superboys of Malegaon」(2024年/邦題:マレガオンのスーパーボーイズ)などに出演の曲者俳優ヴィニート・クマール・スィンである。カメオ出演扱いであるが、「Animal」(2023年)などに出演していたこれまた曲者俳優ウペーンドラ・リマエーもいた。

 また、ヒロイン扱いなのが「Ghoomer」(2023年)などのサイヤミー・ケールである。体格がよく、肉体派女優に数えられる。それに加えてウルヴァシー・ラウテーラーがアイテムソング「Touch Kiya (Sorry Bol)」にアイテムガール出演していた。

 ここまではヒンディー語映画の俳優たちだが、それ以外は南インドを拠点とする俳優たちが起用されている。レジナ・カサンドラ、ジャガパティ・バーブー、ラミヤー・クリシュナン、ザリーナー・ワハーブ、アジャイ・ゴーシュ、ムラリー・シャルマーなどである。

 題名になっている「ジャート」とは、パンジャーブ地方一帯で権勢を誇る農民コミュニティーのことである。インド陸軍には「ジャート連隊」という英領時代から続く歩兵部隊があり、その名の通り、ヒンドゥー教徒やスィク教徒のジャートによって構成されている。この連隊も映画の内容に関わってくる。

 アーンドラ・プラデーシュ州の沿岸地域にあるモートゥーパッリ村は、スリランカから大量の金塊と共に密入国し、この地域に瞬く間に犯罪帝国を築き上げたラーナートゥンガー(ランディープ・フッダー)によって支配されていた。この辺りからウランの代替物質トリウムが発見され、国際テロリストに狙われていた。ラーナートゥンガーは国際テロリストと取引をし、2,500億ルピーの大金と引き換えにモートゥーパッリ村を含む沿岸部一帯の村々を売り渡そうとしていた。モートゥーパッリ村に住む10人の若者がそれに反対の声を上げたが、無残に殺されてしまった。だが、少女が大統領に手紙を書いたことで、中央情報局(CBI)のサティヤ・ムールティ(ジャガパティ・バーブー)が派遣されることになった。

 ちょうどサティヤがアーンドラ・プラデーシュ州入りする頃、ジャートを名乗る謎の男(サニー・デーオール)がたまたまこの地域を訪れていた。ジャートは地元のゴロツキと衝突し、ぶちのめした後、彼のボスに会いに行く。それは政治家ラーマ・スッバ・レッディー(アジャイ・ゴーシュ)であった。ジャートはレッディーもぶちのめすが、今度は彼はソームルー(ヴィニート・クマール・スィン)の名前を挙げたので、彼に会いに行く。そしてソームルーもぶちのめすが、彼の兄がラーナートゥンガーであった。

 同じ頃、10人の若者が殺害された事件を捜査していた警察官ヴィジャヤラクシュミー警部補(サイヤミー・ケール)が女性警官を引き連れてラーナートゥンガーの邸宅に踏み込んでいた。だが、ラーナートゥンガーの妻バーラティー(レジナ・カサンドラ)に捕らえられ、悪党たちから凌辱を受けていた。ジャートは彼女たちを救い出す。

 ジャートとヴィジャヤラクシュミー警部補たちは追っ手から逃れとある村に足を踏み入れる。その村には一人の老婆を除き誰もいなかった。ジャートは老婆からラーナートゥンガーの悪行を聞き、正義感に燃える。ジャートは警察署を訪れ、ラーナートゥンガーと結託して村人たちを抑圧する警察官をぶちのめす。いったんは捕まってしまい、連絡を受けたソームルーがやって来るが、ジャートはソームルーをはじめとした悪党たちや悪徳警察官たちを血祭りに上げる。

 ジャートは実はジャート連隊所属のバルデーヴ・プラタープ・スィン准将であった。バルデーヴ准将は、港で国際マフィアに土地を売り渡そうとしていたラーナートゥンガーに襲い掛かり、彼を殺す。

 「Jaat」という題名はパンジャーブ州やハリヤーナー州を想起させるため、サニー・デーオールがその辺りの地域で大暴れするアクション映画を予想していた。だが、意外にも映画は2009年のスリランカから始まり、大部分はアーンドラ・プラデーシュ州沿岸地域が舞台になる。サニー・デーオールなどが出演しているため、見た目はヒンディー語映画であるが、実際にはテルグ語映画の特徴が色濃くでている作品である。極端なことをいえば、「Jaat」は単に主要登場人物をヒンディー語映画俳優に演じさせただけで、本質的にはテルグ語映画だ。

 最近では珍しいほどシンプルなアクション映画であり、基本的にはアクションシーンの連続で物語が進行していく。サニーの代名詞は「2.5kgの手」。これは怪力を意味し、彼の主演作品ではとにかく彼の怪力ぶりが強調される。「Gadar」でサニーは水ポンプを引っこ抜いて武器にしたが、それに似たシーンがいくつも用意され、ちゃんとファンサービスがされていた。とにかく彼の手に触れられた者は物理法則を無視した吹っ飛び方をするのである。

 テルグ語映画はインド映画の中でもっとも過激な暴力描写で知られるが、テルグ語映画譲りの残虐シーンが「Jaat」には目白押しだった。冒頭には親指を自ら切り落とすシーンがあるが、これはまだ序ノ口だ。2時間半の上映時間の中で数え切れないほどの人々の首がポンポン飛んでいく。首狩り族かと思うほどだ。これほど過激な暴力シーンはヒンディー語映画では珍しい。また、結末にも非暴力主義は微塵もなく、悪者が無残に殺されることによって一件落着となる。分かりやすいといえば分かりやすい。

 映画が発信するメッセージは「女性を尊敬しよう」であったが、実際には女性に対する暴力もかなり赤裸々に描かれており、逆効果に思えるほどであった。サイヤミー・ケール演じるヴィジャヤラクシュミー警部補は威勢良く悪役ラーナートゥンガーの邸宅に踏み込むが、制服を破られて裸にさせられ、監禁される。もちろん、監禁中は性奴隷にさせられた。

 あきれるほどシンプルな筋書きの、主にアクションシーンと暴力シーンで構成された映画で、これを古風と呼べばいいのかテルグ語映画的と呼べばいいのか迷うが、サニー・デーオールとは相性のいい映画だったことは確かだ。彼は繊細な演技もできる俳優なのだが、あまりにアクションスターのイメージが強すぎるため、そういう役ばかりになってしまった。本人は不本意なのかもしれないが、「Jaat」を観て改めて、やはり彼が一番輝くのがアクション映画だと感じた。近年あまり映画に出演していなかったが、彼が露出を抑えていた時期はヒンディー語映画の低迷期とも重なるが、それが逆に功を奏しているかもしれない。古き良きヒンディー語映画を思い起こさせる存在として再評価されているところがあり、「Gadar 2」の大ヒットによって再びスポットライトが当たった。「Jaat」もヒットしたため、彼の運気はここに来て急上昇中である。人生何があるか分からないものだ。

 「Jaat」は、ヒンディー語映画スターが主演するヒンディー語の映画ではあるが、それは体裁だけで、実質的には、監督、特徴、舞台、暴力描写など、あらゆる面からテルグ語映画だといえる。あまりにシンプルすぎるために高く評価はできないが、長らく低迷していたサニーが「Gadar 2」に続いてヒット作を飛ばした意義は小さくない。今後のヒンディー語映画のトレンドに少なからぬ影響を与える可能性がある。