Dil Dosti Aur Dogs

4.0
Dil Dosti Aur Dogs
「Dil Dosti Aur Dogs」

 2025年2月28日からJioHotstarで配信開始された「Dil Dosti Aur Dogs(心、友情、そして犬)」は、最近インドでにわかに盛り上がりつつある動物映画のひとつである。題名が示す通り、動物の中でも犬に特化したワンちゃん映画だ。「Dil Dosti・・・」という題名を見ると「Dil Dosti Etc」(2007年)という映画を思い出してしまうが、ウェブドラマ「Dil Dosti Dilemma」(2024年)から来ているかもしれない。

 監督はヴィラル・シャー。過去に数本の映画を監督しているが未見である。キャストは、ニーナー・グプター、ティーヌー・アーナンド、クナール・ロイ・カプール、マウスミー・マキージャー、シャラド・ケールカル、キールティ・ガーエクワード・ケールカル、エーハーン・バット、トリダー・チャウダリー、クリサン・バレットなどである。

 舞台はゴア。サンジャイ(シャラド・ケールカル)は、ニーリマー(キールティ・ガーエクワード・ケールカル)の再婚相手になるが、連れ子のルーヒーから嫌われていた。ルーヒーは飼い犬のキーモンをとてもかわいがっていたが、ある日教会でキーモンとはぐれてしまう。サンジャイはルーヒーのためにキーモンを探し回るが見つからない。警察によると、最近高級な犬を連れ去るマフィアがいるらしい。キーモンもマフィアに連れ去られた可能性があった。それでもサンジャイは諦めずキーモンを探し続ける。

 レストランを開くのが夢だったサニー(エーハーン・バット)は恋人シャナーヤー(クリサン・バレット)の父親から出資を受け、「サニーズ・サイド・アップ」をオープンさせる。レストランの前にはレベッカ(トリダー・チャウダリー)という女性が犬の飼育場を運営しており、時々犬が脱走した。レストランのオープン日にも犬が脱走し、サニーのレストランに侵入した。サニーは幼い頃のトラウマから大の犬嫌いであり、公衆の面前で犬に暴力を振るってしまう。その様子がSNSで拡散されて炎上し、レストランには人が来なくなってしまう。シャナーヤーに派遣されたマーケティング専門家はサニーに、犬好きをアピールすることで汚名返上するように助言する。そこでサニーはレベッカのところへ相談に行く。最初はつっけんどんだったレベッカも、サニーが真剣に犬嫌いを克服しようとしているのを見て考えを変える。サニーはレベッカの飼育場にいたロケットという犬と仲良くなる。

 作家のアルジュン(クナール・ロイ・カプール)とヨーガ・インストラクターのエークター(マウスミー・マキージャー)は流産を機に離婚の危機を迎えていた。カウンセラー(ティーヌー・アーナンド)の助言により関係改善のために犬を飼うことにする。彼らはレベッカの飼育場に行き、フィービーという犬をもらい受ける。フィービーが来たことで二人の生活には彩りが生まれるが、それでも不仲を克服するのは難しかった。アルジュンとエークターは別居し、交代でフィービーの面倒を見ることになる。

 ローレンス・ベサニー・マーガレット(ニーナー・グプター)は大きな屋敷に一人で住む孤独な女性だった。毎日飲んだくれており、近所の子供たちから恐れられていた。ローレンスは元々画家であったが、20年前に男にだまされ、以来酒浸りの毎日を送っていたのだった。ローレンス邸の近くには野良犬がいたが、保健所に連れて行かれそうになっていたのを見て同情し、その犬を飼うことにする。ローレンスはその犬をモーティーと名付ける。モーティーと暮らす内に絵への情熱も戻ってくるが、既にモーティーは老齢になっており、ある日動かなくなってしまった。ローレンスはモーティーの最期の看取る。

 アルジュンとエークターが別居を始めてしばらく経った後、フィービーの調子が悪くなり獣医の診察を受ける。そこでフィービーの妊娠が発覚する。それはモーティーとの間に出来た子供だった。流産のトラウマをフィービーが癒やしてくれた。

 ロケットのおかげで犬好きになったサニーは、犬をテーマにしてレストランを盛り返し、SNSでも大人気になる。それを見てシャナーヤーは、レベッカの飼育場の土地にホテルも建てることを決める。シャナーヤーはレベッカにいくらかの補償金を渡して追い出そうとする。レベッカはサニーが自分とロケットを利用したと考え怒る。サニーは、ロケットを冷遇するシャナーヤーの態度に我慢ならず、彼女とは縁を切ることにする。そして、レベッカが飼育している犬たちのもらい手を探すためにフェアを開催する。サニーはサンジャイがキーモンを探していることを知り、フェアを使ってマフィアを誘き寄せることを提案する。マフィアはまんまとおびき出され、警察の追跡を受けて、とうとうアジトの場所が分かる。そこには多くの犬が捕らわれていた。その中にキーモンもおり、ルーヒーはキーモンと再会する。また、ルーヒーはサンジャイを初めて父親と認める。

 モーティーを亡くしたローレンスは、レベッカが犬の飼育場の移転先を探しているのを知り、自分の屋敷を提供する。数ヶ月後、フィービーは子犬を産む。アルジュンとエークターはその内の一匹をローレンスに譲る。サニーはレベッカにプロポーズする。

 よく訓練された犬たちが前面に押し出された映画であり、インド映画史上最大のワンちゃん映画だと評することができる。犬好きにはたまらない映画だ。絶対に犬好きの映画メーカーが作っている。冒頭のナレーションでも、これは「人間と犬の愛の物語」だと宣言される。

 だが、「Dil Dosti Aur Dogs」は人間と犬の強い絆だけにフォーカスした映画ではない。むしろ、犬を介して人間たちが結び付いていく物語であった。主に4つのエピソードから成る。離婚危機を迎えた夫婦サンジャイとエークター、犬嫌いのサニーと犬の飼育場を運営するレベッカ、連れ子の少女ルーヒーとの関係構築に悩むサンジャイ、そして過去に男にだまされたことを引きずる初老女性ローレンスである。それぞれが何らかの問題を抱えており、その問題解決に犬が多大な貢献をする。サンジャイのエピソードだけは、元々飼っていた犬がいなくなり、それを探す物語になるが、それ以外ではそれぞれの事情から犬を飼い始める。サンジャイとエークターはセラピーのために犬を飼い始め、サニーはレストランの人気アップのために犬を飼い始め、ローレンスは気まぐれから犬を飼い始める。犬がやって来たことで彼らの生活には潤いが生まれ、心が癒やされていく。

 サニーとレベッカは、犬を通じて恋愛を成就させる。当初レベッカはサニーを疑っており、簡単にはロケットを渡そうとしなかった。そこでサニーは飼育場に足しげく通い、ロケットと親交を深めながらレベッカとも接近していく。レベッカがサニーをロケットの飼い主だと認めたとき、レベッカはサニーを主語にしてサニーのことが好きになったと語っていた。その後、サニーの恋人シャナーヤーが登場することで二人の関係はこじれるが、サニーは裕福なシャナーヤーを捨てレベッカを選ぶ。そして、やはりロケットを主語にして、その行動の動機を、ロケットを愛しているからと言う。まさにロケットを介して二人は愛を確かめ合ったのだった。最初は反発しあっていた二人が後にくっ付くという展開は恋愛映画のお約束だが、そこに犬が入ることで、微笑ましく見ていられるものになるから不思議である。

 アルジュンとエークターは既に夫婦であるが、流産をきっかけに夫婦仲が冷え、離婚危機を迎えていた。おそらく単なる流産ではなく、エークターは妊娠できない身体になってしまったのだと思われる。それがエークターを追いつめ、アルジュンと素直に関係を構築できない理由になっていた。彼らはカウンセラーの助言に従って犬を飼い始める。犬の存在が彼らを仲睦まじくさせることはなかったが、犬が妊娠したことでエークターはトラウマを克服することができた。

 サンジャイとルーヒーの関係はもっと複雑だ。ルーヒーは実の父親を亡くしており、母親の再婚相手であるサンジャイを父親だと認めていなかった。サンジャイは何とかルーヒーに父親だと認めてもらおうとする。そのきっかけになったのが、ルーヒーがかわいがっていた愛犬キーモンの失踪であった。サンジャイはルーヒーに必ず見つけ出すと約束し、ゴア中を駆け回って犬を探す。どうやらキーモンは犬の誘拐を専門とするマフィアに連れ去られた可能性が高かった。幼いルーヒーも次第に事態を理解し始め、もうキーモンは戻って来ないと受け入れようとする。それでもサンジャイは諦めなかった。そんな頑ななサンジャイの姿を見てルーヒーは態度を軟化させていく。最終的にルーヒーはキーモンと涙の再会を果たすが、それはサンジャイを父親として認めた瞬間でもあった。サンジャイのうれしそうな顔が印象的だった。

 ローレンスは、男にだまされた過去を引きずる偏屈な初老女性であった。幸せな時代には画家として活躍していたが、だまされたことをきっかけに絵描きを止め、飲んだくれていた。だが、野良犬だったモーティーを飼い始めたことで話し相手ができ、彼女の偏屈な態度も改善していった。再び筆を取れたのもモーティーのおかげだった。この辺りは「777 Charlie」(2022年/邦題:チャーリー)とも共通している。残念ながらモーティーは既に高齢の犬で、ある日動かなくなり、そのまま老衰で死んでしまう。だが、今回の別れはローレンスを酒に向かわせなかった。彼女はレベッカが飼育していた犬を引き取ることを決める。

 こうして犬を通して全ての登場人物が結びつけられ、最後はローレンスの広い邸宅に数々の犬たちが集合している様子が映し出される。まるで犬の楽園のようだった。そこでは人間と犬が仲良く暮らしていた以上に人間と人間が幸せな関係を築いていた。「人間の最高の友達」と呼ばれる犬は、人間を人間らしくしてくれる存在でもある。生活に犬が入ることで人間は完成される。そんなメッセージが発信されていた映画だった。

 演技面ではニーナー・グプターとシャラド・ケールカルに最高点が付くだろうが、若いエーハーン・バットとトリダー・チャウダリーも良かった。エーハーンは「99 Songs」(2019年)や「Dange」(2024年)などに出演していた男優であるが、まだブレイクはしていない。作品に恵まれればもっと伸びる可能性はある。トリダーはベンガル語映画からキャリアをスタートさせており、南インド映画にも出演している。ウェブドラマ「Aashram」(2020年)などにも出演歴はあるが、ヒンディー語の長編映画に出演したのはこれが初である。今後注目していきたい女優だ。

 「Dil Dosti Aur Dogs」は、最近ジャンル化が進みつつある動物映画の一種であり、インド映画史上最大のワンちゃん映画でもある。「777 Charlie」が一匹の犬にフォーカスしていたのに対し、こちらは複数の犬が複数の人間たちの人生に影響を与える物語だ。そして、犬を前面に押し出しながらも人間の物語としてコンパクトにまとまっている点が高く評価できる。犬好きには特におすすめしたい映画である。