
2024年11月24日にインド国際映画祭でプレミア上映され、2025年12月12日からZee5で配信開始された「Saali Mohabbat(くそくらえの愛)」は、旦那に浮気をされた主婦がアッと驚く手法を使って復讐をするサスペンス映画である。
監督はティスカ・チョープラー。1990年代からヒンディー語映画界で活躍する女優で、短編映画「Rubaru」(2020年)で監督デビューを果たしたが、長編映画を撮るのは今回が初である。他に、ディヴィエーンドゥ、アヌラーグ・カシヤプ、アンシュマーン・プシュカル、サウラーセーニー・マイトラー、シャラト・サクセーナーなどが出演している。
カヴィター(ラーディカー・アープテー)は夫ヴィッキーを連れて参加したパーティーで、夫の浮気を発見する。カヴィターは取り乱さず、集まった参加者の前で、フルサトガンジに住むスミター(ラーディカー・アープテー)の話を始める。
スミターは、夫パンカジ・ティワーリー(アンシュマーン・プシュカル)と住む主婦だった。園芸が趣味で、近所に住む庭師(シャラト・サクセーナー)と一緒に庭の植木の世話をしていた。あるとき、スミターの姪シャーリニー・サクセーナー(サウラセーニー・マイトラー)がフルサトガンジで就職し、スミターの家に居候することになる。スミターはシャーリニーを歓迎する。パンカジはシャーリニーを気に入り、彼女に優しく接する内に肉体関係になる。スミターは夫の不倫に気付くが、特に何も行動を起こさなかった。
ところでパンカジはマフィアのガジェーンドラ(アヌラーグ・カシヤプ)に300万ルピー近くの借金をしていた。パンカジは、スミターが父親から相続したムラーダーバードの家と土地を売って借金を返済しようとするがスミターは承諾しなかった。ガジェーンドラはその土地に目を付け、パンカジに、その不動産を高額で買い取り、借金も帳消しにすると提案する。ますますパンカジはモラーダーバードの家と土地の売却に執着するようになる。
とうとうパンカジはガジェーンドラと結託してスミターを暗殺することにする。だが、殺されたのは、たまたま刺客が来たときに家にいたシャーリニーの方だった。しかも、パンカジの遺体も転がっていた。この殺人事件を担当することになった警官がラタン・パンディト(ディヴィエーンドゥ)であった。
実はラタンは生前のシャーリニーに会っており、デートもしていた。ラタンは、表向きは強盗殺人にして事件を終わらせるが、個人的に捜査を続け、スミターの犯行だと断定する。また、ラタンはスミターの名義になっているモラーダーバードの不動産も確認しに行く。その土地は大手開発業者の開発対象になっており、巨額の立ち退き料を引き出せる可能性があった。ラタンはスミターに会いに行き、モラーダーバードの不動産をよこすように要求する。スミターはそれを了承する。
スミターは不動産譲渡契約に署名しラタンに渡す。だが、ラタンはその瞬間麻痺してしまう。スミターは書類にトリカブトの毒を塗っていたのだ。動けなくなったラタンを庭師が運んで川に捨てた。スミターは家を売却し、フルサトガンジから立ち去った。
カヴィターのその話を聞いてヴィッキーは恐ろしくなる。なぜならヴィッキーは、スミターがカヴィターであることに気付いていたからである。帰宅したカヴィターを庭師が訪ねてくる。彼はトリカブトをカヴィターに渡す。
無力だと思われた主婦が、浮気をした夫とその浮気相手に対して、静かだが恐ろしい復讐をする筋書きである。ポイントとなるのは、主人公カヴィター/スミターが植物に詳しいことだ。彼女はさまざまな植物の特徴を知り尽くしていたが、その中には人体に毒となる成分を持つ植物の知識もあった。カヴィター/スミターはそれを使って自分を裏切った人々を葬り去っていったのである。
カヴィター/スミターの本性は終盤に明かされるが、それを解明していくのがラタンの役目になる。ただ、通常のサスペンス映画とは異なり、ラタンが小さな手掛かりから真犯人を特定していく過程はそれほど時間を掛けて描かれておらず、重視されていない。そもそも、スミターがシャーリニーとパンカジの殺害に関わったのではないかということは、物語をじっくり観察していれば予想できたことだ。むしろ興味を引くのは、単なるか弱い主婦に見えたスミターがどのようにしてシャーリニーとパンカジを殺したのかという方法論である。
その伏線も張られていた。カヴィターが語るスミターの人物像には植物好きという項目があり、それがヒントになっていた。スミターは、家の庭で育てていた植物からシャーリニーに腹痛を起こす成分を抜き出し、彼女に食べさせ、仕事から早退するように仕向けていた。それが結果的に彼女に死を招いた。さらに、スミターの本性を暴き、脅しを掛けてきていたラタンにもトリカブトの毒を舐めさせ、彼を麻痺状態にさせた。スミターの夫パンカジには喘息の症状が出ていたが、それももしかしたらスミターの仕業だったのかもしれない。
総じて、一見大人しげな女性に秘められた危険性を見せることで、男性に対して浮気を戒める教条的な映画になっていた。ついついティスカ・チョープラー監督の個人的な思い入れがある作品なのではないかと疑ってしまう。
主演ラーディカー・アープテーは、抑圧された弱い女性像であっても、主体的に行動する強い女性像であっても、どちらも演じることのできる懐の広い女優だ。適任だったと感じる。ディヴィエーンドゥは、悪徳警察官にしては押しが足らない気がしたが、毒を摂取して麻痺する演技など、一定の実力のある俳優でなければ演じきれなかったところがあり、彼が起用されたことに納得した。「Dev. D」(2009年)や「Gangs of Wasseypur 」シリーズ(2012年/Part 1・Part 2)などで知られるアヌラーグ・カシヤプは時々演技もしているが、エキセントリックな役柄を任されることが多い。今回もユーモラスな悪役を鬼気迫る演技で演じていた。
「Saali Mohabbat」は、女優業から近年監督業に進出したティスカ・チョープラーが初めて撮った長編映画である。サスペンス映画の体裁ではあるが、浮気性の男性に対する警鐘を含む内容になっており、いかにも女性監督が好んで作りそうな作品だ。キャスティングが良く、ストーリーも意外なところにサスペンス性を設けており、最後までグリップ力のある真っ当な娯楽作になっている。チョープラー監督の今後が楽しみである。
