Bhool Bhulaiyaa 3

4.0
Bhool Bhulaiyaa 3
「Bhool Bhulaiyaa 3」

 2024年11月1日公開の「Bhool Bhulaiyaa 3」は、「Bhool Bhulaiyaa」(2007年)、「Bhool Bhulaiyaa 2」(2022年)に続く「Bhool Bhulaiyaa」シリーズの第3作である。元々はマラヤラーム語映画「Manichitrathazhu」(1993年)やタミル語映画「Chandramukhi」(2005年/邦題:チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター)のヒンディー語リメイクであったが、「Bhool Bhulaiyaa 2」から独立したシリーズになっている。近年、ヒンディー語映画界で流行しているホラーコメディーの一種であり、このシリーズはその走りだといえる。

 このシリーズのスタッフとキャストは多少複雑である。まず、プロデューサーは3作ともTシリーズ社のブーシャン・クマール社長が務めている。第1作の監督はプリヤダルシャンだったが、第2作と第3作はアニース・バズミーが監督をしている。プリヤダルシャン監督もバズミー監督も「コメディーの帝王」として知られる映画監督である。

 さらに、キャストの観点から見ても第1作と第2・3作の間には断絶がある。第1作の主演はアクシャイ・クマールだったが、第2・3作ではカールティク・アーリヤンにバトンタッチしている。ヒロインは、第1作ではヴィディヤー・バーランとアミーシャー・パテール、第2作ではキヤーラー・アードヴァーニーとタブーであったが、第3作ではトリプティ・ディムリー、ヴィディヤー・バーラン、マードゥリー・ディークシトの3人体制となっている。この中でヴィディヤーについてはこのシリーズへの復帰になるが、第1作で演じた役との関係性はないと考えていい。

 他に、ヴィジャイ・ラーズ、ラージパール・ヤーダヴ、サンジャイ・ミシュラー、アシュウィニー・カルセーカル、ラージェーシュ・シャルマー、マニーシュ・ワードワー、シャターフ・フィガル、デンジル・スミス、カンチャン・マリクなどが出演している。この中でラージパールは唯一3作とも出演の皆勤賞俳優である。全3作でチョーテー・パンディトという役を演じている。

 1824年、ベンガル地方にある架空の王国ラクトガート王国のスブロト王(デンジル・スミス)の娘マンジュリカー姫は野心家であり、王座を狙っていた。だが、弟のデーベーンドラナート王子(カールティク・アーリヤン)が後継者に指名されたことで憤り、デーベーンドラナート王子を暗殺した。それを知ったスブロト王はマンジュリカー姫を焼き殺した。マンジュリカー姫は亡霊となってスブロト王を殺した。そこで宮廷僧侶ラージプローヒトは聖油を用いてマンジュリカー姫を宮殿の一室に封印する。

 それから200年後のコルカタ。ルハーン・ランダーワー(カールティク・アーリヤン)は「ルーフ・バーバー」を名乗る偽霊媒師で、幽霊を使って人々を脅し、金品を巻き上げていた。あるときルハーンは王族に呼ばれる。だが、ミーラー姫(トリプティ・ディムリー)とその叔父(ラージェーシュ・シャルマー)に詐欺を見抜かれ、証拠の動画も撮られてしまう。ルハーンはその動画を使って脅され、彼らに協力することになる。報酬は1億ルピーとのことだった。

 ルハーンはミーラー姫たちに連れられてラクトガートへ行く。そこには大きな宮殿があったが、王のラージャー・サーヒブ(ヴィジャイ・ラーズ)とその家族は牛舎に住んでいた。なぜなら宮殿にはマンジュリカー姫の幽霊が封印されているからだった。ラージプローヒト(マニーシュ・ワードワー)が先祖代々受け継いでいる予言では、ドゥルガーシュトミー祭の日に王族の生まれ変わりが現れ、マンジュリカー姫の亡霊を退治するとのことだった。ルハーンの顔は200年前に死んだデーベーンドラナート王子の肖像画にそっくりだった。

 ルハーンの後に宮殿には2人の女性がやって来る。一人は文化財修復技術者のマッリカー(ヴィディヤー・バーラン)、もう一人はスーリヤガル王国のマンディラー・デーヴィー王女(マードゥリー・ディークシト)だった。マッリカーは宮殿を修復するため、マンディラーは宮殿を購入するために来ており、しばらく宮殿に滞在することになった。ルハーンはミーラー姫と恋仲になり、二人の結婚が決まるが、彼らはマッリカーとマンディラーが来てから宮殿に異変が起き始めたと考えるようになる。ミーラー姫はマッリカーがマンジュリカー姫の亡霊だと予想し、ルハーンはマンディラーがマンジュリカー姫の亡霊だと予想する。また、マンジュリカー姫には双子の姉アンジュリカー姫がいたことも分かる。

 だが、実は宮殿に封印されていたのはマンジュリカー姫の亡霊ではなかった。200年前、王位継承者となったデーベーンドラナート王子は、マンジュリカー姫とアンジュリカー姫に確かに殺されそうになっていた。だが、彼女たちはデーベーンドラナート王子が女装している姿を目撃してしまう。二人は彼を王位から追い落とすために彼の性別不合を利用することにする。デーベーンドラナート王子が女装をして踊っていると聞いたスブロト王は彼を焼き殺してしまう。だが、陰謀を働いたマンジュリカー姫とアンジュリカー姫についても許さず、デーベーンドラナート王子殺害の罪はマンジュリカー姫になすりつけられ、アンジュリカー姫は歴史から抹消されて、二人とも追放刑となった。

 デーベーンドラナート王子の亡霊は、時にマッリカーに取りつき、時にマンディラーに取りつき、さらにはミーラー姫に取りついて、怪奇現象を起こしていたのだった。マッリカーはマンジュリカー姫の生まれ変わり、マンディラーはアンジュリカー姫の生まれ変わりだった。デーベーンドラナート王子の亡霊はマッリカー、マンディラー、ルハーンを殺そうとする。だが、ルハーンはデーベーンドラナート王子の動きを封じることに成功する。マッリカーとマンディラーはデーベーンドラナート王子を退治するチャンスを得るが、二人はあえてそうせず、彼の性別不合を理解してあげられなかったことを謝罪する。謝罪を受けたデーベーンドラナート王子の亡霊は解脱する。

 全てが解決した後、マンディラーは実は自分はラートール警部だと正体を明かす。ラートール警部はルハーンの詐欺を捜査してラクトガートまで来ていたのだった。

 まず、インド映画が得意とする輪廻転生系の映画だった。200年前に殺されたデーベーンドラナート王子の生まれ変わりだと特定された主人公ルハーンは、ラクトガートに連れて行かれ、宮殿に封印されたマンジュリカーの亡霊退治を依頼される。

 味付けは近年ヒンディー語映画で非常に勢いのあるホラーコメディーである。ホラーシーンもあるのだが、観客を心底から怖がらせないように工夫しており、コメディータッチを加えて、全体としては明るい映画に仕上げている。インド人観客の琴線に触れる絶妙なバランスである。

 終盤になるとマンジュリカー、アンジュリカー、マッリカー、マンディラーとキャラが乱立する。誰が真のマンジュリカーなのかというサスペンスを生み出したかったのだろうが、あまりにごちゃごちゃしすぎていて失敗しているように感じた。ところがクライマックスでまさかの展開があり、全てがきれいに収まった。このまとめ方にはうならされた。また、亡霊を退治するのではなく、謝罪によって解脱させるという終わり方は、インドが誇る非暴力主義(参照)を想起させるものであった。暴力的な結末よりも感動的な結末の方がヒンディー語圏の観客には合っている。

 ごちゃごちゃし始めた筋書きを一気にまとめてしまった要素はLGBTQだ。これも最近よく取り上げられるテーマである。この展開は予想しておらず、いい意味で裏切られた。基本的にはコメディー映画であるが、性別不合を抱える人の悩みを理解しようとする前向きなメッセージが発信されており、啓蒙にもつながっている。

 キャストも豪華である。まず何といってもマードゥリー・ディークシトとヴィディヤー・バーランである。二人とも「往年の女優」と呼ばれる年齢にはなっているが、全く年を感じさせない輝きを放っている。しかもこの二人の共演は初だ。マードゥリーは元々踊りの名手として知られており、ヴィディヤーも「Bhool Bhulaiyaa」で見事な踊りを見せた。この二人が一緒に踊る「Ami Je Tomar 3.0」は大いに話題になった。ちなみに、ヴィディヤーはマードゥリーの大ファンとして知られている。

 若い俳優陣も負けてはいない。カールティク・アーリヤンは「Bhool Bhulaiyaa 2」の大ヒットによって、若手俳優たちの中で頭ひとつ飛び抜けた存在になったが、その続編である「Bhool Bhulaiyaa 3」で前作を超えるヒットをたたき出し、大スターへの道を突き進んでいる。トリプティ・ディムリーも若手の注目株であり、「Bhool Bhulaiyaa 3」の成功は追い風だ。ただし、まだ演技に弱さがあり、さらなる訓練が必要だと感じる。スターとしてのオーラは出ている。

 物語の舞台になったラクトガートはベンガル地方とのことだったが、映画の中で「幽霊屋敷」として登場した宮殿の建築様式は明らかにブンデールカンド地方のもので、ロケはマディヤ・プラデーシュ州オールチャーのジャハーンギール宮殿で行われた。言語は基本的にヒンディー語であったが、時々ベンガル語のセリフや訛りが混じっていた。

 「Bhool Bhulaiyaa 3」は、ホラーコメディーのトレンドをヒンディー語映画界に持ち込んだシリーズの最新作である。やはりホラーコメディーはインド娯楽映画のフォーマットと相性が良く、一級品の娯楽映画に仕上がっている。しかも迷信の打破やLGBTQへの理解など、啓蒙的なメッセージも込められている。必見の映画である。