Yodha

3.5
Yodha
「Yodha」

 2024年3月15日公開の「Yodha(戦士)」は、1999年のインド航空814便ハイジャック事件、2001年の9/11事件、2004年の印パ平和会談などを緩やかにベースにしたアクション映画である。「YODHA」という架空の特殊作戦部隊の隊員を主人公にしている。

 プロデューサーはカラン・ジョーハルやシャシャーンク・ケーターンなど。監督はサーガル・アンブレーとプシュカル・オージャーのコンビ。二人は「Pathaan」(2023年/邦題:PATHAAN/パターン)で助監督を務めており、これが初監督作となる。主演はスィッダールト・マロートラー。他に、ラーシー・カンナー、ディシャー・パータニー、ローニト・ロイ、タヌジ・ヴィールワーニー、サニー・ヒンドゥージャー、クリティカー・バールドワージ、SNザヒール、チッタランジャン・トリパーティー、ミカーイル・ヤワルカル、サンジャイ・グルバクシャーニーなどが出演している。

 アルン・カティヤール(スィッダールト・マロートラー)の父親スレーンダル(ローニト・ロイ)は特殊作戦部隊「YODHA」の初代隊長で、アルンの憧れだった。父親が作戦中に殉職すると、アルンは父親の遺志を継いでYODHAに入隊し、各地で作戦に参加した。しかしながら、命令系統を無視してスタンドプレイすることで悪名高かった。アルンの妻プリヤンヴァダー(ラーシー・カンナー)は中央政府の高官であった。

 2001年、テロリストによってインドの航空機がハイジャックされる。その航空機にはインドを代表する原子力科学者アヌジ・ナーイル(SNザヒール)が乗っており、その護衛をアルンがしていた。アルンはテロリストとの交渉に当たったプリヤンヴァダーの命令を無視して行動し、ナーイルを守り切れずに飛行機から落とされる。インド政府はテロリストの要求に応じて収監中だったテロリストを釈放し、後にナーイルは遺体で見つかった。アルンは作戦失敗の責任を負わされ停職処分となり、YODHAも解散させられてしまった。

 アルンの仲間は転勤を受け入れたが、アルンは裁判で戦い続けた。プリヤンヴァダーとの関係は悪化し、二人は離婚に向かって進み始めた。

 2006年、パーキスターンの首相就任式にインドの首相(サンジャイ・グルバクシャーニー)が招待され、彼はイスラーマーバードを訪れていた。インドの代表団にはプリヤンヴァダーも同行していた。このとき、アルンは航空警備員を務めていた。アルンはデリーからドバイに向かう予定だったが、謎のメッセージと航空券の入れ替えにより、ロンドン行きの便に乗ることになる。そこでハイジャックの可能性を察知したアルンは、客室乗務員のライラー・カリード(ディシャー・パータニー)の助けを借りて犯人を特定し未然にハイジャックを防ごうとする。だが、アルンがハイジャック犯として疑われ、航空警備員SNディングラー(チッタランジャン・トリパーティー)に制圧される。

 そうこうしている内に副操縦士のアハマド・カリード(ミカーイル・ヤワルカル)が操縦士を殺し、飛行機をハイジャックする。アルンはアハマドを殺すが、実はライラーもテロリストの一味だった。たまたま乗っていたパイロットの卵ターニヤー・シャルマー(クリティカー・バールドワージ)が飛行機を操縦している間にアルンはライラーと戦い、彼女を殺す。飛行機はパーキスターンの新首相が礼拝をするモスクに突っ込もうとしていたが、それを回避する。

 パーキスターンの政権中枢に潜んでいたテロリスト、ジャラール(サニー・ヒンドゥージャー)は正体を現し、インド首相やプリヤンヴァダーを人質に取る。飛行機を不時着させたアルンはジャラールが待ち構えるジンナーホールに突入し、彼を殺す。そしてプリヤンヴァダーと抱き合う。アルンの活躍のおかげでYODHAは復活する。

 印パが親善の道を歩み出そうとしているときに両国の接近を好まないテロリストがそれを妨害しようとするというプロットで、先に公開された「Tiger 3」(2023年/邦題:タイガー 裏切りのスパイ)と似ていた。優秀ではあるが上官の命令を聞かないトラブルメーカーの兵士が従事した作戦に失敗したことでしばらく不遇の時を過ごすものの、汚名返上の機会を得て見事危機を救うという流れは典型的なお気楽アクション映画のそれであり、落ち着くべきところに落ち着く。だが、部分的には工夫が感じられ、デビュー監督コンビの将来性を十分印象づける作品になっていた。

 「Yodha」で目をみはったのはアクションシーンだ。映画の冒頭では、主人公アルンを紹介するために、2001年にインドとバングラデシュ国境地帯で彼が参加した作戦の様子が描かれる。そこでアルンはテロリストのアジトに単身突入してテロリストたちを次々に倒していくのだが、これがカメラアングルが目まぐるしく変わる長回しで撮られており、臨場感があった。振り付けは大変だっただろうが、それを見事にこなしていた。

 映画の中では2つのハイジャック事件が起こり、どちらにもアルンが関わることになる。最初のハイジャック事件は1999年に発生したインド航空814便をモデルにしているのは明らかだ。アムリトサル空港に着陸したハイジャック機を巡り、たまたま搭乗していたアルンとテロリストの間で攻防が繰り広げられる。2つめのハイジャック事件は2001年の9/11事件に似ている。テロリストは飛行中の飛行機をハイジャックし、それを目標に向けて墜落させようとした。飛行機という密室の中で緊迫感あるドラマが繰り広げられる。制御を失った飛行機が一回転することで客室も一回転し、その混乱の中でアルンがテロリストと戦うというシーンは非常に斬新だった。パニック映画の祖とされる「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)を思い出した。

 ディシャー・パータニーの使い方が面白かった。この映画のメインヒロインはラーシー・カンナーだ。デリー生まれの彼女は、デビュー作こそヒンディー語映画「Madras Cafe」(2013年)であったが、その後はテルグ語映画を中心にキャリアを重ねた。ヒンディー語映画出演は10年以上振りだ。一方でディシャーは「Baaghi 2」(2018年/邦題:タイガー・バレット)などに出演しており、ヒンディー語映画界ではラーシーよりも有名かつ格上だ。なぜラーシーがメインヒロインでディシャーがセカンドヒロイン扱いなのか不思議だったが、なんと彼女は隠れ悪役であった。しかもかなり軽い身のこなしでアクションシーンをこなしていた。意外な配役に意外な動きがあり、驚かずにはいられなかった。

 ラーシーが演じていたのがアルンの妻プリヤンヴァダーであった。彼女は泣く子も黙るインド行政職(IAS)の高級官僚である。指揮命令系統でいえば、アルンよりもプリヤンヴァダーの方が上だ。二人の出会いはほとんど触れられておらず、なぜ彼らが結婚に至ったのかは分からない。だが、こういう男女の在り方が描かれるようになったことに時代の流れを感じた。ちなみに「Article 370」(2024年)でもプリヤマニが有能な女性IAS役を演じていた。

 さらに、まだ駆け出しの女優クリティカー・バールドワージがパイロット・インターン生を演じていた。

 各女性キャラが立っていたとはいえ、映画の主人公はアルンであり、主演はスィッダールト・マロートラー以外にいない。良くも悪くも典型的なヒーロー振りを見せており、そこに演技の冴えみたいなものは感じなかったが、何でもそつなくこなせる俳優になってきている。アルンは、兵士として殉職した父親に憧れ、父親が初代隊長を務めたYODHAの再興に尽力するが、その姿を見せることで父子の絆を強調していた。

 「Yodha」は、2つのハイジャック事件を軸にしたアクション映画である。大筋はヒーローの挫折と復帰を描いた教科書通りの作品だが、細かい部分に新進気鋭監督コンビの個性が見え隠れする。残念ながら興行的には失敗に終わってしまったが、監督の今後につながる作品だと感じた。